お悩み社長
まだ、こんな風に考えている方はいないでしょうか?
結論から言うと必ずしもそうとは限りません。
感覚的な話としても、M&A仲介会社の手数料は売手からも買手からも取るので、当然この手数料が高くなると成約しにくくなるはずです。
今回はこれを上場仲介会社のデータから読み解いてみたいと思います。
これからM&Aを考えている方からすると、立派なDMが頻繁に届いたり、テレビCMをやっていたりなんかすると、「M&Aをやるなら失敗できないから大きい仲介会社に依頼しよう」と考える方も結構多いと思いますが、「失敗」=「M&Aが成立しない」という考え方であれば、手数料の高い仲介会社に依頼するのはデータを見てから考えた方がよいかもしれません。
それではいきましょう。
仲介会社別の最低報酬と成約率の関係
まずこちらの図をご覧ください。
上場している仲介会社の最低手数料※と、利益率、成約件数、コンサルタント数をまとめた資料になります。
※最低手数料とは、各仲介会社が自由に設定できる「M&Aしたらこれだけは最低減下さいね」という手数料のこと。当然顧客としては安い方がいい。
【仲介会社別最低手数料と成約件数の関係】
※クリックで拡大
抽出している仲介会社は、「M&Aキャピタルパートナーズ」「M&A総合研究所」「ペアキャピタル」「日本M&Aセンター」「ストライク」「オンデック」「インテグループ」「名南M&A」「ジャパンM&Aソリューション」で、最低手数料が高い順に並べています。
例えば、M&Aキャピタルパートナーズであれば、M&Aの売買金額に関わらず、売手から2,500万円・買手から2,500万円手数料として徴収するので、どんな案件でも1件成約すれば最低でも5,000万円稼げるという読み方です。
ペアキャピタルについては上場廃止になるのと、他の仲介会社が従業員へのインセンティブ率が高いことでも有名なので、営業利益率は低めに出ている可能性もあるため、一応記載はしましたが無視した方が傾向が読みやすいかもしれません。
この図から、こんなことが分かります。
最低手数料が示すM&Aの実態
① 最低手数料が高ければ高いほど、仲介会社の利益率は高い傾向
上記の図を見てまず分かるのは、「最低手数料が高ければ高い程、仲介会社としては高い利益率になる」ということです。
つまり、仲介会社としては最低手数料を高く設定すれば稼げる、ってことなんです。これはとても自然な関係性です。
顧客目線でいうと、譲渡金額1億円でM&Aできたとして、最低手数料が500万円の仲介会社だった場合は5%の500万円の支払いで済むことがありますが、最低手数料が2,500万円の仲介会社だった場合は2,500万円支払わないといけません。さらに、仲介会社が買手からも2,500万円最低手数料を取っているのであれば、本来直接取引なら1億2,500万円受け取れたところ、7,500万円しか受け取れない、ということになります。
なので、最低手数料は高ければ高いほど、仲介会社やその株主にとっては有利で、顧客にとっては不利といえます。
仮に、コンサルタントへのインセンティブが多い会社だと会社としての営業利益は低くなりますが、筆者の知る限り、上記の会社群で言えば、最低手数料が高い会社の方がたくさんインセンティブを個人に払っている印象です。
そして、これを裏付ける傾向として仲介会社の値上げがあります。
「最低手数料を上げた方が稼げる」と気づいた仲介会社は、こんな感じで大幅値上げしています。
【各社の最低手数料の値上げ】
ストライク:(以前)1,000万円 ⇒ (現在)2,000万円
オンデック:(以前)750万円※譲渡金額1億円のとき ⇒ (現在)1,000万円
インテグループ:(以前)500万円 ⇒ (現在)1,500万円
経営承継支援:(以前)500万円 ⇒ (現在)1,000万円
実際、最低手数料を3倍引き上げたインテグループは短期間で大幅に会社としての利益率を上げているのはデータからも明らかです。
いきなり料金が2倍にも3倍にもなる、というのは普通の商売だと考えられないですが、これは別に何か原価が上がっているわけではありません(そもそも原価は人件費くらいです)し、特別なサービスが付加されたというわけでもありません。
単に、同じ仕事するならもっと取った方がいいよね、といって値上げした感が強いです。
こんな経緯も筆者は見ているので、「値上げなんてしたもの勝ちだな」と内心思っているくらいです。
② 最低手数料が高ければ高いほど、1人あたり成約件数が減る?
仲介会社のIR資料では、コンサルタントの人数や成約件数も公表されているので、それも上の図では記載しています。
これを見ると面白い傾向が明らかになります。
それは、「最低手数料の金額が高ければ高いほど、コンサル1人あたりの年間成約件数が減る」という仮説を考えてもよい関係性も読み取れます。
売手・買手の最低手数料の合計が3,000万円以上あたりから、コンサル1人当たりの年間成約件数が1.0を下回ります。
これはつまり、1年の内に2件成約するコンサルもいれば、0件のコンサルもいるようなイメージで、平均すると1人1件も成約していないということです。
(ちなみに筆者は、まったりやっていても年数件、良い時では年間5件程度成約するくらいはやっています)
これって少ないです。
大手の方が規模の大きい案件をやっているから手間がかかって1人当たり件数が少なくなる、と言っている人もいますが、手数料規模が2倍だから労力が2倍かかるか、というとM&Aはそういうものでもありません。買手がすぐつく大型案件の方が、手数料が少ない再生案件の対応よりも楽なこともあります。また、複数案件並列で担当するのはどこも一緒ですし、実際規模の小さい会社にも大手は営業しており、その中で最低手数料は上記の水準感の金額を要求しています。
だから、同じ手間がかかるんだから成約件数を伸ばすよりも成約単価を上げよう、というのが多くの仲介会社の本音です。
顧客側として知っておくべきなのは、年間1件も成約していないコンサルが何人もいるのに会社として大きな利益が取れている、というのは単に成約している案件から過剰な手数料を徴収していることを意味しているということです。
また、「案件の規模によらずM&A仲介は1件手掛けるのにかかる工数は変わらない」「入社するコンサルに能力的な格差が無い」と仮定すると、この「コンサル1人あたり成約件数の非常に大きな差は何が原因か」という話になります。
その一つの原因は、最低手数料の差、だと思います。
例えば、売主が1億円の希望条件で、買手企業は1.2億円まで譲歩できるという状況であれば、「ジャパンM&Aソリューション」が仲介をすると買手から売手への提示額は1.1億円(▲買手手数料1,000万円)、売主の税引前の受取金額は1.05億円(▲売手手数料500万円)で、M&A成立します。
同じ状況において、「M&Aキャピタルパートナーズ」や「M&A総合研究所」が仲介をした場合、買手から売手への提示額は0.95億円(▲買手手数料2,500万円)となり、この段階で1億円欲しい売主の希望にミートしないので、M&A不成立となります。
M&Aは色々な要素が絡みますが、あくまで仕組みとしては、仲介手数料が高い仲介会社が仲介をすることで、決まるM&Aが決まらなくなる可能性は十分にあり、これがコンサル1人あたり成約件数に現れている可能性もあります。
それでも最低報酬額が高い仲介会社を選んでしまう理由
ここまでの話をまとめると、「最低手数料が高い仲介会社は、コンサル1人当たりの成約率が低く、最低手数料の高さがこの原因である可能性も否めない」ということになります。
それでも、最低手数料が高い大手仲介会社に依頼する人が後を絶ちません。
これはなぜでしょうか?
その理由の一つとしては、接触機会の多さが原因としてあると思います。
上の図で示した仲介会社の中でもとりわけ利益率が高いのは「M&A総合研究所」のように見えますが、彼らは連携先からの紹介ではなく直接DMや電話で営業して売手を探す営業が盛んな仲介会社のため、M&A仲介業における原価に位置する「紹介料」が発生せずに、成功報酬を丸々取れるから利益率が高い、という仕組みです。
この記事をご覧の方にも「M&A総合研究所」からの営業DMや電話は多いのではないでしょうか?
仲介会社のDMや電話は近年異常に多いですが、少ない成約件数ながらもたくさんの成功報酬を徴収しそれを新規営業に投入するため、手数料が高い仲介会社からの営業を目にする機会が増えるのです。
営業を受けた売主としても、M&Aはあまり誰でも話すようなものでもないので、大体は「手数料高いなぁ」と思いながらも、あまり比較せずに仲介を依頼してしまうようです。
そして、それで稼いだ仲介会社が営業を繰り返す・・、という循環ですね。
でもM&Aを検討するなら希望の条件で成約させることが目的だと思いますので、きちんとしたデータに基づいて仲介会社を決めた方がよいでしょう。想定される譲渡金額が大きく、どの仲介会社で依頼しても手数料が一緒、ということでなければ、最低手数料が高ければ成約率が下がる可能性もあるのです。
もちろん、大きい会社に任せたいという方もいると思いますので、そこは否定しませんが、目的にあった探し方をしないと後で後悔することになることもあるのでよく考えてからM&A検討を進めましょう。
ご参考いただけると幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。