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どうして異常に高い希望金額・希望条件の売り案件しか出てこないの?

お悩み社長

買手なんだけど、希望金額が高い案件しか出てこないのはなんで?

 

こんにちは、M&A職人です。

筆者が買手企業の方とお話しているとこんな話をされることがよくあります。

M&Aプラットフォームで掲載されていたり、仲介会社から紹介されたり、売り案件を知る経路は様々ですが、異常に目線の高い案件というのは結構存在しています。

 

今日はその原因と対策について考えてみましょう。

M&Aの買手も売手も参考になる情報かと思いますので、是非最後までお付き合いください。

 

異常に高い条件設定はこうして生まれる

 

異常に高い売り案件が生まれてしまう背景として挙げるとこんなことが原因かと思われます。

①売手が自分の会社を過大評価している
②仲介会社が必要以上に期待を持たせるようなことを売手に言っている
③仲介会社の能力・経験不足

④一か八か案件

①の理由は理解しやすいと思います。

「私の会社は、昔はすごかったんだ」(今は違うけど)

「私の会社は、すごい技術があるんだ」(売上にはつながっていないけど)

自分のやってきたことを誇りに思うことは素晴らしいと思いますが、その気持ちのまま高い条件設定してしまうと買手が付かない(成約しない)案件になってしまいます。

 

ただ、売手としてはM&Aの経験など無い人がほとんどなので、その認識をきちんと市場感にマッチさせてあげるのはM&A仲介会社の役割になります。

 

そこで②③です。

 

「なんとかして受託案件が欲しい」という仲介会社や、経験値の低いコンサルタントに当たってしまうと、おかしな目線感でそのまま買手打診してしまったり、本来決まる案件なので決まらない案件にしてしまうことも起こります。

これは次項以降で詳しく仕組みを説明します。

 

④については、「良い条件で売れるんだったら売るけど、売れなかったら別に売らなくていいや」というあわよくば系の案件や、「借金が重すぎてバンザイしたいけど、最後の望みでM&Aにトライしてみようか」というようなバンザイ一歩手前系の案件などがあります。

 

前者であれば、売手側もM&Aせずともきちんと利益を生んでいるので慌てて売る必要なしとしていることもあり、会社のコンディションとしては良いこともあります。一方、後者の場合は、誰がどう見ても借金が重すぎる状態やどう頑張っても赤字から抜け出せない状態に陥っていることが多いです。

 

中小企業のM&Aというのは基本的に相対取引なので、世間的にみてかなり高いなと感じてしまう条件設定であってもそのまま世に出てくることがあります。

 

仲介会社の先入観が入った条件設定になってしまっている

 

①や④は売手本人の事情によるところなので仕方ないのですが、②や③はM&A業界の問題でもあり、多くの人がM&Aに対して不信感を抱くポイントにもなっています。

 

多くの仲介会社では、受託する前に株価算定という形で、売手企業から決算書を預かり想定される売却株価を試算します。

 

でも、実際複数の仲介会社から株価算定をもらうと結構内容はバラバラだったりします。

なぜでしょうか?

これは、「計算の前提情報に差がある」、「仲介会社独自の味付けが入っている」ということが原因だったりします。

 

「計算の前提情報に差がある」とはどういうことかというと、決算書をもらった段階で仲介会社が売手に対してヒアリングを行うのですが、それをどれだけ丁寧にやるかには会社によって違いが出ます。

簿外に保険資産があるかどうか、それは解約したときいくら返金されるのか、法人保有の不動産に含み損益はあるのか、M&A後役員は退任する前提なのか、役員が退任しても会社は運営できるのか、決算に影響を与えた一過性の要因はあるか、など、ヒアリング項目をルール化しているところもあればしていないところもあります(ルール化していると抜け漏れは少なくなりますが、杓子定規な内容になったりもするので、経験あるコンサルタントの気づきで深堀していくのが一番で正確かと思います。いささか属人的ですが。)

 

何もヒアリングせずに、自社のシステムに流して自動で株価を出しました、みたいな会社もありますが、いうまでもなくおかしな株価が出てくることもしばしばです。

「仲介会社独自の味付けが入っている」とはどういうことかというと、のれんの評価などにおいて今後のその会社が生み出す利益を何年分みるかなどについて仲介会社によってズレがあるということです。

 

〇〇業界は〇倍みたいなルールが決まっているわけではないので、正解も不正解もないですが、ただ、こういう調整項目で「売手に興味を持ってもらうために高めに設定しとくか」というような忖度も入るリスクはあるので、株価算定を受け取る側は注意した方がよいということです。

 

売手は誰しも高く売れるなら高く売りたいと思っています。

 

それゆえ、高い株価を出してくれる仲介会社を選びがちになります。

 

仲介会社もそういう売手の心理を知っているので、何としてもその案件を受託したければ高い株価を出すようになります。

 

本来、売手がおかしな目線感を持っているなら、仲介会社はそれについて、

「その株価だと決まらない可能性がある」

「今回のM&Aは成約させることが第一の目標ですか、または、決まらないなら決まらないでであきらめる話ですか?」

「希望する株価を交渉できる情報は他に何かありますか?」

など、成約可能性についてきちんと伝えて、どういう条件設定で進めるか、売手が言っている条件がおかしいのであれば目線を正すような話をするか、売手が言っている条件を合理的に交渉できるような情報を取りにいくか、などをするのが仕事です。

 

でも、そうせず、仲介会社が高い株価を出して、売手が「よし、それでやろう」と突っ走ってしまっている案件も多々あります。

 

これで目線の異常に高い案件の完成です。

 

売手と仲介会社のスケベ心が重なったときに生まれる産物とも言えますが、往々にして、そのスケベ心を買手にかなえてもらおうという、多少無責任ともいえる願望を抱いて案件化する形になってしまうわけです。

 

コンサルタントが未熟だと売手に押し切られて異常な条件になることもある

 

上記は、仲介会社が意図的に株価算定を調整する、という話をしましたが、仲介会社のコンサルタントが未熟のケースでも意図せず目線の異常に高い案件が完成することがあります。

 

これはどういうケースかというと、例えば、仲介会社で行う株価算定について専門部署があり、担当者があまり詳しく株価算定結果について理解していない状態で売手に持っていくケースです。

 

担当者もよくわかっていないので、とりあえず書いてあることを説明して、売手がなんかその気になったので、受託しました、という感じになります。

 

こういうパターンの時は、なかなか買手が見つからないという状態になって初めて「この希望金額では難しい」という話をされるので、売手としては騙し討ちにあったような気持ちになる方もいます。

 

株価算定について経験に基づいた話や説得力のある話ができるかどうかは売手としても最初の段階できちんと見ておかないといけない点かと思います。

 

また、きちんとした目線感に持っていこうと試みるも、売手に論破されてしまい、結局売手のよく分からない論理を鵜呑みにしてしまうケースもあります。

 

M&Aの市場感を持っている売手はあまりいないですが、業界知識や会計知識などは下手なコンサルタントよりも売手の方が勝るケースもあり、専門的なことを言われ、言い返せず、そのまま持ち帰ってしまうということも起こります。

 

傾向として、これで案件化した売り案件というのは、往々にして売手がコンサルタントのアドバイスを聞かない案件の可能性が高いです。なので、買手としてみたら、交渉を進める上で「もうコンサルタント無しで直接売手と話した方が早くない?」と感じる案件といえるかもしれません。

 

買手の賢い選択は「割高な案件は買わない」

 

さて、こんな異常な条件の案件に遭遇した時、賢い買手はどう判断するべきでしょうか?

 

それは、どれほどその売却企業に魅力があるかにもよりますが、

「割高な案件は買わない」

と判断するのがやっぱり妥当です。

不動産の情報よりもM&Aの情報というのは外部に出にくく、専任契約も多いので、他の業者を使ってその案件にタッチするというのも容易ではないです。気になったとしても見送る、というのは一つのやり方です。

 

おかしな条件設定をしていると他の買手も見送る確率が上がるので、結局決まらない案件となります。

 

そうなると、売手も「これでは希望が高すぎたかな?」と条件を下げるケースもありますし、「この仲介会社に依頼せずに他の仲介会社にしよう」と仲介会社を切り替えるケースもよくあります。

 

仲介会社が設定している仲介手数料というのは単なるコストなので、仲介会社が売手からもらう仲介手数料が高ければ売手の希望金額が上がります(手取り額は維持したいから)し、仲介会社が買手からもらう仲介手数料が高ければ買手がエントリーする際のハードルが上がります。

 

ということは、一旦案件を見送って、他の仲介会社経由で同じ案件にリーチできるようになれば、売手の希望が変わらずとも仲介手数料の差の分だけ割安になることもあるわけです。

 

「ものすごくほしい会社なので、高くても買う」という判断も間違ってはいないですが、当然譲り受けてからの回収がハードになるので、妥当だと思えるようなところを戦略的に模索するというのをおすすめします。

 

売手の賢い選択は「いいことばかりをいう人を信用しない」

 

売手が希望条件を決める際に参考になる意見を聞いていく中で、

「いいことばかりをいう人を信用しない」

ということが重要です。

 

仲介会社のコンサルタントといっても、きちんとしたコンサルタントとして意見を言う人もいれば、単なる営業マンとして接してくる人もいます。

 

これは売手の好みの問題もあると思いますが、きちんと成約したい、買手におかしな条件を設定していると思われずフェアな条件でできるだけ多くの会社と交渉したい、と思っているのであれば、きちんとしたコンサルタントと話をした方がよいと思います。

 

このコンサルタントなのか営業マンなのかの見分け方は、売手の無茶な依頼や願望的な依頼にどう対応するかなどでも見分けられることもあります。

 

高すぎる希望を言った時にどう反応するかもそうですが、例えば、Aというの第一希望にしていたが急にBというのを第一希望にしてみるとか、売上に結びついていない無形資産やまだ実現していないビジネスチャンスなども評価欲しいと言ってみるとかです。

 

ある程度経験のあるコンサルタントになると、内容によっては「この話を鵜呑みにすると買手と交渉進められないな」というのも感じ取るので、妥当な案件になるよう修正を試みますが、営業マンの場合は「頑張ります」という意欲を示すような話で終わってしまうようなこともあります。

 

M&Aは資料を準備するなど手間もかかりますし、仲介会社によっては着手金が発生するようなところもあるので、M&Aの検討を進めるのであればきちんと成約できそうな見通しをもって信用できそうな仲介会社を選びましょう。

 

最後までお読みいただきありがとうございました!

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