お悩み社長
会社を売ろう!と思った時、買手がつくかどうかというのは、売手オーナーさん共通の関心事だと思います。
「御社とM&Aしたい買手がいる」というDMも仲介会社のただの営業だと思ったとき、本当に我が社に興味を示してくれる先はいるのかな?なんて思うものです。
筆者も今まで仲介者としてかなりの数のM&Aをお手伝いしてきましたが、実際、買手からの”引き”は売却する会社の業種や内容によって全然違います。
これは、単純にM&Aという手段が買手が事業規模を拡大する上でマッチするかどうかが業種によって違う、というのが原因だったりもしますし、売手の数に対して買手の数が多いことから、常に買手が空腹状態になっていて引きが強い、みたいな需要と供給のバランスが原因だったりもします。
売手としてみたら、たくさん買手がいればいるほど良い条件で会社を売却することができることになるので、買手が多いに越したことはありません。
「自分の会社の人気度」をある程度知った上でM&Aを始めると交渉も現実的な目線感で始めることができますので、是非今日の内容をご参考いただければと思います。
なお、ここではイメージしやすいようあえて具体的な業種名を挙げて説明しますが、人気が無いからといってもM&Aができないわけでは全くないです。M&A仲介会社からみて、「この業種やりたいな」「この業種は苦手だな」というレベルで捉えていただければと思います。
それではいきましょう!
大人気!買手が後を絶たない業種
まず、人気のある業種を見てみましょう。筆者の偏見も入りますが、M&A仲介の界隈では人気とされている業種はこんな感じです。
・システム開発(受託開発、SES)
・運送業(汎用的な物をラストワンマイルで運ぶような運送)
・自動車整備、板金工場(一定規模以上、整備士・板金職人・塗装職人などが多数いるなど)
・調剤薬局(場所や薬剤師の状況、規模感が良いもの)
・工事会社(電気、管、設備、土木など。ただし、都市部で高齢でない職人が多数いること)
・建材卸(一定以上の規模で、シェアを取れており、従業員が高齢化していない)
・ビルメンテナンス(一定以上の管理戸数を保有)
・保険代理店(M&A後顧客が減らない)
・動物病院、ペット食品販売(一定規模以上、獣医師が確保できる)
・人材派遣(技術職。事務派遣や軽作業派遣、コールセンタースタッフ派遣なども需要は有り)
・警備業
・プロパンガス小売販売 など
注意点ですが、この業種の意味合いとしては、M&A仲介会社が必至に売却案件探しをしている業種という意味です(実際に買手がいるか、買手からどのくらい欲しがられるかは別の話です)。仲介会社が必至に案件開拓することで、世の中の売却案件数は増え、その業種を買収する買手数も増え、M&Aがその界隈で盛んになってくる、という面があります。
色々挙げましたが、ここで挙げた業種であっても、特定の人物に依存し過ぎてしまっていたり、ニッチな要素が大きいと対象から外れることがあるという点です。
例えば、社長自ら営業をしている保険代理店でM&A後社長が退任する、という話であれば、お客さんもいなくなってしまう可能性があるので、買手からしてみると買収対象外になることがあります。
また、運送業でも重量物を運んでいるような会社は、EC需要の高まりで運送物が増えているからM&Aでトラックとドライバーを確保したいと考える会社からは買収対象外となってしまいますし、人材派遣業といっても、劇団員や実演販売員の派遣をしているような会社だと、頻繁に買収を繰り返しているような大手人材派遣会社が対象にしないなどあります。
あくまで、すぐに経営上の問題に直面せず「汎用的」な会社が求められるケースが多かったりします(特殊な強みのある会社を買収したいニーズも実際ありますが、汎用的な方が買手の幅は広がるという意味です)
財務状況が良いけどニッチすぎる事業をしている会社と、財務状況は悪いけど汎用的な事業をしている人気業種の会社で比べた時、後者の方が早く成約するなんてことも実は良くあります。
実際この辺の業種は、数年前からずっとM&A仲介の界隈では人気とされています。だからこういった会社には死ぬほど仲介会社からDMやメールや電話がきていますね。
オーナー自らM&Aプラットフォームに登録してもかなり引き合いがくる業種ではあるので、
「買手をたくさん紹介してくれそうだから仲介手数料が高くてもこの仲介会社に任せよう」
という発想で仲介会社を選ばなくてもいいかな、と筆者は思います。
また、ちょっと変わったところだと、税理士事務所のM&Aとか士業のM&Aも割と行われていたりもします。
ちょっと厳しいかも・・あんまり買手がつかない業種
一方、あんまり買手がつかない、つきづらい傾向にある業種もあります。例えばこんな業種です。
(当然、これらの業種であってもM&Aが成約することはあるので、売却を諦める必要はないであしからず・・)
・製造業(小規模で、ニッチなものを作っている)
・スーパー(規模が小さく、過疎地にある)
・印刷業
・飲食店(立地が悪い)
・美容室、理容院、エステなど(美容師=オーナー)
・ガソリンスタンド
・アパレル
・旅館、ホテル(過疎地にあり、人手不足)
・結婚式場(不採算)
・民泊関連 など
製造業も色々ですが、作っているものが特殊過ぎると買手探しが難しいことが多いです。
クライアントの仕様に合わせた金型やプラスチック成型品を作っていますとかであれば汎用性が高いことが多いのですが、自社で特殊な装置を企画から最終製品まで仕上げています、とかになると、買収打診した会社もそもそもその製品を知っているかどうかというレベルからの話になってしまいます。
また、立地が悪い小売店・サービス業は転用もしにくいので買手探索が難しいですし、流行のスピードがとても速いアパレル関連は滞留在庫も多いのと買手企業が相対的に少ないのもあって買手探索が難しいです。
あと、業種という訳ではないですが、こういう特徴のある会社は一般企業の買手はあまり買わないです。
・家族経営で従業員がいない
・許認可だけ、会社に付随する権利だけ
・サイトだけ
・場所だけ
・いわゆる転売事業 など
最近よく行われている中小企業のM&Aというのは、従業員も含めて譲渡し、ある程度事業が現状のまま存続するということが前提になっているため、M&Aと同時に働き手がいなくなり急に機能しなくなるようなM&Aや権利だけ買うというようなM&Aは、あまりM&Aとして扱われないことも多いです。
この手の案件は仲介会社も手を出さないことがほとんどなので、ネットマッチングなどを通じて個人間で売買することが多い気がします。
もちろん、ここでお伝えした業種もM&Aが成約しないという訳では全くなく、M&Aを諦める必要は全然ないです。
広告系の会社で印刷業を数多く買収するような会社もあれば、傾いたホテルや旅館を再生させるような会社もありますし、美容室チェーンで店舗数を増やすためにM&Aをしている会社もあります。
業界全体に買手がたくさんいるという訳ではなくとも、強い買手がたくさん買収している業界もあるので、そこと交渉することで成約するということはあります。
「複数の買手の競わせて良い条件を出してもらおう」という感じで動いて、きちんと思惑通りにいくかどうかは業種によるということですね。
また、M&Aが成約するかしないか、というのは買手がいる・いないだけでなく、売手側の希望条件が高い・低いもおおいに関係するので、「買手があまりいない業種なのに希望条件が高い」という組み合わせにならないようにすれば成約する可能性も上がります。
念のため補足ですが、希望は希望なので「ウチの会社は素晴らしい技術があるから絶対に安売りしない」というのも希望条件としてはアリですし、「別にM&Aが成約しなかったらしなかったで困らないから高値で探したい」というのも希望条件としてはアリです。
ただ、成約する、ということを目標に動くのであれば、買手がいる業種なのかどうかというのも意識して希望条件を考えることは非常に大事なことになります。
自分の業種が人気業種か確認する分かりやすい方法
上記で説明した中で、読者の方の業種は出てこなかったかもしれません。
自分の会社の業種が人気業種か調べる方法としては、
「M&A仲介会社のホームページなどで記載されている業種別の特集やセミナーを確認する」
です。
ほとんどの仲介会社はM&A売却案件を常に探しています。
その中でも、買手がいてすぐに決まりやすい案件は喉から手が出るほど欲しいわけなので、仲介会社側が相談してほしいと思っているような業界・業種についてはセミナーを頻繁に開催していたり、その業界・業種に関する情報が詳しく記載されていたりします。
よく見てみると大体どこの仲介会社でも同じような業界・業種にフォーカスしていたりしますね。
また、誰でも案件情報が見れるM&Aプラットフォームを見てみても面白いかもしれません。
「この案件ずーっと成約せずに掲載されているな」とか「この関連業種の掲載は数は多いけど全然閲覧数無いな」とかも分かるので、どのくらいの規模・業種が注目度があるかは割と生々しい情報が分かったりします。
是非一度確認してみてください。
いかがでしたでしょうか?
色々説明しましたが、個々の会社によって売却しやすいかどうかは異なります。財務内容や会社の場所、強み弱みなど同じ会社は絶対に無いからです。
仲介者として色々な業界の買手と会話していると、なんとなくでも売れやすいか売れにくいかは分かるようになってくるので、この辺はM&A仲介会社としても経験値が問われる部分かと思います。
最後までお読みいただきありがとうございました!