書籍「M&A仲介会社からの手紙は今すぐ捨てなさい」好評発売中

「一部出資させてくれない?」少数株主を入れたことで失敗する落とし穴とは

お悩み社長

知り合いの会社から「一部出資させてくれない?(一部株を売ってくれない?)」と言われたんだけど、これって断った方がいい

 

取引先から、もしくは、ベンチャー企業のように成長が見込まれる事業をしているケースでたまにあるのですが、会社経営をしているとこんな打診を受けることもあります。

 

どんな文脈でこれを言われたか、というのが超大事なんですが、一つ読み違えると結構危険な行為だったりします。

 

無難にいくなら、

 

「簡単に株は人に渡すな」

 

ですが、そもそも一部でも株を渡すとどうなるのか、ということについて想像力を持った上で話をした方がよいシーンもあると思うので、今日はそんな話題を取り上げたいと思います。

 

 

一部でも株を渡すデメリットとは?

 

まず、株を他人に渡すデメリットについて考えてみましょう。

(ここでは、事業承継のために親族に株を渡すというのは除き、血縁の無い第三者というイメージでお読みください)

 

一般に、中小企業の社長兼株主が株を他人に渡すと、教科書的にはこんなデメリットがあると言われています。

経営の自由度の低下

中小企業では、社長の一存で迅速な意思決定ができることが強みですが、少数株主が参画することで、株主総会などでの合意形成が必要となり、意思決定のスピードが遅れる可能性があります。また、少数株主が経営方針に対して意見を持つことで、社長の思うように経営ができなくなる可能性があります。

情報開示の負担増加

少数株主であっても、会社の財務状況や経営状況を知る権利があります。そのため、情報開示の頻度や内容が増加し、事務的な負担が増える可能性があります。
会社の情報が外部に漏れるリスクもあります。

株主間の対立リスク

経営方針や配当政策などを巡って、社長である株主と少数株主との間で意見の対立が生じる可能性があります。
中小企業の場合、株主間の関係性が悪化すると、経営全体に悪影響を及ぼす可能性があります。

株式の流動性低下

少数株主の株式取得により、株式の売買が成立しにくくなる可能性があります。

 

 

株主というのは会社の所有者なので、所有者が増えると争いも増える、というのは良くあります。

 

そして、大揉めした結果、一度渡した株を買い戻す、なんてこともあったりするくらいです。

 

会社法上も株主の立場は守られているので、「信用できそうだから」とか「裏切らなそうだから」とかそういう主観は一旦置いておき、今まで通りワンマンで会社経営したいという気持ちが強いのに株を他者に渡すというような行為は一旦立ち止まって考えた方が良いでしょう。

 

また、そもそもどういう文脈で「出資したい」と言ってきたのか、は一番気にしないといけません。

 

もっと企業規模が大きくなったら上場するだろうから早めに出資しておきたいという理由なのか、対外的な見え方の部分での理由なのか、はたまた他の理由を持たれているのか・・。

 

ここをはき違えると後で揉める原因になるので、余程意思疎通ができ、意気投合しないとやはり先々に不安の種を残してしまいます。

 

 

M&Aする時に弊害になることも

 

会社の株式を他者に全部売って子会社になろうというM&Aのシーンにおいても、少数株主が散らばっている会社というのは売りにくくなってしまうケースもあります。

 

筆者はM&A仲介の仕事を長らくしていますが、売主から決算書や株主名簿を受け取り、多数の株主が存在していることを知った時、こういう風に思います。

 

「こんなに株主いて意見がまとまるかな・・」

「買手は嫌がる株主構成だな・・」

 

中小企業の場合は、社長兼唯一の株主というようなケースも多いのですが、そういう場合は第三者に100%株式譲渡する際の判断はとってもシンプルです。

 

なぜなら、その社長兼唯一の株主がM&Aの条件に合意すれば、少なくともM&Aの履行は基本的になされるからです。

 

でも、株主が散らばっている場合は違います。

 

他の株主も含めてM&A条件に合意してもらって売却に応じてもらわないと買手の目的が達成できないケースもあります。

 

大抵の買手は「2/3以上」とか「過半数以上」の株を取得して、買収する会社の主導権を握りたいと考えているわけですので、一部の株主が反対してその株数が回収できなくなるというのは懸念材料とされますし、お金をかけて監査した結果交渉が決裂するとその監査費用が無駄になってしまうので、分散している株主構成の相手というのは交渉を進める際の心理的な障壁になります。

 

もちろん、数%とか、多くても1/3未満のマイノリティが買い集めできない程度であれば、強制的に株を買い取る方法(スクイーズアウト)は存在しますが、シンプルに面倒な手続きにはなるので、同じような買収対象企業が他にありそちらが単独株主だったのなら、そちらを選びたくもなるでしょう。

 

また、どんな株主がいるのかも重要です。

 

従業員持ち株会のような形で株を持たせている場合、買収対象の社員が株主ということになるので、ハンドリングを誤ると買収後の社員の不満・離職に繋がるなどのリスクもあります。仮に取引先が株を持っているような場合も、やはりそのハンドリングを誤ることで取引の消失に繋がるリスクなどもあります。

 

一例ですが、筆者が以前接点を持った買手企業が「まずは業務提携から始めて、次に一部出資。最後に全株いく」というスタンスであることを話してくれました。こういう感じで徐々に出資する割合を高めていく買手もいるわけですが、戦略的、というか、打算的、というというか、一部出資するというのは、いわば全株取得まで「ツバをつける」みたいなニュアンスも買手によっては持っていたりするところもあるわけです。

 

一方で、中小企業投資育成が株持ってるくらいだったら、まあ条件次第でキックアウトできるのかな・・、とか感触としては色々です。なのでどんな属性の株主が他にいるかが大事なのです。

 

ちなみに、成長企業が上場を目指す過程で株主が増えていき、最後には上場するみたいなこともありますが、実際には全部の会社が上場できるわけではないので、中には色んな株主の期待と出資を背負ったけど、上場審査に通らず最終的に上場を諦める、なんてことも日常茶飯事です。

 

そういうケースでは、上場を期待していた出資者が損切を図りたいと思っていることもあるので、色々な株主が損切目線でM&A条件を検討するというようなケースもあったりしますね。

 

安易に株を渡すのはNG

 

ここまでお伝えしたように、自社の株を安易に渡すというのはリスクも伴うので、余程腹落ちできる理由で意思疎通ができるような環境でないと色々な制約が出てきてしまい危ないともいえます。

 

どの会社もM&Aしたい訳ではないと思いますが、会社の後継ぎがいないとか、後継ぎがいても株を買い取る資力や、債務の保証能力がないといった時にM&Aは役立つスキームにはなるので、その際障壁になるようなものは作らない方が得策です。

 

ちなみに、世の中のM&A会社といわれる会社は大抵の場合「全株売りましょう」という感じで接してきます。

 

これは、売主のことを考えてこういうことを言っているわけではなく、大体はこの2つの理由によるものです。

①少数株式を買い取る買手を探すノウハウがないから

②取引額が低くなってしまい手数料が稼げなくなってしまうから

 

特にM&A会社は取引額に応じて手数料を設定しているケースも多いため、自分の利益のために売主に全株売ってほしいという感じの対応をしていたりします。

 

だから、「M&Aしない」か「M&Aするなら全株売るか」という2択を迫る感じですね。

 

ここはもうちょっと顧客側の立場に寄り添って、リスクも伝えた上で判断してもらう、というのが本来あるべき姿かな、と筆者は思います。

 

今回のような話題は中々相談相手に困る部分も出るかもしれませんが、色々な専門家に相談しつつ決めていきましょう。

 

 

最後までお読みいただきありがとうございました。

筆者へのご相談、ご質問については下のお問合せフォームよりお問合せ下さい。

お問合せ

    お名前任意

    メールアドレス必須

    お問合せ内容必須

    スパムメール防止のため、こちらにチェックを入れてから送信してください。