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従業員に株配る前に知っておいてほしいこと

 

「よし!従業員へのモチベーションアップの為に株を配るぞ!」

 

ベンチャー企業であればこういう会社も多いかと思います。

生株を渡したり、ストックオプションを渡したりというケースなどがあります。

 

今回は資本政策の失敗例として、以下の話題を取り上げます。

・従業員に株を配りまくったために起こった問題
・モチベーションアップのためのストックオプションが裏目に出た話

 

それではいきましょう!

 

 

従業員に株を配りまくったために起こった問題

 

こんな話があります。

 

A社長は、従業員にも会社の成長に責任を感じてほしい、と従業員持ち株会を作り、管理職以上の従業員を中心に株を持ってもらっていました。

「いつか上場するから信じて買っておけ」、が口癖でした。

 

最終的には50名くらいの株主が生まれ、普通に1%以上株式を持つ従業員もゴロゴロいました。

 

そんな中、上場することもなく、かなりの月日が経ち、自信満々だったA社長も60歳になり事業承継のことも気になってきました。

 

A社長には会社を継いでくれる親族もいないのと、今までA社長はワンマンでやってきておりナンバー2も育っていない状態でした。

かといって、MBOをやろうにも金融機関さえ貸し出しできないくらいの会社の規模にもなっていました。

 

仕方なく、第三者へM&Aで譲渡しようと考えたA社長は、この時初めて気づきました。

「あ、うちの会社、株主がたくさんいて、自分の持ち分も過半数ないけどM&Aできるのか?!」

ということを。

 

中小企業のM&Aをずっとやっている筆者からすると、正直株主が多すぎる会社は少し厄介かもという感じです。そしてそれは買手企業にとっても同じ印象です。

 

もちろん、一回A社長や会社で株を買い戻す、ということが容易にできるのであれば良いのですが、毎期の配当金を期待している人もいるかもしれませんし、買い戻す行為そのものが何かしようとしているというメッセージを与えかねません。そもそもA社長もそんなにキャッシュ持っていないかもしれませんし。

 

仕方なくA社長は、現状のままM&Aを進め、最終的に第三者に譲渡した金額を株主に均等割で配ろう、ということで進めることにしました。

 

 

 

この話では以下のようなデメリットがあります。

・買手企業は基本的に過半数以上株の取得ができないとそもそも検討しないので、過半数分の同意が得られるよう、買手も決まっていない段階から他の株主を巻き込んで話をしないといけない。
・譲渡価格はM&Aすることを知っているメンバーで交渉するが、そこで決まった条件が他の株主に納得してもらえるかは最後まで分からない。
・売手企業と事業上関係ない株主に対して第三者へのM&A譲渡の話をすることは、情報漏洩のリスクもある。ましてや従業員株主なら不安に思って辞めてしまう可能性もある。
・株を持っていない従業員へは、株式譲渡完了後にディスクローズ(会社を売ったことを開示)する流れでいけるが、株を持っていた場合は、買い集めが必要なので株式譲渡前にディスクローズしないといけない。
・反対株主が出た場合も考慮に入れ、強制買取(スクイーズアウト)も意識する必要がある。基本的には90%以上の議決権は集めたいが、2/3以上がマスト。
・いい価格で売れたとしても、普通の従業員が結果大金を持ちそれに満足して退職する可能性もある。

 

色々と面倒ですね…。

 

なので、上場目指す路線から第三者へのM&Aに舵を切ると大変な部分はあります。
出来れば従業員に株を配る、というのは避けたいところではあります。

 

次の事例も見てみましょう。

 

モチベーションアップのためのストックオプションが裏目に出た話

 

B社長の会社は、名前は通っていないベンチャー企業。

B社長は優秀な従業員を集めたい。でも経営基盤も安定しておらずいきなり高い給与を支払うことはできない。

 

「なら、株を配ることにしよう」

 

ということで、面接時「弊社はストックオプションも計画している」旨を説明。

 

結果びっくりするくらいスペックの高い従業員を獲得することに成功。

そんなことが奏功し、業績も右肩上がりに。

 

そんな中、誰もが知る大手上場企業から「御社に出資させていただきたい。弊社のネームバリューで営業面にもプラスだろう」との打診が。

 

こんな良い話はない、ということでB社長の手持ちの株の譲渡と第三者割当増資を実行。このタイミングでようやく、社員にも株をということでB社長の生株を贈与という形で社員に譲渡。

 

「これでみんなで上場目指すぞ!」

 

とB社長。でも一年以内に会社の上位層が全員退職。なぜでしょう??

 

理由はこんなことが考えられます。

・第三者割当をした段階でかなりB社長の会社の株価が上がったため、贈与税の関係で結果渡せる株数が少なくなってしまった。
・B社長が自分の株を売ったことが周知の事実となり、利益確定しようとしている姿勢に従業員が失望した。

最後のは経営者として残念ですね。

 

自分は利益確定していて安全な場所にいながら、頑張ろうぜ!というのは実に説得力がなく見えてしまいますので難しいところです。

 

未上場会社にとってのストックオプションは使い方によっては、本当にモチベーションアップにつながりますが、中途半端にやってしまったり、伝え方を間違えると逆効果になってしまうこともあります。

 

株をどうするか、は、どのくらいその会社にリスクを負うかという裏返しでもあるので、言葉では計り知れない意図を感じ取られてしまう可能性もあるということです。

 

M&Aでは株式を売買するという取引にもなるので、都度慎重に考えたいものです。

 

いかがでしたでしょうか?

 

資本政策も色々ありますが、その後の展開もケーススタディしておくと同じ轍を踏まずにスムーズにM&AもIPOも実現できるかもしれません。

 

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