お悩み社長
売手オーナーの中には、仲介会社にまるっとお願いすれば、良きに計らえで「うまいことやっておいてくれるだろう」と思っている方も結構多いです。
でも、これ気を付けた方が良いです。
素人コンサルタントも世の中にはたくさんいるので、売手がきちんと伝えないと全く理解されていないまま交渉が始まり、売手側がものすごく損をしたり、ものすごくリスクを抱えるような話にもなることもあるのです。
そもそもM&Aコンサルタントという人々は、自分で会社を作り事業を始めた経験を持っている人の方がかなり稀で、今まで全く他の業界で営業してましたみたいな人がいきなりM&Aコンサルタントになっていたりもするので、まずは「ちょっとM&Aをかじったゴリゴリの営業マン」くらいの見方をした方が実態に合っているような気がします。
仲介会社選びという点では、見せかけだけでない知識と経験のある担当コンサルタントを選ぶのが当たり前に重要なのですが、今日はM&Aを始める最初の段階できちんと伝えておかないと素人コンサルタントだったらスルーしてしまうことについて触れてみようと思います。
もし、既にM&Aをどこかの仲介会社に依頼しているのであれば、この辺の会話を最初にきちんとしたかな?という視点で読んでいただけるとよろしいかと思います。
それではいきましょう!
①節税項目をきちんと伝えた?会社の正常な収益力の計算はM&A価格にも直結
普通の中小企業であれば、何かしら節税をしていることが多いです。
誰だって税金はできるだけ払いたくないですからね(笑)
社長の自宅を社宅にしていたり、私的な用途で使う車を会社で買っていたり、保険で利益を繰延していたりと。
節税を考える、ということは利益が出ている証拠でもありますが、帳簿上はそう見えなくなってしまうのでM&Aを進める上では注意が必要です。
M&Aコンサルタントの中には決算書の数字を鵜呑みにしてしまう者もいるので、実際節税をせずに会社がどのくらいの利益を出せるかについては、結構細かく議論した方がよいです。
接待交際費も計上してるけど、実際仕事に関係しているのは2割くらいかな、とか。
新聞図書費で計上してるけど、基本的に自分の趣味の本だな、とか。
なんとなく昔からのよしみで顧問弁護士いるけど、トラブル無いし、顧問で月額報酬払う必要ないかな、とか。
この辺の感覚は売手でしか分からない部分も多いので、元帳など実際に支払っている証憑とセットで、M&A後にはこのくらいの費用が発生しなくなる、ということを合理的に説明できるとベストです。
これがきちんと説明できると、帳簿上は営業利益500万円だけど、M&A後はコンサバにみても1,000万円はいくだろう、という話ができるので、のれん3年分という計算だったとしたら得られるのれん額が1,500万円から3,000万円になる、と実際の手取額にも大きな影響を及ぼすことにもなります。
買手が買収する前には買収監査(デューデリジェンス)という調査を行い実際の収益力を細かく見ることもありますが、「え、この会社この無駄減らしたらもっと儲かるじゃん」と気づくことはあります。
でも、買手から売手に対して、もっと収益力が見れそうなので買収金額も増やしておきますね、なんて親切なこと普通言いません。買手だって安く買いたいのですから。
あと、売手がこういった控除可能経費などに後から気づいて交渉の土台にあげようとすると、爪を伸ばした印象を買手に与えることもあります。
なので、最初の段階で、売手発信で正常な収益力を伝えられるように仲介会社含めてきちんと話を詰めておく必要があるわけです。
ちなみに、一口に節税といってもその感覚はホントに人それぞれで、グレーなものでも経費計上している人がいたり、それって脱税じゃないか?というようなところまで攻めている人もいます。
攻めた節税は短期的な利益には繋がりますが、同時に税務リスクを増やすことに繋がりますし、会社ごと売却するM&Aであればこの税務リスクは買手に負わせることになります。
節税の会話を通して、その会社の税務リスクを見定めるということにも繋がりますので、この点は最初の段階できちんと指摘してもらえるコンサルタントを選びましょう。
例えば、社長の社宅で節税していることが理解できず「この社長個人から会社に払っている地代家賃って何ですか?」と聞いてくるコンサルタントは、お金の流れを適切に買手に伝えられるとは思えないので、どういう交渉になるかも心配です。
②簿外保険は売手が言わないと大損することも
上記の節税とも関係しますが、節税の為に加入している保険は漏れなく買手に伝えましょう。
民間の養老保険や経営セーフティネット共済など、節税の為に加入している保険を指します。
M&Aでは、その会社が持っている現金相当額は、株価と等価で考えることが多く、例えば、簿外保険を解約して現金が100万円増えるのであればM&Aで売却するときの株価も100万円増やすというのが一般的です。
※解約返戻金は益金になることもあるので、支払税額分だけディスカウントしたり、役員退職金で損益を相殺したりするなどはありますし、他の便益(M&A後の給与やオーナーへの地代家賃など)と総合的に判断して金額調整することもあります。
なので、加入している保険やそれを解約した時の返戻金の金額は絶対に漏れなく買手には伝えないともったいないです。
普通の仲介会社であれば株価算定や企業概要書の作成の際にヒアリングするのが一般的ですが、聞かれなくても売手から細かく言うくらいの方がよいと思います。
金額的には無視できないぐらいの額になることもありますので。
③固定資産の価値は時価をベースに考える
M&Aでは、固定資産の評価は時価をベースに考えます。
大昔に法人で買った土地でも、今は値上がりしているようであれば現在の土地の値段でM&Aの交渉をします。
(逆に、バブル期に買った高い簿価の土地でも現在価値での交渉になります)
簿価で交渉が進んでしまうと不利益になるような資産については、買手に打診する前にきちんと仲介会社とも妥当な価格を認識合わせしておきましょう。
また、例えば償却済みで簿価は1円になっているけど、まだ事業上使用でき、再調達価格も高価なものは、簿価以上の評価になることもあります。
例えば、旧式の工作機械にも関わらずかなり精度よく金属加工できるような機械をお持ちの会社が、簿価通りの1円で評価されてしまうとどうしても売手と買手の目線感が合わないといったケースで、実際に現在の再調達価格なども考慮して買手と交渉した結果、売手の希望に沿った条件にしてもらえた、なんて事例もあります。
その業界ではプレミアムの付く資産(再調達が高価な資産)なども世の中には存在するので、ここの伝え漏れで簿価通りの評価してもらえない、というのは売手にとってもったいないかもしれません。
仲介会社の中には業界特化の仲介会社なんかもいますが、この辺の価値判断までできるところはまずないと思った方がよいです。
ただ、注意点としては場合によっては買手もその価値が分からないケースもあるので、あまり独りよがりな主張にならないように注意しましょう。
「この機械はすごい想い入れがあって・・」といっても生産設備として価値があるか微妙だったら、M&Aの金額条件で評価してほしいという主張は買手にとって受け入れられないかもしれませんし、「この土地の近隣の土地で〇〇不動産が〇〇円で売り出ししてて・・」といっても、売出価格はそもそも売買が未成立の未実現価格なので時価とは異なりますし、買手にとって不動産は事業を行う上で必要な資産というだけで不動産の転売で儲けるつもりはないことが多いので、買手にとっては受け入れられない主張になるかもしれません。
本来仲介会社はここを上手く取り持つのが仕事ですが、中には「その資産はそんなに価値あるんですね!それではその条件で買手にあててみましょう!」と突っ走ってしまう者もいますが、買手に忌避される可能性も増え、結果買手候補先が少なくなってしまう可能性もあるので、安易に鵜呑みにする仲介会社も逆に不安だったりします。
最近は中古車価格も上がったりしているので、乗らない車はM&A前に売却して、現金化されたあとの試算表で株価を算定してもらった方がプラスになるかもしれませんし、買手も利用予定が無いけど、その業界では価値がある資産があればM&Aに売却するのもいいでしょう。
時価をどう捉えるかは買手によっても異なるところなので都度交渉を前提に考えるとよいですが、仲介会社もあまりよく分かっておらずに簿価で話が進んでしまうことで不利益を被るのであれば事前にしっかり伝えておかないと売手としてもったいないです。
④事業の競合優位性を見間違えると買手探しで難儀する
あなたの会社が、業界でどのくらい稼げているのか、それは他社と比べてどうか、なぜその差分が発生しているのか、他社よりも優れているのはどんな点か、など、事業についてはきちんと整理した上で買手打診をする必要があります。
筆者も大手の仲介会社にいましたが、どこまで業界研究をするかは、コンサルタントによっても、仲介会社によっても様々でした。
あるコンサルタントは、全く業界研究せず、とにかくスピード重視で案件化して買手打診を開始しますし、また、あるコンサルタントは、業種別審査事典を読んだだけで分かった気になっていることもしばしばです。
現在では、スポットでその業界に知見のある方にヒアリングするようなことも容易にできるので、企業分析の精度を上げることはできるのですが、仲介会社というのは「とにかくたくさん案件受託して、とにかくたくさん買手打診をして、たくさん成約させる」という荒っぽいノルマがあるので、仕組上あんまりここに時間を割けないのも事実です。
とはいえ、M&Aは企業分析を読み違えると、見込みの薄い買手にばかり打診をして、一向に買手とのマッチングが進まない(交渉も始まらない)ということになってしまうので、安易に省くべき工程でもありません。
仲介会社から「貴社の企業概要書を作成しました」と出された資料や、「貴社を買収する可能性があるのはこういう会社です」と出された資料を見て、「本当にウチの会社理解してんのかな?」と思う売手オーナーは実際多いはずですが、「まぁ、M&Aってよくわかんないしそんなもんかな?」と思ってしまうことも多いです。
想像以上に仲介会社は企業分析していないと思った方が誤解は少ないですが、成約を目指すのであれば丁寧に仕事をする仲介会社を選ぶのが間違いなく良いです。
⑤個人保証は売手がきちんと全部確認する
株式譲渡で会社を売却する場合、売手オーナーについている個人保証や個人資産への担保は漏れなく解除するのが一般的です。
ただ、これも売手がきちんと伝えないと解除漏れが発生してしまうことがあるので、最初の段階で全て調べるようにしましょう。
金融機関借入の個人保証であれば存在を忘れている人も少ないですが、リース契約の個人保証などで細かいものになってくると伝え漏れる人がたまにいたりします。
株を譲渡して経営権が替われば当然に保証が外れるというわけではないので、もし保証を解除できない時についても買手との交渉の最中に話し合っておくべきです。
株を持っていなくても代表取締役だったら個人保証を入れないといけない契約があるなら役付けについて協議しておく必要がありますし、金融機関が個人保証を解除してくれないなら買手が資金を工面して全額返済するなどの策を用意しておく必要もあるかもしれません。
M&Aは譲渡前に想定外のことが起こることも多いですが、事前に取扱いを確認しておければ想定外のことも減らせることも多いです。
「M&A後もこの責任が自分に残ってしまうのは困るな」と思うようなものは売手から全部伝えるようにしましょう。仲介会社は基本的に成約させて報酬を得るところまでがゴールだと思っている人も多いので、「こういうしこりが残るならM&Aはしたくない」など事前に意思表示しておくことはとても重要です。
いかがでしたでしょうか?
素人コンサルタントは論外ですが、多くの仲介会社は成約→報酬受領を高速回転させることがミッションなので、工数的にも忙しくなってしまい、結構雑に仕事をしているコンサルタントも多いです。
ただ、最初の作業で手を抜いたため、M&A交渉の後半やM&A後に問題が噴出することもありますし、そのリカバーは最初の段階で発覚しているケースよりも大変になります。
この辺は仲介会社のM&Aに対する姿勢であったり、コンサルタント個人の意識も関係しますので、仲介を依頼するのであればきちんと見極めた上で依頼するようにしましょう。
最後までお読みいただきありがとうございました!