美容室、エステ、ネイルやまつエクなど、美容関連会社のM&Aも盛んに行われています。
飲食店などと同様に「店舗系M&A」として、株式譲渡の他、テナントの賃貸借契約も含めた事業譲渡としてM&Aが実行されることも少なくなく、同一の買手企業が複数のM&Aを短期に推し進めるということもあったりします。
筆者も過去、複数店舗を運営する美容関連企業のM&Aをお手伝いしたこともあるので、多少偏見も入りますが、その経験も含めて美容業界のM&Aについてお伝えできればと思います。
本日の内容が参考になる方
・M&Aを進める上で、従業員の離職が気になる方
それではいきましょう!
そもそも美容室とかって1店舗とかでもM&Aできるの??
美容室(理容室も含む)の数というのは、令和元年度時点で371,688施設あると言われており、理容室の減少に対し、美容室は年々増加傾向にあります。
※出典:厚生労働省「令和元年度_衛生行政報告例_概況」
一方で、個人事業として開業している割合は88.7%、従業員2名以下の店舗が全体の6割という、小規模事業が多い業界ではあります。
美容業界というのはいつかは独立して自分の店を持つというのが一般的な業界なので、独立して自分の店を持ってはいるが、事業規模を拡大せず運営しているという事業者も多そうです。
そのような中で、法人成していない事業者も非常に多いので、「うちってM&Aできるの?」と疑問に思っている方もいるかもしれません。
結論からいうとそのような個人事業主の方でも事業譲渡という形でM&Aは可能です。
現在流行している中小企業のM&Aについては、事業の規模感はまちまちで、美容に限らず飲食店なども小規模店舗1店舗から行うことができるので規模を気にする必要はありません。
ただし、1店舗で経営している美容室などは基本的にオーナー兼美容師、という状態だと思うので、M&Aした後にオーナーがお店から離脱します、という感じだとお店が傾く可能性が高いです。美容師個人にお客がついているケースも多いですからね。
オーナーが抜けても買手にとって魅力的な買収であるパターン(例えば、既にオーナーが現場に出ていないとか、立地がすごい良いとか)や、サラリーマン的に働くことも許容できるオーナーが売った後の会社に残るパターンなど、成約するためには何等かの条件があったりしますので、自分のお店がどういう状態かは俯瞰して評価するようにしましょう。
美容業界のM&Aで気を付けないといけない点は?
筆者の経験上、美容業界のM&Aで特に気を付けた方が良いと思う点は色々ありますが、特に従業員の離職は注意しないといけないと思います。
以前こちらの記事でも紹介しましたが、従業員に占める女性の割合が多い会社においては、会社の雰囲気が変わる可能性のあるM&Aは、従業員への説明の仕方も含めて、最新の注意を払って行う必要があります。
「M&A後の説明をミスして大量離職発生!?」売主の責任と従業員説明のポイントを解説
筆者が過去関与した案件で、一度だけ、M&A後に従業員が大量離職したケースがありました。
関東で複数店舗を運営されていたまつ毛エクステのチェーンが売手だったのですが、大手ヘアサロンチェーンが買収しました。
この案件について、クロージングまでは売手買手双方の経営陣の意思疎通ができ非常に円満に進みましたが、譲渡後、買手側が自社グループのマネージャーを売手側の経営幹部に置いたことで人間関係がギクシャクし、結果、不満のたまった売手企業の管理職が大量離職しました。
理由はシンプルで、「送り込まれたマネージャーとそりが合わない」というものでした。
20~30代の女性が中心で活躍しているまつエク店舗で、50代のおじさんが昔ながらの営業手法を指示した格好になるので、傍から見ても上手く噛み合うかは怪しいと思える話ですが、ここで重要なのは「元々の会社の良い雰囲気が壊れてしまった」ということです。
上で説明した別の記事でも述べたように、男性よりも女性の方が、会社に求めるものの中で「職場の雰囲気の良さ」を重要視していることは統計的にも明らかですので、ここをもう少し大切にすべきだったなと感じています。
また、社風や会社としてのカルチャーが、同じ美容であっても異なる点はこの事例では大きかったです。
まつエクという事業は施術に美容師免許が必須な事業ですので、前は美容師をやっていたけど、人気商売で人間関係がギスギスするのか嫌だから転職したという方も多く在籍しており、「そもそも美容サロンの雰囲気が嫌」という方も実は多く在籍していたりもします。
そんな中で、M&Aを機に美容サロン式の社風をまつエクに持ってくることで従業員にアレルギー反応が起きてしまう、という可能性は十分ある訳です。
M&Aというのは基本的に経営者目線で、会社のリソースをいかに共有しシナジー効果を出せるか、などの議論がなされますが、こういう背景を知っておかないと想像していた結末とは違う形の結末になりかねないのです。
これと似たような話は他の美容関連企業のM&Aでも耳にするケースはあるので、離職を防ぐ説明や施策については入念に練った上でM&Aを実現させたいところですね。
他の注意点としてはこのような点もあります。気になる方がいらっしゃれば個別に筆者にご質問いただいても大丈夫です。
・人事労務面や顧客からのクレームは買手企業からも厳しめに見られる
・従業員の免許確認など管理体制は万全にしておきたい
・経営の変動により賃貸借契約の継続性に影響が出るか注意 など
美容業界のM&Aを依頼するならどんなM&A業者が良い?
では、美容関連の事業オーナーがM&Aをしようと思ったらどのように進めるのがよいでしょうか?
「M&Aとかあんまり詳しくないから安くやってくれるところに丸投げしようかな」とか、
「高額な仲介手数料は払いたくないから自分で探してみようかな」とか、色々な意見があると思います。
何が正解とは言えないですが、筆者が客観的にお伝えするなら「小規模1店舗の譲渡で仲介会社を使ったりすると割に合わない手数料と感じやすい」ということです。
なので、M&Aマッチングサイトに売主自ら掲載して買手を探索している方も見かけたりします。「仲介業者を使わずとも、相手さえ探せればやれる自信あるわい」という方はこういうやり方も良いと思います。こちらの記事で自分でM&Aをする手順を解説しておりますので興味がある方はご参考ください。
【実践編①】仲介会社を使わず自分でM&A(希望条件を決める編)
注意点としては、仲介業者を使わないことで、一方的に不利な契約に仕上がったり、相場感が分からずかなり割安で売ってしまうこともあるということです。
筆者的には少額でもM&Aをするのであれば経験と能力のある仲介者をできるだけ安く雇う方が結果良いと思いますが、人それぞれの考え方なのでご判断はお任せします。
美容業界専門でM&Aをしています、みたいな業界特化のM&A業者もいますが、成功報酬の金額がかなり小刻みに設定されており、仕上がりで高額な手数料になってしまうこともあるので注意する必要があります。
また、中小企業庁のM&A登録機関になっているかなどは事前に確認しておきましょう。
仲介業者が買手とのコンタクトを取るためにネットのマッチングサイトを利用するケースも多いので、必ずしも美容案件の成約実績をアピールしている仲介業者でなくとも良い買手を連れてこれる可能性もありますので、「美容関連のM&Aは強い」みたいなアピールは話半分に聞いておいて色々話を聞いてみると良いかと思います。
最後までお読みいただきありがとうございました!
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