前回の「【実践編③】仲介会社を使わず自分でM&A(プラットフォームに登録する編)」からの続きです。
前回記事を確認したい方はこちらからどうぞ。
【実践編③】仲介会社を使わず自分でM&A(プラットフォームに登録する編)
今回の実践編では、「サクッと売りたい」という方向けに自分で会社・事業を売る方法をできるだけ分かりやすくお伝えしております。
なお、毎度の留意点ではありますが、M&Aは100社あれば100通りの進め方になるくらい形式的に進めにくいところがあるので、あくまで一般的な例でお伝えしますこと、及び、ご自身で進める場合にはM&Aに関するトラブル等について当サイトでは一切の責任を負いかねますので予めご了承ください。
今回説明するのは、M&Aのこの部分の話です。
前回はプラットフォームに登録する、というところまででした。
色々下準備お疲れ様でした。ここからいよいよ買手との交渉が始まっていきます。緊張しますね。
交渉事が苦手な社長もいれば得意な社長もいるかと思います。
ですが、おそらくこれを読まれている方はM&Aを進めるなんて初めての方ばかりだと思いますので、十分注意しながら取り組んでいただけるとよい結果を生むのではないかなと思います。
是非、最後までお付き合いください。
それではいきましょう!
まずは交渉の流れを知っておく
まずは買手との交渉の流れを知っておきましょう。
簡単に説明するとM&Aの流れとしてはこんな感じです。
↓
交渉しても問題無い相手だったら、買手にNDA(秘密保持契約)を貰う
↓
売手から買手に企業概要書を開示する
↓
買手から質問があれば適宜答える
↓
直接話をしましょうという話になったら一度会ってみる
↓
買手が売手に条件提示をする(意向表明)
↓
売手がその条件に納得したらざっくり条件を両社で合意をする(基本合意)
↓
売手が買手の監査を受ける(買収監査)
↓
監査結果を踏まえて売手と買手で最終条件を交渉
↓
最終契約書を締結、譲渡を実行
この中で、交渉上、売手側が覚えておいて欲しいのは以下のポイントです。
・買手の監査は売却する会社の問題点を精査する場なので、最終条件は基本合意の条件よりも下がることはあっても上がることは無い
・最終条件が下がり過ぎて納得いかない場合は最終契約締結を断ってもよい
「もう訳が分からない!」という方、文字に起こすとなんだかややこしいようにも思えますが、意外とやってることは大したことではないので安心してください。
(監査というと堅苦しいですが、売手からしてみたら資料を出して質問に答えるだけの時間です)
要は筆者がここでお伝えしたいのは、M&Aというのは売手も買手もそれぞれがリスクを取り過ぎずちょうどよいラインで進める必要があるという前提では、こういう進め方が教科書的には良いとされていますよ、ということです。
もちろん、「監査?そんなもの必要ないから●●円で売ってくれ!」みたいな買手がいないわけでもないですので、サラッと話がまとまることも実際あると思います。
これは買手がリスクを負う行為なので売手としては別にいいっちゃいいのですが、逆に売手側が過度にリスクを負うような要求を受けてしまった時に「待った!一般的なM&Aの進め方からしたらそれはおかしい!」と言えるように、理論武装だけはしてほしいと思って、ここでは一般的な進め方をレクチャーしています。
何でもかんでも買手の言いなりになっていたら買手の都合の良い進め方で足元を見られた交渉を迫られることになりますが、かといって、何でもかんでも「リスクを取らない」とか言っていると買手に嫌がられて交渉相手がいなくなってしまいます。
買手が自らリスクを取るならそれはその判断に委ねるスタンスを取ることができる、一般的に売手が負うべきリスク以上のリスクを負っているなら折衝により正常なリスクに戻すことができるスタンスが取れる、ということが「交渉上手」ということになるわけです。
是非、交渉上手を目指して下さい!
話を戻して・・
前回の「プラットフォームに登録する編」ではTRANBI(トランビ)に登録してみましたが、買手から色々とメッセージが届くと思いますので、どういうところに向かって話をしているかがイメージできればとりあえずここではOKです。
ちなみにまだ登録が済んでいない方は前回記事をご参考下さい。
情報開示する前に秘密保持義務を買手に負ってもらう
売手側が自分の会社名も含めた秘密情報を買手に開示する前には秘密保持義務※を買手に負ってもらいます。
※書面の名前は、NDA(Non Disclosure Agreement)とかCA(Confidentiality Agreement)とか言いますが、内容は一緒です。受領した情報を外部に漏らしてはいけませんとか、お互いが渡した情報をM&Aの検討以外で使ってはいけませんといった義務を負う文言になっています。
これは、売手がお願いするようなものではなく、当然のごとく貰って良いものなので、「具体的なやり取りを始める前にNDAを下さい」ともれなく言いましょう。
「えー、そんな文章出せませんよ」とか言ってくる買手だったらもう交渉相手として考えなくて良いと思います。だって当然のごとく出すものだからです。
NDAも出せないということは聞いた情報を漏らします、と言っているのと同じなので、そもそもM&Aが目的で情報収集している訳ではないとも言えるからです。
ちゃんとした買手であればほぼ間違いなく提出してくれますし、場合によっては「NDAをきちんと依頼するなんてM&Aに知見があるのかな」と思ってくれる可能性もあるので、売手側としてはある意味牽制球的な感じのニュアンスにもなり得ます。
今回の実践編で紹介しているTRANBI(トランビ)のサイト上では、実名交渉申請を承認するボタンを押す際に秘密保持契約に同意する旨も承諾することになると思いますので、買手側の実名・秘密保持契約に同意したのを確認してから、こちら側(売手側)が実名交渉を承諾してください。
なお、買手の社名を見て「あ、この買手知っている!」ということも確率はかなり低いですがあり得ると思います。その場合、この買手に情報出すのは嫌だな、と思えばその段階で先に進めるのを中断してもよいです。
M&Aではネームクリアといって、売手が情報を出す相手を選べるルールにはなっているので、交渉したくない相手・情報を出したくない相手には情報は出さないでもOKです。秘密保持義務を負っているとは言え、買手側の経営者はあなたの会社の情報を結構知ってしまうことには変わりないので(でも、あまりビビり過ぎるとどこにも情報出さずにどことも話が進まないということになってしまうんですけどね。。)
実名交渉した上で、色々質問のやり取りが発生すると思いますが、粛々と情報交換をして、売却しようとしている会社や事業の買手としてふさわしいかを見定めるようにしましょう。
面談してみよう
買手とやり取りをしていて、お互いに交渉できそうだなと思ったら一度直接会話しましょうという話になると思います。買手からしてみたら大金を払うわけなので、顔も見えない人と交渉するのは怖いのは当たり前なので、ここからはネット上でのやり取りから直接のやり取りになってくると思ってください。
なお、新型コロナの影響もあり、最近では初回の面談はZoom(ズーム)などでWeb面談しましょう、みたいなケースも増えていますので、相手が遠方の方だった場合はそういった提案をしてもいいかもしれません。
なお、M&Aを進める際の費用は基本的に自己負担です。なので、相手との面談場所に向かう際の交通費は自己負担ですし、喫茶店でコーヒーなどを飲んだ場合は割り勘が基本だと思ってください。
一点、経費についての補足ですが、会社を売る株式譲渡の場合、「ここは私が払っておきます」といいつつ会社の経費として落とすと、結局その会社を買手が買う訳なので、実際は買手に負担になっている、なんてことがあります。コーヒー代くらいで目くじらを立てる人はあまりいないですが、豪華な宴席などの経費とかになってくると、目立ってくる可能性もあるので、一応経費で落とす意味合いについては認識しておいた方が良いと思います。細かい話ですが。
では、実際に買手と会った時、どんな話をしたらいいでしょうか?
こんな面談は普段無いので緊張される方も多いと思います。
M&Aの初回面談はだいたいこんな感じの話をしますので参考にしてください。
売手としては、今の事業をし始めた経緯、会社の紹介、M&Aをしようと思った背景。買手としては、会社の紹介、どういう方針でM&Aをしようと考えて、売手の会社をどのようにする構想があるのか
・質疑応答
単純にお互い聞きたいことを聞く
初めましてなので、例えば決算書の数字の部分などいきなり突っ込んだ質問をしないことも多いです(聞いてくる人もいますが)。ここでの目的は、直接会って相手の人となりを知るということと、どういう気持ちでM&Aをしようとしているのかについての考えをお互いに共有すること、くらいに思ったらよいです。
譲渡理由は正直に伝えること
売手としては、「M&Aをしたいと思った理由」についてどう伝えようかと悩む方もいると思います。
最初に言っておきますが、ここで嘘はつかないでください(笑)
「会社を売却してお金が欲しい」だったら別にそれを伝えるで良いです。M&Aというのは会社や事業を売買する取引なので、会社や事業をお金に換えるということは別に引け目に感じることではないです。
あんまりお金にがめつい感じが前面に出てしまうと買手に引かれるというのは言うまでもないですが、買手としては売手が売却価格を重要視すること自体に引いているのではなく、他の要素(従業員を大事にしてほしい、とか、取引先にはお世話になったから迷惑かけたくないとか)もあるのに「金!金!」となってしまうことに引いているわけです。
よくある売手の説明としては、「今までお世話になってきた従業員や取引先のことを考えてM&Aはしたいと思っているが、自分も今後の人生でお金は必要なので、取引条件については大事に考えている」という感じの伝え方ですかね。
M&Aは最終的に契約書という形で取引条件が明文化されるので、この最初の売却動機がブレブレだったりすると、契約書のキャッチボールをしている最中に、途中で言っていることが変わったように相手が捉えてしまい、その結果相手に不信感が積もっていき、最悪「怖くて買えないわ」という感じで破談になることもありますので注意しましょう。
余談ですが、仲介会社を使ったとしても、この辺の詰めが甘くて終盤で破談になることは結構あります。むしろ「高く売れるので売りましょう」みたいな感じのノリでコンサルタントが売手に説得することすらあるくらいなので、辻褄が合わなくなるのは当然と言えば当然かもしれません。買手の不信感が限界値を突破するか、売手が梯子を外すかで話が終了するのはなんだかお粗末だなと筆者は感じます。
いかがでしたでしょうか?
今回は買手との面談について説明してみました。
秘密保持契約など手続きとして知っておかないといけないことから、面談で話す内容まで、色々と大変ですが、買手との面談は一気に「M&Aするんだ!」と実感が持てるものですし、よい買手と出会えると自分の会社の将来が一気に開けた感覚になることもあるので、是非そんな経験をしていただければと思います。
最後までお読みいただきありがとうございました!
次回は、「基本合意をする」編です。
【実践編⑤】仲介会社を使わず自分でM&A(基本合意をする編)
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