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「短期間でM&Aを成約させます」をアピールする仲介会社を選ぶメリット・デメリット

お悩み社長

とある仲介会社から、「3カ月で成約させたことがあるから、スピーディに対応します」と言われたんだけど、これって仲介会社として優秀ってこと??

 

色々なM&A仲介業者の話を聞いていると、短期間で成約させた実績をアピールされることもあると思います。

 

もちろん、社長の体調が優れず譲渡を考えている場合や、お亡くなりになり会社を早急に立て直す必要があるような会社であれば、スピーディに対応してくれるのはメリットの一つです。

 

ただ、単にリップサービスになっているケースも散見されますので、短期間でM&Aを行う仲介会社の実態と、メリット・デメリットについては今日はお伝えできればと思います。

 

本日の内容が役に立つ方

・短期間で会社を譲渡させることを魅力に感じている方
・M&Aにはどのくらいの時間をかけるのが適切か知りたい方

 

それではいきましょう!

 

 

M&Aってそもそもどのくらいの期間がかかるのか

 

一般的なM&A仲介会社では、M&Aの成約までに6か月~1年はかかる、とお伝えしているケースが多く、M&Aの仲介契約書の有効期間や専任機関などでも大体同じくらいの期間を設けているケースが多いです。

 

で、実際このくらいの期間が本当にかかるの?

というと、本当にかかると思った方が良いです。

 

M&Aを行うにあたっては標準的には以下のようなフローとなります。

・事前相談    :株価算定、スキーム検討、譲渡資産の確認など)
・案件化     :企業概要書作成
・候補先選定   :候補先リストの作成、ネームクリア確認、候補先打診
・トップ面談   :両社面談
・基本合意    :意向表明書提示、候補先検討、基本合意書調印
・買収監査    :資料収集、各種QA・インタビュー、実査
・条件交渉    :買収監査レビュー、最終条件交渉
・最終契約締結  :最終契約書締結
・クロージング  :クロージングパッケージ収集、資金決済

 

この工程をスムーズに進められるかというと実際そうではなく、こんなようなケースが発生して進捗が遅くなるのは日常茶飯事です。

 

・売手側の資料提出に時間がかかり、企業概要書や買収監査で時間が多めにかかるケース
(売手側の顧問税理士が資料を持っているケースなどは時間がかかるケースが多いです)
・検討見送りになる候補先が多く、トップ面談まで進まないケース
・何社か候補先がいるため、売手側がじっくりどの先を進めるか検討したいと感じ、トップ面談を複数回重ねるケース
・買手側の取締役会が月に1度しか開かれないなどの決定機関のスケジュール都合で遅延するケース
・買収監査の参加者が多く、スケジュール調整が複雑になるケース
・買収監査の結果減額となり、条件交渉がスムーズにいかないケース
・買手企業が買収資金を融資で賄うために金融機関と交渉するも、待たされるケース
・株主が多く、株の買い集めに時間がかかるケース、または、反対株主が発生したケース  

などなど、数え上げるとキリがありません。

 

なので、売手も買手も細かいことは気にせずに即断即決で進み、かつ、大規模に買収監査をしないとか株主がオーナー社長だけとか、規模感が小さい案件でないと短期間で成約することは普通では難しいと言えます。

 

このような遅延要因はM&Aを進めてみないと分からないものも多分にあるので、最初の段階で「3カ月くらいでやれます」と言ってしまうようなコンサルタントは単純にM&Aの経験値が低い可能性もあるので注意が必要です。

 

ただ、調剤薬局などのパッケージ化できるようなM&Aの場合で、かつ、事業譲渡で行うような場合は、かなり期間としても短期で行うことができます。

 

筆者の知り合いのM&Aコンサルタントでも調剤薬局は1~2か月で成約していたりもしますが、ビジネスモデルもどこも一緒で、企業概要書も簡易でよく、買手候補先も毎回同じ会社で、事業譲渡なので買収監査も株式譲渡程ではなく済む、というものなので、特定の業界業種だけは短期で行うことが業界標準であるというものもあります。

 

また、極端な話、不動産の居抜き物件の譲渡とかサイトの売買、とかは一瞬で終わります(そもそもこれをM&Aと言っていいのかは微妙ですが・・)

 

これは本当に特定の業界業種だけの話なので、普通の会社のM&Aには6カ月以上はかかると思っておいた方が良いと思います。

 

なので、調剤薬局やサイト売買などのM&A実績を持ってきて「弊社は短期間で成約させた実績があります」とアピールされてもあなたの会社には参考にならない可能性もありますし、それ以外の一般的な業種の会社で短期で成約させていたとしても、本来踏むべき工程をすっ飛ばしたり、当事者に考える時間を与えず押し込んだ案件である可能性もあり得るので、冷静に見る必要があります。

 

つまり、「短期間で成約させた」=「優秀な仲介会社である」とは必ずしも言えません。

 

「仲介会社で行う作業を短時間で行い、候補先をすぐにたくさん並べ、売手にも交渉力を持たせた状態を作り、考え得るリスクも十分に説明し、契約前に当事者に考える時間も十分も与え、できるだけ一方的に過度なリスクを負わない最終契約書を締結させる」というのが仲介として真に優秀な会社といえます。

 

ちなみに、これがきちんとでき、かつ、常識的な仲介手数料でサービス提供する仲介会社を探しましょう、というのがいろは塾が推奨すべき仲介会社探しのスタンスで、いろは塾が現在提供している体制でもあります。

 

 

短期間でM&Aを成約させるメリット・デメリット

 

短期間でM&Aを成約させるメリット・デメリットは次の通りです。

 

短期間でM&Aを成約させるメリット

・短期間で売却を実現し、早期に現金化を実現できる
・会社が傾いていれば、早期に買手企業の経営関与が期待でき、立て直せる可能性が上がる
・情報漏洩のリスクが下がる

 

短期間で成約させることで、当然ですが早く手持ちの株式を現金に換えることができます。

交渉は十分できない可能性もありますが、すぐにでも現金が欲しいという方には合っているかと思います。

また、債務超過・赤字で、0円でもよいので早急に売却したいという会社の場合は、価格交渉もあってないようなもの(赤字を引き受けてくれる先があるかどうか)なので、むしろ、短期で売却し、現経営陣からの運転資金の補填を止めたり、根本的な経営改革を買手に早期に取り組んでいただいたりとメリットはあるように思います。

 

情報漏洩のリスクは、M&Aの検討期間(厳密には、候補先打診~クロージングの期間)に比例して高まるので、短期でクロージングまで持っていくことでリスクを減らすことにはつながるとは言えます。

 

短期間でM&Aを成約させるデメリット

・もっと良い条件を提示するかもしれない買手候補先を失う機会損失を被る可能性がある
・少ない面談機会で相手を見定めきれず、譲渡後にミスマッチが起きる可能性がある
・資料集めやQA対応、面談などM&Aに対してスケジュール調整がタイトになり、本業に影響を与える可能性がある
・買収監査が甘くなる可能性があり、結果売手の最終契約書上での拘束が厳しくなり、譲渡した後のリスクをたくさん抱えることに繋がる

 

何と言っても、短期間で成約させる場合は、交渉や交渉相手との意思疎通が十分に行えない可能性があるというのがデメリットとして大きいです。

 

交渉相手も限定されるので、仲介会社が連れてきた「ここがイチオシです」という買手企業と交渉を進めるのに抵抗があるかどうかという問題でもあります。

 

筆者がこのM&A業界で見てきた仲介会社の中には、「売手に安く交渉してくるのでその分仲介手数料を高めに下さい」と買手に交渉しているようなコンサルタントもいました(ちなみにこれは、それなりに名前の知れた仲介会社です)。

 

こんな仲介会社もいる中で、「ここがイチオシの買手です」とか言われても普通に信じれないですよね(笑)

 

M&Aにおいて、基本的に1社独占交渉となる基本合意以降は買手の交渉力が強くなります。なので、売手は「どの買手企業と交渉しようかな」という基本合意前の意向表明書の段階で、候補先がたくさん用意できるかどうかが、売手として交渉力を発揮できるかどうか否かの分かれ目になります。

 

その大事なポイントを仲介会社にお任せにしてしまう訳なので、仲介会社にもよりますが、かなり売手側がリスクを負う行為であることは認識しておいた方がよいでしょう。

 

 

また、買収監査は買手にしっかりやってもらう方が良いです。

買収監査とは買収前に、売手が買手に会社の情報を細部まで開示し、それによって買手が最終条件を決める上でのリスクを判断するという重要な場面です。

 

買手によっては士業も入れずにさくっと買収監査をしている会社もいますが、買収監査をしない分、最終契約書上で、売主が負う責任を重くしているケースなどもあったりします。

「十分な検討資料を貰ってないから、何かあったらよろしくね」みたいな感じの契約内容だったりすると売手が負うリスクが重くなるのは当たり前ですよね。

 

こうした内容について、ちゃんとした仲介会社は、買収監査をきちんと行うよう買手に促し、常識的な最終契約書となるよう尽力するのですが、悪質な仲介会社になると、成功報酬がもらえれば短期でやってもらった方が助かるという安易な発想で買収監査を軽めに持っていく方向に促します。

 

で、もっと最悪なのが、売手がM&Aを初めて行うのをいいことに「このような内容はM&Aでは一般的です」とリスクの高い内容を一般的な内容として売手にレクチャーするコンサルタントもいたりします。

 

こういうコンサルタントにあたると譲渡してからもずっとリスクを負い続けることになるので、せっかく会社を譲渡しても売手にとっては安心できない毎日になってしまいます。

 

筆者が考えるに、おそらくこうしたコンサルタントは仲介者としてのプライドも自覚も無いと思うのですが、世の中にはびっくりするぐらい毒されているコンサルタントもいますので気を付けないと本当に危険です。

 

サイズ感が大きく、ちゃんとした会社であればあるほど短期間でM&Aを成約させるデメリットが大きくなるので、「短期間で成約させる仲介会社」は避けた方が良い存在と言えます。

 

 

自社の状況に併せて「短期間での成約」をアピールする仲介会社を使い分ける

 

前述した通り、債務超過・赤字で企業の評価が低めに出る会社や、社長が倒れたなど取引条件を度外視して相手先を探している会社は「短期間で成約」させる会社を使うのもよいかもしれませんが、以下の点については注意しましょう。

 

・M&Aを行う上で行う標準的な工程は何で、短期間で成約させるためにどのように工程を短縮化しているのか、または、工程を削除しているのかを説明しているか(そもそも普通のM&Aを行った経験がある仲介会社・コンサルタントなのか)
・短期で成約させた仲介会社の過去事例はどのような業種で、どのような方法で成約させたのかを説明しているか
・そもそも売手企業のビジネスモデルはどういったもので、どういった観点で買手候補先は売手企業を検討できると思うのか、をきちんと説明できるか(短期間で成約させるためには既に売手企業に合う内情を理解した買手候補先を仲介会社が知っている必要があるから)

 

また、短期で成約させるという前提で仲介会社と仲介契約を結ぶ場合は、「仲介契約の期間」についても注意してください。3カ月で成約させると言って契約するのに、出てきた仲介契約書には1年間有効とかになっていると「はじめから短期で成約させるつもりないじゃん」という話ですからね。

 

M&Aの仲介会社の多くが成功報酬での報酬体系を取っておりますので、「短期間での成約」はこういう仲介会社の立場としてはウエルカムな内容のはずです。なので、筆者としては、「短期間でM&Aを成約させます」というアピールの背景には、「細かいことを言わずに短期で売りたい人を集客したい」という想いもあるのはと思ったりもします。

 
 

最後までお読みいただきありがとうございました。

 

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