お悩み社長
売手オーナーさんが会社を売ろうと仲介会社に相談に行った際、仲介会社によっては「仲介契約を締結する際に着手金のお支払いが必要です」なんて言われることもしばしばあります。
法律で着手金を徴収することがOKなのかNGなのか決まっている訳ではない(そもそも仲介手数料の決め方自体に規制が無い)ので、着手金を取る会社と取らない会社色々出てくるわけです。
実際、M&A仲介会社の中でも着手金ってとるべき?とらないべき?と議論される機会が多いです。
着手金の良し悪しについては仲介会社によって言うことが全然違い、自社に有利になるようにポジショントークするコンサルタントもいます。なので、仲介会社のホームページや資料、担当者の会話だけ聞いていると逆に混乱してしまうことも多いと思います。
ここでは客観的にみてどうかというのを両方の意見を踏まえて考えてみたいと思います。
それではいきましょう!
「着手金を取るべき!」という意見
本気度を確認できる
「着手金を取ります」という仲介会社の言い分として一番多く聞かれるのは、着手金を払ってもらうことで本気度を確認するという理由です。
売手については、成約しなければ手数料が発生しないのであれば「とりあえず始めてみるか」で検討する人が増えてしまい、途中で「やっぱり売るのやめる」という人が増えてしまう可能性がある、という指摘です。
また、買手については、冷やかし半分で検討しようとする会社を選別できる効果も期待できるという指摘もあります。
ただ、「真剣さを示すために着手金払ってください」という理屈だけで着手金を請求されると、お客さんの立場からするとあまり腑に落ちないという意見もあるようです。
着手金を取らないと何としても成約させないといけなくなる
これも、よく着手金を徴収する仲介会社が着手金無料の仲介会社を評価するときに言う内容です。
例えば完全成功報酬(M&Aが成約しないと仲介会社の売上が立たない)であれば、何としても成約させようとするので、金額やその他の条件面で当事者が不利になろうと強引にM&Aを勧めてくる、という指摘です。
以前、仲介会社大手のストライク社が、着手金を中間金に変更したことがありましたが、その際はこんな意見もありました。
着手金を無料にすると入口のハードルは下がりますが、成功報酬への期待値が上がるので合意への圧力が強くならないか心配。また当時者の会社の姿勢(本気でM&Aに取り組むつもりがあるのか)も問われます。
ストライク、M&A仲介の着手金を無料に:日本経済新聞 https://t.co/zClcrgtPkf
— 萩原貴彦 弁護士/事業再生 (@h2gr_l) July 5, 2021
また、一部の仲介会社の意見としては、成約させることが目的になると本当にマッチする買手ではなく、成約しやすい買手を連れてくるのでは?という指摘もあります。
仲介会社が真剣になれない
着手金が無いと、仲介会社も適当に仕事をしてしまう、ということで着手金を請求する説明をしているコンサルタントもいます。
この理由については「プロだったら着手金があろうがなかろうが完璧な仕事をするのが当たり前」という反対意見もあったりします。
「着手金無料で適当な仕事をされては困る!」と共感するお客さんもいれば、「真剣かどうか」というのは客観的に判断するのは難しいことから「真剣かどうかなんてどう判断するんだ?」と疑問を抱くお客さんもいたり様々あるような理由かもしれません。
実費として必要になるから
人が動く以上は人件費がかかるので、着手金としてその費用を前払いしてください、という理由です。
どのような会社でも人件費は存在するので、特にM&A業界に限った話ではなく比較的理解は得やすい説明だと思います。
ただ、一律着手金〇〇万円、みたいな出し方をすると「本当にそんなに人件費がかかるの?」という別の質問に繋がる点や、あんまり実費でいくらという議論を重ねていくと、成功報酬があまりにも高額な点について説明できなくなってしまう仲介会社も多いため、敢えて仲介会社の実費に触れる話題を避けている会社も多いと思われます。
「着手金を取らなくてもいい!」という意見
着手金は仲介会社にとって、もらえないよりもらえた方がいいものなので、「着手金いらない!」という意見は無いですが、「着手金無くてもやります!」という仲介会社は多いです。
お客さんが嫌がる
着手金を取らない仲介会社で一番多いのではと思われるのは「お客さんが嫌がる」という点です。
実際、今では着手金を取る会社の方が珍しいくらい着手金無料の仲介会社が多いので、「着手金を取ることでお客さんが逃げてしまうのでは!?」という点を懸念して、着手金を取ることについての抑止力が働いている面もあると思います。
こういった感じで着手金があることでM&Aをためらう、という方も実際にいたりするので、間口を広げるために着手金を無しにしていますと言う仲介会社もいます。
ぼくも会社のM&A仲介してる会社の人と会ってきたんですけど、着手金で100万取られるし、成果報酬も間で抜かれるの気持ち悪いなと思って辞めました。
— Renkatakura (@wakuwakucamera) January 28, 2019
成約させないとビジネスにならないのは着手金取ろうが取ろまいが一緒
「着手金を取らないと、何としても成約させようと強引に進める」という着手金を取る側の意見に反対する意見で、「M&Aでは成約時の成功報酬が一番大きいので、着手金を取っても結局は成約させるために強引に進めるリスクは変わらない」という意見もあります。
また、「返還不能な着手金を払わせることで、契約合意することに対して損得勘定が生まれてしまい、仲介会社の圧力で押し込まれやすくなってしまう」という指摘もあったりします。
この議論は、着手金の有り・無しでお客さん側と仲介会社側でそれぞれどういうバイアスがかかるのか、というのを切り分けて考えるのが良いかなと思います。
着手金が無くても商売が成り立つ
実際着手金を取らない会社でも、成功報酬の金額が大きいので商売として成り立つという意見もあります。
成功報酬額も法律等の規制が無いので自由に決められることから、「着手金は取らないけど、成功報酬でたくさんもらいます(最低報酬額を高く設定してます)」というスタンスの会社も多いです。
で、どっちが正しいの?
着手金有り、無しについては仲介会社の方針によるところなのでどちらが正解というものはありません。
仲介会社が、自社のポジションからM&A仲介業というものをどう捉えて、どういう営業方法がよいか、という考え方が分かりやすく出る部分くらいにイメージするとよいでしょう。
M&A仲介を実際に行っている筆者の素直な意見としては、「着手金は成功報酬に比べると比較的少額だから、収益の事を考えると絶対取らないといけない程ではない」、「でも、確かに気持ちがフラフラしているようなお客さんもいるのでM&Aをする自覚を持つようなきっかけは必要」という風に思います。
お客さんの気持ちを固める、気持ちを確認する、ということは必ずしも着手金を取ることだけではないとは思いますが、不誠実なお客さんや興味本位でM&Aを検討するお客さんが増えてきたら、仲介会社がタダ働きする機会が多くなり、結果着手金のようなリトマス試験紙を導入しないといけなくなってくる、という風潮ができやすくなることも想像できます。
また一方で、売手の数に対して仲介会社の数が多ければ多いほど、当然仲介会社間の競争は激しくなり、「着手金を設定すると案件が取れない」という懸念から案件獲得のために着手金を無料にしよう、という会社が増えるのもの事実と思います。
全体的な話でいえば、M&Aをする側の人のモラルや需給関係によっても、仲介会社が設定する手数料が変わってくる可能性があるということですね。
着手金は、お客さんの立場からすると「なければ無い方がいい」とは思いますが、もし払うのであれば「かなり気を付けて払う必要があるもの」です。
M&Aを仲介会社に依頼して成約する確率は意外と低いです。明確な数字は無いですが成約率50%以下みたいな会社も結構多いと思います。
成約しない会社がほとんど、ということも無いですが、全ての会社が成約するわけではないです。
確率的には払い損になるリスクも高いので、着手金は払い捨てするくらいのイメージをしておかないと後々後悔するものだと思っていた方が良いです。
ちなみにこんな記事もありました。
・後継者難の企業から着手金だけ受け取って放置する業者の存在
・経産省は悪質なケースの通報窓口を設置
・報告のあった業者は登録の解除を検討中小M&A仲介、悪質業者は補助金停止 事業承継促進へ: 日本経済新聞 https://t.co/ybR3aQT7Wk
— 白土文也(弁護士) (@BunyaLawoffice) January 7, 2022
後から「何にも成果ないんだから着手金返せ!」と言っても、「仲介会社が何もしてない」ということを立証することは現実的にかなり難しいと思います(売主が見えないところなので)し、そもそも着手金を払ったから本当にきちんと動いてくれるという確証はないことが多いので、着手金を支払うことは相応にリスクがあることは理解しておいた方が無難だと思います。
着手金よりも重要な部分を見るべき
着手金があるからどうか、という部分よりももっと重要な部分に目を向けることを筆者はオススメしています。
例えば、必要以上に高い株価を見せて売手オーナーの気を引き仲介契約を取ろうとする、という仲介会社の行為は、売手の高い希望条件に繋がり、ひいては買手に割高な金額を交渉しにいくことに繋がります。
これは着手金取る取らないとは比にならないくらい成約率を押し下げる原因になり、本来であれば相手がみつかるような案件でも希望条件が高すぎて成約できないという案件が数多く生まれてしまう原因になったりします。
なので、むやみやたらに「高く売りましょう」とけしかけてくるコンサルタントや、複数の仲介会社の中で突出して高い株価を出してくる仲介会社には気を付けた方が良いです。
本当に悪質な仲介会社は、現実みの無い売却条件であっても着手金が欲しいがために案件受託する、というところもありますので。。
また、着手金だけでなく成功報酬の最低報酬額も意識して確認してみましょう。
着手金無料をアピールしながらも成功報酬の最低報酬額をかなり高額に設定している仲介会社もおり、成約したはいいけど手残りがものすごく少なくなってしまう(場合によっては借金してでも払わないといけない)、ということが起きます。
最低報酬額が高いと、手残り金額からの逆算で希望条件が高くなってしまいますので、上記の通り成約率も下がる可能性もあります。
まずは、着手金や成功報酬など総合的にみて手数料は安くても信用できそうな仲介会社・コンサルタントを探す。
その上で、良さそうな会社は着手金が発生する、ということであれば、「着手金は返金されるケースはあるのか」「着手金だけ払って放置されるようなことはないか」「担当コンサルタントはどういう動き方をするのか」「真剣に動いているかチェックできる仕組みがあるのか」など、できるだけ細かく確認する。
納得のいく説明であれば、着手金を支払って仲介をお願いする。
というのがよいかなと思います。
「仲介会社の手数料は営業戦略の一環なのでコンサルタントの質と料金はそれほど関係ない」と理解しましょう。
最後までお読みいただきありがとうございました。