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「金融所得増税される前にM&Aした方が有利!?」手取額に大きい影響を与える株式譲渡の税金

お悩み社長

自民党総裁選で度々話題になった金融所得増税って中小企業のM&Aに関係あるの??

 

ちょっと政治的な話のようにも思いますが、中小企業のM&Aに大きな影響を与えるかもしれないなぁと筆者が感じたので、今日はこんな話題を取り上げてみます。

 

今日時点では、「岸田ショック」と言われる岸田首相就任後の株価下落を受けて、岸田首相が金融所得課税の見直しを当面の間先送りするという意向を示して、休み明けの株式市場が回復に転じた、というような感じですが、引き続きこの辺りの税制改定には関心が集まっています。

参考 金融所得課税見直しを当面撤回(外部サイト)Bloomberg

 

元々、株式譲渡益や配当金などの金融所得への課税については一律20%となっています(厳密には復興特別所得税含めて2037年まで20.315%)が、これを30%にしようというのが当初の議論です。

 

これは、年間1億円を超えるような高所得者層になると、年収が増えれば増えるほど所得税負担率が低くなるという統計資料を持ち出して、

「金持ちはこんなに税金で得してるんだから税金高くしないと!」

という理屈で税率を上げようとしている、という話です。

 

筆者としては、金融所得には逆ザヤになるリスクが伴う点で労働所得に対する課税とは別物だと思っているのでなんだかな~と感じています。また、今や普通の人が副業で株式投資をしてFIREを目指す時代なので、自民党がアピールしたい中間層が増税の対象になってしまっているような論じ方をしているというセンスの無さにも脱帽しているところです(笑)

 

詳しくは2022年度税制改正で議論するなどという話も出ていますが、まだどうなるか分からないという状況です。

 

一方で、M&Aで会社を売却しようとしている売手オーナーについてもこの動きに注視しておく必要がありますので、その必要性と対策についてみていきます。

 

 

中小企業のM&Aにどんな影響があるの?

 

現在金融所得に対する税率は一律約20%です。

これは、上場株式の売買益・配当金などの他に、非上場株式の売買益についても同じことが言えます。

 

なので、今から事業承継で会社を売ろうとしている中小企業の社長が、仮に1億円で会社を売った場合には約8,000万円が手取額となります(厳密には20.315%なのでもうちょっと少ない)。

 

給与所得としてかかる税金は社会保険料なども入れれば当然20%以上になるので、例えば会社に現金がたくさんあるような会社については、

「よし、残った現金を全部給与などで支払い終わったら精算しよう」ではなく、
「現金ごと会社を売却できれば、その現金と同額の金額に対して20%の税金を支払うだけで手取額にできる!」という選択の方が金銭的なメリットがあります。

 

そんな税メリットから、多くの売手オーナーが清算よりもM&Aを選択し、これまで中小企業でM&Aが盛んになってきたともいえます。

 

だからこそ、金融所得増税をすることでM&Aをした時の金銭的のメリットが弱くなり、結果、積極的に売主がM&Aを考えるモチベーションが低下することになるのでは?という話にもなりますし、中小零細企業の廃業による経済損失を解決しようという今までの政府の動きとはなんだか逆行してくる話になってきます。

 

まだ議論をしている内容なので、結果的にどうなるかは分かりませんが、中小企業のM&Aを阻害するようなことはしてほしくないな、と筆者は思います。

 

 

M&Aで売却を考えている人はどうしたら良いのか?

 

このような話をすると「金融所得増税される前にM&Aしよう!」と思われる方も多いと思います。

 

それはそうなのですが、中小企業のM&Aでは実務的に株式譲渡価格の一部を退職金としてもらうというのが一般的になっていますので、こういうものを有効に活用することで、金融所得増税の影響を軽減できる可能性もあります。

 

どういうことかというと、

 

会社の株式全部を1億円で売却することを売手と買手で合意した上で、株式譲渡対価と退職金の按分を、

株式譲渡対価 1億円   + 退職金 0円
株式譲渡対価 5,000万円 + 退職金 5,000万円
株式譲渡対価 2,000万円 + 退職金 8,000万円

など、合意の上で調整することがM&Aの中盤~終盤ではよくあります。

 

株式譲渡対価には20%程度の税金がかかり、退職金はだいたい数千万円以下であればそれよりも低い実行税率であることから、売手が「できるだけ退職金を多く・・」と希望されることが多いです。買手としても、退職金は法人の損金になるので、法人税等の節税にはなるメリットがあります。

 

※とはいえ、できるだけ高い退職金額を設定して税務署に後から指摘されると、支払側は全額損金不算入、受取側は給与所得扱いにされることで多額の所得税やら住民税やらが延滞税などと共に降りかかりますので、税務的に適正なところを税理士にも相談しながら決めていきましょう。

 

こうした按分調整で金融所得増税の影響を減らすことは可能ではあります(退職金は金融所得ではないですからね)。

 

また、株式譲渡と一緒に個人の不動産を買い取るようなケースでは、その買取価格もこういった他の対価(株式とか退職金とか)とセットで協議することが多いですので、それぞれの税金のかかり方を踏まえた上で、どういう所得としてもらうのが一番手取りが多いのか、は考えてみても面白いと思います。

 

もちろん、適正な価格から逸脱した設定をして税金を安くする、という発想自体、税務的には怪しいところなので、きちんとした専門家のアドバイスをもとに考えるようにしましょう。

 

M&Aコンサルタントの中でも経験のあるコンサルタントはこうした場面は何度も経験しているので適切なアドバイスはできますが、税理士ですら「この方法であれば絶対損金否認されません!」と言えるような論点なので、確定的なアドバイスをするコンサルタントがいたら注意してください。

 

 

いかがでしたでしょうか?

 

結局いつ金融所得増税するのかは分かりませんが、「私は株の売買とかやっていないから関係ない」という方でも、M&Aというのは株を売買することも含まれるので、今後会社を売却しようとしているのであれば注目しておいても良い話題かなと思う次第です。

 

最後までお読みいただきありがとうございました。

 

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