テレビ東京「ガイアの夜明け」で、M&Aに関する詐欺の話題が取り上げられました。
加害者、被害者だけでなく、そのM&Aを仲介した会社まで実名で公表されていたので中々見ごたえがある内容でした。
(これからM&Aで会社を売却しよう、という方は参考になるので是非一度ご覧ください)
ついにこういう報道もされるようになったのかと興味深かったですが、ちょっと今回の報道について筆者の感想を書いてみたいと思います。
ルシアン事件を仲介したペアキャピタル
今回の事例は、以前こちらの記事でも取り上げたルシアンホールディングスの詐欺事件のことですが、ペアキャピタルが仲介会社として関与していたとしてインタビューにも応じていました。
ルシアンホールディングスのM&A詐欺?手法とその対策
詐欺事件を仲介してしまったという不名誉なことではありますが、社長自ら顔出しで取材に応じるのはなかなか勇気がいることだったのではないかと思います。
ペアキャピタルが買手候補先として挙げた中にルシアンホールディングスが入っていて、結果ルシアンホールディングスが買収先になったため、今回の事件が起きたということでしたが、M&Aが終わってしまったら仲介会社は関係ないという態度が実際に被害にあった売主さんからは納得がいかず弁護士に相談する様子も描かれており、結構リアルな内容でした。
これはM&A業界全体について言えるのですが「M&Aしてしまえば問題が起きても基本的に関与しない」というM&A業者は結構多いです。
実際に筆者も、買手FAとして関与した案件で、M&A後問題が起こったときに売手FAに逃げられたことがあります。その時の言い訳としては、アドバイザリー契約に記載の業務スコープがM&A成立時までだから一切関与しませんあとは当事者同士で解決してください、的な回答でした。
その時は別にそんなにややこしい話でもなく、2、3確認すれば済む話になのに我関せず、という態度は同業としてもさすがにどうかと思いましたが。
そして番組の中では、売主さんが「詐欺を働いた買手も憎いが、仲介した仲介会社はもっと憎い」という主旨の話があったのは印象深かったです。
仲介というのは、通常売手からも買手からも仲介手数料を頂くものなので、売主さんの立場からしたら、自分は大変な思いをしたのに、詐欺師を連れてきた仲介会社は儲けているというのは許せない、という感情なのかもしれません。
もしかしたら、事件の初期対応から寄り添った対応をしていたり、道義的な責任から徴収した手数料を返還するなど売主寄りの行動を取っていればもう少し怒りは抑えられていたのかもしれません。
また、これは筆者の想像にはなりますが、売主さんの怒りの原因は「仲介会社が買手をお勧めした」という事実も大きかったのではとも思います。
何となくですが、今回登場した売主さんの会社は比較的ニッチな事業をしているような印象を筆者は受けたので、普通の仲介会社は買手を見つけるマッチングで苦戦する可能性はあるかなとも思いました。
仲介会社というのは最初は案件受託をしたいので売主さんのところに何度も足を運びますが、いざ受託してみると「この会社、どうやってマッチングしてみようかな」と思うケースもあるでしょう。こういうとき、同じような事業をしている会社に声を掛けることもありますが、ニッチな業界だと近い競業先になってしまったりでなかなか買手候補を並べるのが難しいこともあります。
そんな時によく仲介会社が使うのが「M&Aマッチングサイト」です。業者が買手探しするときも使われています。
今回の番組ではその買手探し方の詳細までは触れられていなかったように思いますが、ルシアンホールディングスは事実、M&Aマッチングサイトでターゲットになる売手を探索していた話もあるので、そこで出会ってしまった可能性はあります。
担当のコンサルタントとしては何としてもM&Aを成立させたいでしょうから、興味あると言ってくれているルシアンホールディングスを買手としてお勧めしたくなる気持ちになりやすいです。そして、売主さんはM&Aのことなどよくわからないので、「仲介会社も勧めてくれるし、たくさん買収している会社だから大丈夫だろう」と見誤ってしまった可能性もあり、結果、今回のような事件に繋がるというのもあるでしょう。
実際、他にも基本合意に進めそうな候補先が何社もいる中で自ら売主さんがルシアンを選んだのであれば怒りの度合も違うはずですので。
そもそもの話、ルシアンが最初から詐欺を働く目的なのだとしたら、実入りを多くするためにM&A時点では高い金額条件は提示しませんし、他に買手がつかなそうな案件をターゲットに見定める可能性は高いと考えられます。
他の候補先として本当に売主さんの事業に興味があるという買手を用意できてさえいれば、条件面だけで考えてもルシアンを排除できた可能性は高かったのでは?とも考えられます。
そうなってくると、買手を見抜く云々というよりも、買手探しの方法として十分だったか、唯一の買手だったルシアンを推奨する環境は無かったか、というのも見ていくことも必要なんじゃないかな、と筆者は思います。
これはペアキャピタルだけでなく、いわゆる営業系の仲介会社であればどこでもかかってしまう罠だと筆者は思います。
事件に関与したことを公にしない大手・中堅の仲介会社
今回のルシアン事件や、他の類似した事件について、他にも多くの仲介会社が関与しています。
ペアキャピタルは今回正直にインタビューにも応じておりますが、社長の「他の仲介会社は公にしたがらないが弊社は違う」、という趣旨の発言から読み取れるように、他にも事件に関与している仲介会社はいるはずなのに公にしていないです。その点だけでいえばペアキャピタルは誠実な対応といえるでしょう。
筆者が把握しているケースだけでも結構大手・中堅の仲介会社がこうした詐欺事件の仲介として関与していたという情報はあります。
そしてそのような仲介会社が詐欺事件の仲介していながらも他人事のようにM&A業界を健全にするよう活動していますとアピールしているのを見ると、なんだか、裏金をもらいながら日本を良くしたいと詭弁を弄する政治家のような印象を持つくらいです。
M&Aの話は秘匿性も高いですが、他に被害者が出る可能性があるような事案なのであれば、積極的にメディアに出る方が誠実な仲介会社なのではないかな、と筆者は思います。
M&Aの営業は日々色々な中小企業にきていると思いますが、綺麗事を言っていても水面下ではトラブルをたくさん抱えている仲介会社というのは、上場している仲介会社であっても普通に存在するので、売主さん側は肝に銘じるべきだと思います。
どれだけ規模の大きい仲介会社でも担当が新人なことはざらにありますし、こうしたトラブルはあまり表に出ないので被害に遭ってみて初めて実態が分かるということもあるのです。
ブラックリストを共有するだけでは不十分な理由
M&A業者の団体である「M&A仲介協会」では、買手のブラックリストを共有する取り組みがあると番組終盤では取り上げられています。
これについて、筆者の感想としては、無いよりあった方がいいというくらいかな、くらいの印象です。リテインチェックや決算書などを取入れするなどしても万全な対策ではないです。
法人なんて簡単に設立できますし、代表者もブラックリストに載っていないホワイトな人にすることも可能です(今回番組の中では、ルシアンの実権者に騙された買収先企業の社長も出てきていましたが、どこからか社長候補を連れてくるというパターンもあります)。
むしろ、ブラックリストに載ってないから大丈夫、依頼している仲介会社が仲介協会に加盟しているから大丈夫、などと思い込んでしまう方が危険な気もします。
どちらかというと、この手の詐欺は、まず案件自体に詐欺師が近寄るうまみがあるかどうかという動機付けの問題や、買手からのアプローチで話が進んでいないかといった接触経路の問題、あとは、仲介会社が買手の買収意欲の内容に疑問をいだけるかという問題など、を精緻にしていく方が根本的だと思います。
買手を見抜く力は仲介者の経験が無いと到底養われていないものですし、「今期中に〇件成約しないと」というプレッシャーがあると買手を見る目も往々にして曇ります。
そのため、これから仲介会社を選ぼうとしている方は、うわべ上の仕組みではなく、どういう動き方をしそうな仲介会社なのか、途中で逃げるようなコンサルタントではないか、を見極めることが重要になってくるのかもしれません。
M&Aをめぐる詐欺に遭いたくない!という方は、まずは、M&Aの実態を正確かつ正直に伝えてくれる信用のできるコンサルタントを見つけることをお勧めします。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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