お悩み社長
最近でもいます。なんとなくコンサルタントの感じが良さそうだったからって契約してしまう売主・・。
筆者はこういうのは後で後悔することがあるからやめましょう、と言っていますが、M&Aは初めてだし、周りに相談できる人がいないからって”なんとなく”契約してしまう人が多いのも事実です。
「いや、私は今まで細かいことは気にせずに直感で物事を決めてきた」
という経営者の方も是非聞いてください。
M&Aいろは塾はこういうテイストで情報発信をしているので、契約にまつわるトラブルについてご相談いただくことも多いのですが、筆者としては「もっと契約する段階で確認しておいて欲しかったな~」と感じることが多いです。
今日は、分かりやすく、普通の人が分かる言葉で、仲介契約(アドバイザリー契約)ではこういうところを見ておきましょう、ということをお伝えします。
他の記事でも取り上げましたが、中小企業庁の施策でM&A支援機関登録制度も始まりましたので、「契約時にはこういう点についてきちんと説明しておいてねー」という内容もこれから明確になりますので、その点にも触れます。
本日の記事が参考になる方
・既に契約締結済みの方で、その内容について問題がないか確認したい方
それではいきましょう!
仲介契約(アドバイザリー契約)ってそもそも何??
仲介契約(アドバイザリー契約)というのは、簡単にいうと「あなたをM&Aの仲介者・アドバイザーに任命しますよ」というような意味合いの契約書です。
成功報酬、その他の費用、業務の範囲、契約期間、専任させるかどうか、禁止事項、などが書いてあります。
売手と買手両方の仲介をする場合は仲介契約書、売手・買手どちらかのアドバイザーをする場合はアドバイザリー契約書を結びますが、内容は似たような部分が多いです(なので、ここでは取りまとめて「仲介契約」というようにします)。
仲介の役割は、相手を探してM&Aの道筋をつけて契約合意までお供する、ということになりますが、仲介者と何の契約も無く、相手企業とマッチングしたり、最後まで進んだ後に、
「ん?手数料って何のこと??」
って売主に言われてしまうと、仲介者は今までの苦労が水の泡と化してしまうので、そうなる前の最初の段階(当然買手を探す前)にこの契約を締結するのが普通です。
中には着手金を取る仲介会社もありますが、成功報酬の仲介会社の方が多いので、「成約したら報酬は●●円下さいね」的な文言になっています。
「この契約を結ばずにM&Aのコンサルティングを進めてくれないの?」
と思う方もいるかもしれませんが、前述したようなリスクもあるので、普通の仲介会社は「弊社で動かれるのであれば弊社とまずは契約してもらわないと」という話になると思います。
ここは交渉を持ち掛ける場面ではないので、仲介とはそういう商売だと理解してその契約内容に着目して協議するようにしましょう。
ちなみに、2社以上の仲介を使って進めるような場合でも、「非専任」という形で仲介契約自体は結ぶことになりますのであしからず。
M&A支援機関が説明しないといけない内容
仲介を使ってM&Aを進めるなら、仲介契約を結ばないといけないことはご理解いただいたかと思います。
でも、この仲介契約書、基本形は仲介会社側に有利な書式になっていることが多いのです。
なので、「契約関係はバッチリ!任せといて!」という方でも、ちゃんと目を通していただければと思います。
まず、今回始まった「M&A支援機関登録制度」で説明を義務付けられている内容を分かりやすく説明します。
※詳しくは中小企業庁のM&A支援機関登録制度ページの「中小M&Aガイドライン」や「HP掲載・顧客説明の際の参考資料」にあるので、見ておくとよいでしょう。
参考 M&A支援機関登録制度(外部サイト)中小企業庁
仲介者とFAの違いは?
仲介は売手と買手両方の仲介者(売手と買手どちらか一方に有利なことを言ってはいけない中立的な立場)。
FA(アドバイザー)は売手と買手どちらかの助言者(自分が契約した側の有利になるよう相手方と交渉する立場)です。
M&Aを進めていると、「おまえ、どっちの味方やねん」という話になりがちなので、初めの段階で明確にしておきましょう、ということです。
ちなみに最近DMや電話の多いM&A業者というのは、ほとんどFAではなく仲介です。
それにも関わらず、M&Aコンサルタントが営業する時に、「御社が高く売れるように頑張ります!」とか平気で言っているコンサルタントも散見されますが、これはアウトです。
候補先をたくさんご紹介できるよう頑張ります、ならまだしも、売手と買手はそもそも利益相反なので、どちらかの得になりどちらかの損になりうる趣旨の発言は仲介者として不適切ですし、こういうアピールをしてくるコンサルタントを信用してはいけません。
きっとこういうコンサルタントは、買手には「できるだけ安く買収できるように頑張ります!」と言っていることでしょう。
以前こちらのような記事も書いてますのでご参考ください。
「高い株価算定を出すM&A仲介会社には逆に任せない」のが正解な訳
どこまでが業務範囲か
普通の仲介会社は、最初のご相談からM&Aの成約までの一連の流れについてのコンサルティングを業務範囲にしています。
この辺はあまり違和感は無いかと思いますが、例えば両社面談の場面で、”調整”や”立ち合い”を業務としているのか、”交渉”を業務にしているのかでは大きく役割が異なります。
基本的に仲介者は中立的な立場であり交渉はしないので、あなたがM&Aを行うにあたって、そういった立ち位置でも起用する必要があるかも考えるようにしましょう。
あと、ここは契約書には盛り込まれない可能性もありますが、最近、両社面談や監査に出席しない仲介会社などもいるので注意しましょう。
筆者が考える仲介者は、売手と買手で何が議題になっていて、双方のタイプを見ながらどういう伝え方をする必要があるのかを徹底的に考えて適切にコミュニケーションを取ることが求められるものと思いますが、面談にも出席しない、というのは自ら蚊帳の外に行くことになるのでそもそも論外な気がしています。
手数料はいつ、どういう基準で計算し、いくら支払うのか
手数料については分かりやすいと思いますが、どういう基準で計算していつ払うのかは確認しましょう。
「え?そんな報酬になるなんて聞いてない!」とならないように注意が必要です。
契約書上でも計算方法が明確になっているかは重要で、仲介会社側の都合の良い解釈で手数料が高くなるんじゃないの?と疑ってみるくらいがちょうどよいと思います。
また、成功報酬が、最終契約締結時の支払なのか、クロージング時の支払なのかも注意してください。
「最終契約締結時」というのは譲渡契約を締結した時点で、「クロージング時」は株や事業を譲渡した時点です。売主にお金が入ってくるのはクロージング時なので、最終契約締結時の支払になっていたりすると、譲渡代金が入る前に自分のポケットから手出しで払わないといけないので注意です。
秘密保持義務の範囲について
秘密保持はどのような契約書にも盛り込まれるものですが、過去、悪質な仲介会社が「秘密保持義務があるから、他にセカンドオピニオンを求めないでください」というような趣旨の主張をした事例もあり、この点は問題になりました。
売主の行動を制限することは不利益につながるので、この秘密保持についても少し解釈の範囲を広げましょう、という流れはあります。
買手の個社名やその内部情報は、こういった秘密保持義務で守られるべきなので、そこはしっかりと区別した上で、売主側もセカンドオピニオンが求められる余地があるような文言になっていることが望ましいです(例えば、顧問税理士や弁護士には士業専門家としての守秘義務もあるので相談してよい、とか)
専任なのか非専任なのか
仲介会社を1社だけに専任させるのか、複数仲介会社を入れるので非専任にするかは、基本的に売主の自由です。
ただ、この辺の内容を詳しく理解せず、安易に出された仲介契約に押印してしまったりすると、知らずのうちに1社の仲介会社の専任になってしまっており、あとから他の業者を入れにくくなってしまった、ということも起こり得ます。
なので、この点は仲介契約書で明確にしておかないといけません。
もちろん、「専任はダメ!」という話ではないので、本当に信頼できて任せたいということであれば専任で依頼しても良いと思います。
専任としてしまった場合で、しかも契約期間が長い場合、「仲介頼んだけど全然動き悪くない?」という状況になった時に、無駄に待つ時間が発生してしまうので、売主にとってデメリットになり得ることは理解しておきましょう。
ガイドラインでも契約期間は最長でも6カ月~1年以内を目安にしなさい、というものがあるので、これに準拠しているか確認するようにしましょう。
契約終了後に紹介を受けた買手とM&Aを成約した場合に仲介手数料が発生するか
これは「テール条項」ともいいますが、仲介会社から紹介を受けた買手といつまで契約したら手数料が発生するかの期限を定めたものになります。
わかりづらいですが、簡単にいうと、「仲介手数料払うのはアホらしいから、契約期間切れた後に、紹介してもらった買手とM&Aしちゃおう!」という行為を制限する為に設けられている条項です。
確かにこれをやられちゃうと仲介業は成り立たなくなってしまうので、条項自体は問題ではないですが、契約期間が切れた後いつまで手数料の支払いが発生するか、という点が問題で、ガイドラインでは最長でも2~3年までにしましょう、となっています。
あとは当たり前ですが、「仲介会社から紹介を受けた買手とだけ成約した場合に手数料が発生する」という点も確認しておきましょう。たまに、単に「M&Aが成約した場合に」みたいな曖昧な書き方になっています。
契約期間は妥当か
一般的にはM&Aの仲介を請負う場合の契約期間は1年程度で、契約終了時に交渉中のフェーズであれば、その交渉が終わるまでは契約が継続する、というテイストになっていることが多いです。
あまりに長期の契約になっていないかは特に注意するようにしてください。
筆者の感覚的には、そもそも1年以上成約しない案件の多くは「買手が見つからない」という案件なので、あまりむやみやたらに仲介会社が抱え込み続けるのはお互いにとってよくないと思っています。
中途解約できるか
強引なM&A業者につかまってしまうと、「やっぱりこの仲介会社は変えたい」と判断した後でも安易に解約させてくれなかったりします。
そのため、中途解約できるか否かもきちんと確認しておきましょう。
基本的に「気分が変わったからやっぱ売るのやーめた」という場合は違約金が発生したりするケースもあります。仲介会社も成功報酬で動いているので、途中でやっぱりやめたとなると商売が成り立たないところもありますし、買手を巻き込んだ上で検討をやめてしまわれたりすると買手との間で信用問題にもなるので、この点は理解してあげましょう。
ただ、「仲介会社が言うことを聞かない」「進捗を聞いても教えてくれない」「信頼関係が破綻している」とかであれば、違約金無しでも契約解除できるような余地はある方が良いと思います。
いかがでしたでしょうか?
他にも重要な点はまだまだありますが、必ず仲介契約を締結する時には、”話だけ聞いて納得した気にならない”ことが超重要です。
M&A支援機関登録制度が始まって、仲介会社が売主に対して、上で述べたような点についての説明をするようになるとは思いますが、仲介会社の中には適当に説明して、説明を聞きました的な書面にハンコを押させる会社も絶対出てくるだろうな、と筆者は思います。
どんなにいい感じのコンサルタントだったとしても、“契約書は別物”と考えて、シビアな目で見るようにしましょう。
最後までお読みいただきありがとうございました。