最近、M&Aの業務をAIで効率化させよう、という動きが盛んに行われています。
というのもM&A仲介の現場は、基本的にアナログな部分が多く、中には買手探しのために電話帳を広げて片っ端から「こういう会社を買いたくないですか?」と聞きまわる会社すらあります。
こういった買手候補の抽出を自動で行いましょう、ということがAI化の主な目的ではありますが、実際こういったものは機能するのでしょうか?筆者の現場感も含めて説明していきたいと思います。
そもそもAIとは?
AIとは、Artificial Intelligence(人工知能)の頭文字を取ったものです。
今まで人が考えていたようなことをロボットが考えるような仕組みのことで、最近の家電などにもよく搭載されています。
・人を感知して温度を調整するエアコン
・尿の色などを検知して健康状態を測る便座
例えばこんな感じです。
コンピュータが各パラメータを組み合わせることで、「〇〇ということは〇〇である」という結論を導くようなイメージですね。
M&AでAIを使うということはどういうことをするの?
M&AでAIを使う用途としては、主に、
「あなたの会社(売手)に合っている買手企業はこんな企業ですよー」
「あなたの会社の価値はこのくらいですよー」
ということを自動で抽出・計算する用途が多いです。
AIの特徴として、人が行ったら膨大な時間がかかるような処理を機械が高速で処理することができることから数値データに基づく推測が得意、ということがあります。
なので、おそらく、売上高や利益水準、従業員数やエリア、業種などのパラメーターと、過去の成約実績を紐づけして、「過去そういう会社を買った会社はどんな会社か」をはじきだしているんだと思います。
じゃあ、M&AでAIって使い物になるの?
筆者も含めた同業者の多くが考えるところでは、
「あったらいいけど、完全なものではないから参考情報程度」
という捉え方です。
どちらかと言うと仲介会社が売主に対して、「うちはこんな仕組みがあるので是非任せて下さい!」と言うための営業ツール的な意味合いが強いかと思います。
※実際にAIを導入している仲介会社の社員からの話ではそんな感じです
ローテクな業界なので、なんらかハイテクな要素を取り入れて最新の技術で支援させていただきますと言いたいわけですね。
AIで処理できるのは基本的には定量情報に限られるので、売上高・利益・従業員数など様々な数字に関わる部分のみを抽出する際のパラメーターにしています。
なので、AI処理の結果出てくるのは、
「〇〇のエリアで年商〇〇円程度の〇〇業を買った会社は〇〇ですよ」
くらいの情報は出るかと思います。
ただ、考えてみて下さい。
日本にある中小企業が、一律に〇〇業というカテゴリで区分できますでしょうか?
筆者は実際に帝国データバンクや商工リサーチなどで中小企業のデータを見ることもありますが、あの細かい業種分類でも正確に分類はできないくらい中小企業の業種というのは複雑です。
肉の卸をしていたが焼肉屋も始めた会社
技術者派遣をしていたが自社サービスを開発して売り始めている会社
架装溶接も請け負っている運送会社
普通は、こういった会社が会社まるごと株式譲渡で売りたいと思って相談に来られるわけなので、適切な買手を紹介することは難易度が高く、かつ、同じエリアの買手というとかなり紹介が困難かと思います。
また、AIの元になるビックデータは過去の成約情報などかと思いますが、買手ニーズというのは鮮度があるので、あまり昔の成約情報を元にピックアップした買手のニーズがどうかはきちんとスクリーニングしないとピックアップした情報の精度が悪いものになります。
さらに、M&Aをする会社の規模が小さければ小さいほど、「一般的にシナジー効果があると思われる会社同士のM&A」とはかけ離れた結果になることもあります。
どういうことかというと、上場企業などであれば自社と関係ない事業を行っている会社を買うケースは稀ですが、ワンマンな中小の買手企業の場合は、「気に入ったから」という理由でM&Aしていくこともあったりします、ということです。
日本は非常に中小零細企業の割合が多く、全企業の内、中小企業が99.7%(とりわけ従業員が5名以下の小規模企業は9割弱)という統計があるので、この小規模企業のM&Aに対してAIが活躍できるか、と言われると、特効薬とまではいかない参考情報というレベルでしょう。
ただ、今までのコンサルタントの属人的なリストアップに比べれば効率的であることは確かですし、単純にポカヨケにも繋がります。
最近では、売手が無料で利用できるM&AプラットフォームでもAIマッチングが実装されていたりもするので、AIに力を入れているから、という理由でその仲介会社を選ぶのはあまり良い選択ではなく、仲介手数料が同じだったらAIにも力を入れている方がいい程度で見ると良いと思います。
また、AIでの精度は、抽出元になるデータの量や質に比例しますので、AIの能力を測るときは、その仲介会社の社歴や実績なども注意してみてみましょう。あまり設立が新しい会社だと、実績が無かったり、外部から買ってきたデータが元データになっている可能性があり、精度が低い可能性があります。
仲介会社1社で独自のAIを開発したところで抽出元のデータがそもそも限定的なので、オープン型で運営しているM&Aマッチングプラットフォームが本気でAIに着手されると敵わないと筆者は思います。どちらかというとAIに重きを置いている仲介会社というのは、営業的なアピールや、最近の潮流であるDXに着手しているということを株主にアピールするということが目的な気がしますね。
ちなみに筆者の会社では、M&Aプラットフォームを利用して買手探索をするのですが、鮮度のよい買手を複数社並べてコンサルタントが直接アプローチする形になります。なので、結構、生身の人間が工数をかけてやっている感じです。
ただ、その分企業概要書も精度の高いものを作り、初期的に買手ニーズとの適合性を測るので、”実際に今買いたいと思っている買手と企業の特徴もきちんと理解した上で”交渉が進められると思っています。実際、前職の仲介会社よりもトップ面談以降に進んだ際の成約率が高く、早期に結論が出せるというメリットもあるように感じます。
実務をやっている筆者からすると、中小企業のM&AほどAIに取って代わられにくいものはないという感覚ではありますが、人海戦術で変な営業をするよりかは、AIなども活用してスマートな営業ができるとクレームも減り良いのではと感じます。
最後までお読みいただきありがとうございました!