お悩み社長
売手オーナーさんの中にはこんな風に思っている方もいると思います。
M&Aという大仕事を任せるんであれば大きいしっかりとした会社でないと、という気持ちも分かります。
ただ、「大きい仲介会社」=「しっかりとした会社」=「きちんと仕事をする会社」とは限らないので、きちんと見定めておく必要があります。
実際、きちんと比較せず、仲介会社を選んでしまったばっかりに後々揉めたり、後悔している方も、M&Aいろは塾への相談者の方の傾向を見ると増えているような気がします。
この辺については、M&A業界がどうなっているかを説明することで、適切な業者選びができるようになるのではとも思いましたので、ここではそんな内容をまとめてみようと思います。
それではいきましょう!
小規模な仲介会社は多くが大手中堅仲介会社からの独立組
まず、小規模な仲介会社とはどういう経緯で出来ているかという話です。
色々なM&A仲介会社が一度に現れ、企業間競争に勝って規模が大きくなっていったのが大手のM&A仲介会社か、というとそうではありません。
ここにはちょっとした歴史がありますが、ある一社の仲介会社が源流だったりします。
その仲介会社のノウハウが拡散された後、新興の仲介会社などが積極的な電話営業などを行い”会社を売る”というセンシティブな内容を電話で営業するというような不動産営業のような雰囲気が主流になってきました。
最近上場した仲介会社の幹部や、中堅仲介会社の代表なども源流となっている仲介会社出身です。
どの仲介会社の企業概要書や株価の簡易査定を見ると源流となっている仲介会社っぽい名残があるのはこういった背景によるものです。実際、某中堅仲介会社のクロージングパッケージ(譲渡実行時に使用する会社法上の手続き関連書類)は、大元の仲介会社のクロージングパッケージに近い書類を各社持っているのはこういう影響かもしれません。
今は、源流となっている仲介会社が規模を拡大しつつ、それを二世仲介会社が追随している感じの構図ですが、この競争は単にコンサルタントを大量採用して、迷惑お構いなしに売手に営業を仕掛け、高額な仲介手数料を取っていく、という競争に過ぎないので、「なんかこれおかしくない?」と思って独立したコンサルタントは、きちんとした能力がありながらも適正料金で仲介を行っていたりもします。
以前筆者が作成したM&A業界のイメージ図です。
小規模M&A仲介会社というのは、その多くが大手中堅から独立して設立された会社であることが多く、大手中堅を真似て営業をガンガンして高い手数料を取る仲介会社もあれば、大手中堅のやり方に疑問を感じて、高い倫理観で仲介をするという会社もいるという感じです。
筆者はこのような仲介会社の代表者と会話する機会も多いのですが、こんな声も多いです。
「部下の育成ではなく、プレーヤーとして稼ぎたいから独立した」
「自分は売上を作り会社に貢献しているのに、売上も作らない他の社員にそれを分配するのが納得いかないから独立した」
「人を騙して稼ぐようなやり方に正直疲れた。全うな商売がしたいから独立した」
大手中堅でも活躍できる人材でありながら、組織のやり方が合わずに独立して仲介を始めるという方が筆者の周りには多い印象です。
業界未経験者はまず大手中堅の仲介会社に入社することも多い
M&A仲介におけるトラブルというのは、M&Aコンサルタントの能力・経験・倫理観の欠如によるところも多いです。
M&Aのトラブルを避けたいから大手の仲介会社を選ぶ、という方は、M&Aコンサルタント未経験の求職者はまず大手中堅の仲介会社に入社する可能性が高いという事実を知った方が良いと思います。
求人数は大手の仲介会社の方が大規模なものになるので、おのずと転職者は大手仲介会社に流れがちです。
M&A仲介業というのは基本的に労働集約型のビジネスなので、売上を上げようと思ったら人を大量に採用して、仲介手数料をできるだけ高くする必要があります。
大手中堅の仲介会社は、業界経験者・未経験者問わず、営業が得意な人材をたくさん採用するということから、求人情報を調べれば大手中堅の仲介会社の求人が目立ちますし、実際に採用する人材の数も多いです。
一方、小規模な仲介会社は、そもそも拡大志向でない会社もありますし、どちらかというと即戦力が欲しい傾向があるので、未経験者をたくさん採用するということはあまり無いです(教えるだけの余力がないというのもあります)。
このようなことから、M&Aコンサルタント未経験者は大手中堅に入りやすい傾向があります。
また、前述の通り、大手中堅から独立する人も多い事情もあるので、穴埋めする意味でもどこかから人を補填する必要があり、一層採用が強化されることになります。
この結果どうなるか、というと、大手中堅には能力・経験が不足している新米コンサルタントが多く在籍することになります。
コンサルタント1人当たりの成約件数の平均は上場仲介会社でも1件程度、少ない仲介会社だと1件未満の数値がIR資料で確認できますので、経験値的にも不安が残るコンサルタントも多いと客観的に言えます。
筆者の経験上も、M&A仲介においてあり得ないようなミスをする、というの割と大手中堅の方が多い気もします。
案件受託したさにめちゃくちゃ高い株価算定を出してしまって結局成約しなかったり、ネームクリアを理解しておらず買手に打診してしまった後に売手に「その買手には打診してはダメ」と言われたり、最終契約締結前に従業員にカミングアウトしてしまったり、と。
新米コンサルタントというのは、本当にどこに走ってくか分からないものです。
大手中堅の仲介会社はコンサルタントにとって修行をする場とする者もいる、ということを考えると、そんな実験台にされたくないという方は新人コンサルタントに任せるべきではないですし、そういうコンサルタントが多く在籍している仲介会社は使わない方が良いと思います。
総じて大手中堅の仲介会社の手数料は高い
大手中堅の仲介会社はこちらの記事でもまとめた通り、概ね最低報酬額で1,000万円~2,500万円とかなり高額に設定されています。
「M&A仲介会社の手数料一覧表」決定版!!
業界未経験者に対応されたとしてもこの手数料なので、「詐欺だ」と言われる方もいらっしゃいます。
重要なポイントとしては、大手中堅の仲介会社は「コンサルタントの質が高いから高額な手数料にしている」わけではなくて、「自社のイメージであればそのくらい取れるだろうという考えで高額な手数料にしている」という点です。
DMなり電話なりで売手を説得さえしてしまえれば、案件の囲い込みはできてしまう商売なので、全てのお客さんに手数料の妥当性を訴える必要もありません。仮に99人が「ぼったくりだ」といっても、1人が納得してくれて仲介を任せてくれるならそれでよし、という発想で商売をしています。
筆者はこれはどうかと思いますが。
大手中堅の仲介会社が、大量採用→大規模営業→高額な手数料を徴収→大量採用、のサイクルで規模を拡大していますが、大量採用する際には「成功報酬の●%はインセンティブとして受け取れます」みたいなアピールを仲介会社側が行い採用している前提も多いので、成功報酬が下がると離職に繋がります。よって、仲介手数料を容易に下げるわけにもいかず、高額な仲介手数料で騙し騙し続けるしかないという感じにも見えます。
ある意味、100人の内1人でも「大きい仲介会社だからしっかりやってくれそう」というイメージで仲介会社を選んでしまうと大手中堅の手数料は永久に下がらない、みたいな構図にもなっているので、売手オーナー個人個人が賢くならないと業界も変わらないかと思います。
不誠実な営業は会社の規模関係なく行っている
M&A仲介会社は規模に関係なく「会社・事業を売りたい」という方に依頼してもらえなければ普通は商売が成り立ちません。
そのため、売手から依頼が無い仲介会社は、仲介会社側から売手見込み先に営業をかけるしかありません。
買手もいないのに手紙を送ってきたり、わざと株価査定を高くしてその気にさせたり、いいことばかり言ってM&Aさせようとする営業もそうですが、こういった不誠実な営業を行うのは大手仲介会社でも小規模仲介会社でも一緒です。
「買手もいないのにその気にさせるなんていい加減な業者だ」と思う方は、そういう仲介会社を選ばないに尽きるのですが、これはどちらかというと会社としてのモラルの話なので、仲介会社の規模はあまり関係ありません。
ただ、残念なことに、売手の立場では、ただ待っているだけだと強引な営業をする仲介会社との接点がどうしても多くなってしまいます。それは、強引な営業をする仲介会社の方が大規模かつ網羅的に営業をかけるためです。
本当に紳士的な仲介会社を探すには売手自らがいろいろ調べる必要も出てくると思いますが、それも結構難しいと思いますので、筆者はこのM&Aいろは塾で色々情報発信をしているという形にしています。
冒頭に日本のM&A仲介の仕組みを普及させたのは某大手仲介会社が源流とお伝えしましたが、その会社もモラル面が低いまま従業員をアメとムチで動かせた結果、不正会計や顧客資料の改ざんをした事件も発生しているので「M&A業者が信頼できん」という方にとっては仲介会社選び自体が難しい状況でもあるといえます。
買手の探し方は会社の規模に関係なくだいたい同じ
買手探しの面で、小規模仲介会社は頼りないと思う方もいるかもしれません。
仲介会社によって買手探しの方法は異なるので何とも言えませんが、これも大きいからいい、小さいからダメというわけでもないです。
大手中堅の仲介会社でも担当者がサボっていたらいつまで経っても買手なんて現れませんし、先ほどお伝えした仲介手数料を下げられないという事情から、同業他社との連携で買手を探すみたいな幅も狭まってしまうので、自社で探索できなければお蔵入りなんてこともあります。
小規模でも過去の国内のM&A成約実績データや、帝国データ・商工リサーチなどのデータから買手候補先を探索する会社もありますし、M&Aプラットフォームや同業のネットワークから幅広に探索できる会社もあります。
筆者のイメージですが、リスト打診をするスピード感は大手中堅の方が人海戦術で早く、M&Aプラットフォームでの候補先探しはどちらも一緒だけど仲介手数料が安い小規模仲介会社の方が買手が増えて話が進みやすく、同業との連携という意味では小規模仲介会社の方がしがらみがなく動きやすい、という感じです。
候補先リストの作成にはM&A仲介の経験値が物をいうので、仲介会社の規模というより作成するコンサルタントの質が重要です。
正直、M&A業界というのは同業内での転職も多いので、長年仲介会社内で蓄積してきた買手リストみたいなものもいつの間にかどの仲介会社も似たようなものができていたりします。リストの持ち逃げがあったかもしれませんし、転職したコンサルタントの頭の中に入っているかもしれませんが、最近ではあまり「●●という買手は●●という仲介会社しか知らない」みたいなことは少なくなっていますので、買手の量ではなくて買手の探し方を気にしながら仲介会社を探す方が良いかと思います。
【結論】イメージ重視なら大手、質とコスト重視なら小規模な仲介会社
ここまで読んで、手数料が高くても大手仲介会社の方が良い、と思う方はそれでもよいかと思います。
大手だから安心という考え方は好みに近い部分ですので、規模に安心感を覚える方はそういう選び方もアリだと思います。
筆者は、良い小規模仲介会社を手数料安く利用して手取額を増やすことで納得感が高いM&Aができると思う方ですが。
一応補足ですが、小規模仲介会社の中には、経験がなく「M&Aってなんか儲かりそうだからちょっと始めてみた」という者もいるかもしれませんで、手数料の安さだけで選ぶのは危険です。
中には怪しい業者もいますので。
最後までお読みいただきありがとうございました!