M&Aいろは塾は、これから会社を売却しようという売手オーナーに向けて情報発信しておりますが、最近では買手企業の方からも、「仲介会社を使いたくない」とか「うちのアドバイザーについて困っているんだけど」というお話を聞く機会も増えてきました。
ですので、今日は番外編になりますが、買手企業の方向けに記事を書こうと思います。
本日の記事が役に立つ方
・M&Aを行う際に高値掴みをしたくないと考える買手企業の方
買手企業にとっては、具体的な案件について仲介会社と会話を始めたあたりで「ん?」と疑問に思うところも多いと思いますが、実務的に役に立つ情報もお伝えできればと思います。
それではいきましょう!
そもそも買手企業にとって仲介業者とはこういう存在
まず、買手企業が仲介業者と接点を持つ際には、どんなケースが多いのでしょうか。
大半はこのようなケースかと思います。
(コンタクト方法は電話、会社お問合せフォーム、DMなど)
・自らM&Aプラットフォーム上で案件の検討を始めた際に、仲介会社が間に入っている案件だった
・直接仲介会社に訪問したり、セミナーなどで面識を持ち、買いニーズを登録した
具体的に検討する案件がなければ情報交換だけして終了、というケースがほとんどですが、具体的に検討する案件がある場合には、検討を進めるか否かについてYes/Noをジャッジする必要があります。
ここで重要、かつ、売手側との決定的な違いは、買手企業は仲介会社を選択する余地がないということです。
仲介会社の中には売手企業と専任契約を結んでいる会社もあるため、案件によっては、「その案件の検討を進める上では、その専任である仲介会社を使わざるを得ない」ということになります。
つまり、めちゃくちゃ欲しい譲渡案件だとしても、仲介会社が「仲介手数料2,500万円です」と言えば、その仲介手数料を払って案件を進めるか、あきらめるしかないわけです。
もちろんディスカウントさせるやり方はあるのですが、基本的にはそういう仕組みなので、M&A業界のこの構造にヤキモキしている買手企業も多いのも事実です。
なので、買手企業が仲介業者絡みの会社をM&Aをしようと思ったら、「仲介会社を上手くコントロールしながら」、「適正価格を見定め」、「後に問題が起きないよう正式な手続きを踏みながら」進めていくことが重要です。
騙された!と後から気づいても遅い
M&Aは一度実施してしまったら、「やっぱり無かったことに・・」ということには簡単にはできません。
取引先や従業員などをガッツり巻き込むので、かなりの混乱を招きますし、代金の回収も難しいケースもあります(株式譲渡の場合は、M&Aの決済代金が個人の口座に振り込まれるということも多いですが、いくら株式譲渡契約書で表明保証の条項を設けたとしても、個人である売主が「全部使ってしまった」ということであれば回収は難しいということです)。
なので、「騙された!」と感じないようにきちんとしたM&Aのフローを踏む必要があります。
ただ、仲介業者というのは成功報酬で動いている会社がほとんどなので、基本的に成約させることを第一に考えます。筆者も大手の仲介会社に在籍しておりましたので分かりますが、「短期間で成約させた」ことが一つのタイトルみたいな扱いをされるので、M&Aのフローをすっ飛ばそうとする不届き者もいたりします。
また、一部の仲介業者は売手に「高く売るから弊社に任せてくれ」と言って受託している手前、買手には高めにふっかけてくるケースも多いですし、仲介業者の成功報酬が譲渡額に比例するケースもあるので高く売ろうとしてきます。
なので、うかうかしていると「M&Aの成約を急かされ」「高値掴みをさせられる」リスクが非常に高いのです。
ちなみに、ソフトウェア開発など市場ニーズの多い案件を持ち歩いているM&A業者に特に多いのですが、99社高いと言われたとしても、1社仲介会社の言うことを鵜呑みにして高値を出す買手を探してくればよい、という考えで動いている業者もいます。
買手がきちんとした検討材料を基に自ら提示した価格なら良いですが、事実に反し「他社が●●くらいの金額なので●●くらい出しましょう」と無理にけしかけて提示金額を出させるのは明らかに問題ですし、買手からも手数料を貰っているわけなので利益相反の関係からすると完全にアウトです。
筆者はこういう問題のある業者は業界から追放させたい想いで活動しているところもありますが、騙されて高値で買ってしまう買手企業がいる限りこういう業者は居続ける構造になり、きちんと仲介を行っている優良業者は買手の提示金額で負けるため撤退し、買手企業が高値掴みをしたことで譲渡した会社の利益回収のハードルが高くなるため、従業員などの関係者への利益還元が出来なくなることもあります。
なので、M&Aの知見が無い買手企業が問題のある業者と出会うと地獄しか待っていない、とも言える訳です。
仲介会社の動きを監視するセカンドオピニオンの重要性
近年、中小企業庁を主体にして、売手を混乱させる仲介業者が増えているのでセカンドオピニオンを許容しましょう、という風潮が出てきました。
でも、筆者としては、買手企業が安心してM&Aの検討ができることも超重要だと思っていて、売手・買手双方できちんとした知見を持った仲介業者と付き合うことがM&Aを成功させる方法である、ということを浸透させたい想いです。
買手企業で、もしこれからM&Aをしてみよう、と考えたら、案件探しも良いですがまずはM&Aの教科書的な進め方・買収後のリスクの減らし方を知り、M&A業界やM&A仲介会社の動きを理解してから、案件にエントリーするようにしましょう。
面倒ですが、この工程を省いて、案件を持ってきた仲介業者のアドバイスを鵜呑みにしてしまうと取らなくて良いリスクを負わされる可能性もあります。
コンサルタントの人数をかき集めて、大規模に営業をしている仲介会社は特にその傾向がありますが、巷にいる多くのM&Aコンサルタントと呼ばれる人々は、知恵を伝えてよい方向に導くコンサルタント(相談役)ではなく、ただ単に売りたいものを売りつける営業マンであることがほとんどなのです。
実際にM&Aを実施した買手企業と交流があれば、どんな交渉だったか、仲介会社の動き方はどんなだったかを聞いてみてください。「なんでこんなに仲介手数料払ったんだろう」と後から疑問(後悔?)に思っている買手企業が実に多いのも事実です。
ちなみに、M&A仲介業者を介さない(買手と売手が直接交渉する)ようなM&Aはどうしたら良いかも追記しておきます。
売手企業と直接交渉したい場合は、TRANBIなどのプラットフォームで直接コンタクトを取ることが可能です。
ただ、いづれもサイトの利用料金は有料で、比較的大きめの案件は仲介業者がM&Aプラットフォームに案件を掲載している(=仲介会社を使わないといけない)ケースが多いです。
「案件探しにコストをかけたくない!」という買手企業の方は、公的機関である事業引継ぎ支援センターに登録するのもよいかと思います。ただ、買手企業が多い業界だとそこからの紹介はいつ来るか分からないくらいなので、一応登録しておく程度のイメージをしておきましょう。
下図は、中小企業庁の「中小M&A推進計画(概要)~計画策定の趣旨等~」の資料から引用したものです。
この図から分かるのは、年商1億円以上の案件を検討しているのであれば、M&A仲介業者や地銀(もちろん都銀も)などを使わないとコンタクトできる案件数が少なくなってしまう、ということです。
M&A仲介業者は、数百万円以上の仲介手数料を稼ぐために、年商1億円以上の売手企業を相手にする必要があり、そのために、大金をはたいてDMや電話やWebでの宣伝広告費を投入しているのが現状です。
なので、一定以上の規模の会社であれば大抵はどこかしらのM&A仲介業者からコンタクトを受けているはずですので、仲介会社付の案件も多いというわけです。
一定の年商規模以上の会社とのM&Aを積極的に考えている買手企業で、色々な案件を検討したいと思っているのであれば、仲介業者は常にいるものだと割り切って案件探索した方が、自社にマッチした案件に出会える可能性は広がるとも言えます。
自社に合った相手探しを検討しましょう。
ご参考いただければ幸いです。
最後まで読んでいただき有難うございました!