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「中小企業がM&Aしたら従業員の給料が下がる!?」失敗事例から学ぶM&Aのその後

お悩み社長

M&Aをした後に従業員の給与が下がるんだったら、恨まれそうで気が引ける・・

 

M&Aをしようと思った時に、まずそのように考える人が多いと思います。

 

実際、筆者も数多くの経営者様とM&Aの会話をする時に、必ずと言っていいほどM&A後の待遇が悪くなるのでは?」という質問をいただきます。

 

確かにM&Aをした後はもう自分の会社ではないわけですから、従業員の給料に変更が加わるのをどうすることもできず、従業員が悪く思わないか心配するのも分かる気がします。

 

中には、「誰かに恨まれてM&Aでお金を受取るようなことはできない」とM&A自体を否定する方もいらっしゃったりしますが、ちょっと誤解している部分も多いかなと思いますので、その辺について実態も踏まえてお伝えできればと思います。

 

 

本日の内容が役に立つ方

・M&Aをしたことで誰かに迷惑をかけるか心配な方
・従業員の給与を守るために具体的に何をしたらよいか知りたい方

 

それではいきましょう!

 

 

 

中小企業のM&Aが原因で従業員の解雇・給料が下がった事例

 

例えばこんな事例があります。

事例①

飲食店を複数店舗を営むA社長は後継者不在を理由にM&Aを決意。
国道沿いで店舗のサイズ感・立地が良かったこともあり、他のジャンルではあるが同じ飲食業界の買手B社が名乗りを上げる。
話はトントン拍子で進み、譲渡を実行するが、数か月後事件が発生。
元々いた従業員(正社員)に対し、B社から送り込まれた役員が「店の業態を変えることに伴って雇用条件を変更する」と実質クビ切りに近い動きが始まる。
これを言い渡された従業員は、「M&Aの話をされた時と言っていることが違う!」と反発するも、取り合ってもらえず、
結局、従業員たちは職を失うことになる。

 

これは、結構知名度の高い飲食チェーンの買収で発生した事例です。

筆者も、「いきなり解雇?」と驚いた記憶があります。

 

中小企業のM&Aでは、一般的に大企業のM&Aよりも人員整理が起きにくいと言われていますが、まれにこういう話もあったりはします。

客観的にこういう事例を見ると、「売手企業の事業に興味があったんじゃなくて、居抜き店舗を探す感覚でM&Aしたんじゃないか?」と思ってしまいますよね。

 

 

また、同じ飲食関連ですが、こんな話もあります。

事例②

某飲食店を営むC夫妻は後継者不在のため譲渡を決意。
C夫妻の店は、昔から働いている古株の社員に同業界では法外に高い給与を支払っていたため、店舗の収益は赤字に近い状態が続いており、
そんな状況も打開してくれるような買手に引き取ってもらいたいと考えていた。
買手探索の結果、同業で業績が絶好調のD社に譲渡が決まる。
D社社長は、お店を立て直すため古株社員の報酬は調整する可能性があることはC夫妻に伝えていたが、C夫妻から古株社員に上手くそのことを伝えていなかったため、労働条件の変更によって古株社員は不満を抱えて離職することに。
最終的にそのお店は業績を立て直すも、C夫妻は古株社員とわだかまりをもった状態になってしまう。

 

労務費の比率が高くなりがちな中小企業において、「従業員の給料」と「会社の収益」はシーソーのような関係にもなります。

つまり、「会社を立て直すこと」⇒「従業員への報酬を適正にすること」⇒「高給取りの従業員は給与が下がること」に繋がるケースもあるわけです。

 

もちろん、高給取りの従業員の仕事ぶりがD社にとって給料相応だと感じられるものであればこういうことにはならなかったものと思いますが、単純に古くから働いているからという恩義で高い給与を払っていたのであれば、こういうことにはなり得るような気がします。

 

 

また、ちょっと特殊なケースですが、こんな事例もあります。

事例③


建設業を営むC社社長は、事業規模を倍々で拡大してきた。

しかし、顧客である大手建設会社とのトラブルで支払が停止。
事業場の立替金を金融機関借入に頼ってきたC社は急激に資金繰りが悪化したため、スポンサーになってくれる会社を探索開始。
負債額も大きかったため、結局最終的に株式譲渡で資本参加してくれる買手は見つからず、C社は倒産することを検討
従業員の雇用だけでも守るため、同業のD社に従業員の引き受けを依頼。
給与はD社の水準に下がったものの雇用は守られた。

 

これは少し上の事例とは異なり、かなり業績が悪化した時に行う事業や従業員の譲渡の話です。

 

倒産する運命の会社だと思えば、雇用が守られただけでもよかった、とも捉えられますが、売手側に交渉する余地が無いような場合には従業員の報酬云々について注文を付けられるような状態ではないという例にはなります。

 

 

従業員の給与が下がる原因とそれを防ぐ具体的な方法

 

上記の例で言えることは、

・買手の買収目的が従業員とは全く関係ない場合は、従業員の雇用条件が軽視されやすい
・恩義で高い給与を支払っていた場合には、適正給与に戻される可能性がある
・売手の交渉力が非常に弱い時には、従業員の雇用条件についてあれこれ言えない

ということです。

 

筆者が数多くの中小企業M&A案件に携わっている中で、「M&A後にすぐ従業員給与をいじります」という買手は正直あまりいないです。

 

だって、それほど数のいない中小企業の従業員が一人でも辞めてしまったら、いきなり業績に悪影響が出かねないからです。

万一、買手が「なんとかして労務費を減らしたいな~」と思っていたとしても、まずは社内の様子をきちんと理解して、「●●さんの給料を減らしても会社にあんまり影響なさそうだけど、●●さんの給料を減らすと影響がでるかも」なんてことを一定期間検討してから行動に移すのが普通です。

 

また、基本的には「従業員の給与を減らして会社の利益を増やして投資回収するぞ」という買手よりも、「今の従業員の給与を増やせるように、両社で協力してよい仕事を増やしていこう」という前向きな買手の方が多いので、いきなり従業員給与云々の話にならないことが大半です。

 

つまり、「従業員の仕事に対してその業界相応の給与を設定」していて、「きちんと収益が出ている会社」を、「従業員以外の会社の資産が欲しくてM&Aしようとしている会社」に売らなければ、この問題はあまり気にしなくてもよいと思います。

 

 

そうはいっても株を渡してしまったらもうコントロールできないわけなので、具体的な対策も考えてみます。

 

その対策として、「最終契約書に従業員の雇用条件を規定する」という手段は有り得そうな気がします。

 

株式譲渡の場合には、買手が売手の会社を雇用契約もそのままに引き継ぐ格好になるため、こんな感じの条項が契約書上に入ることが多いです。

第●条(従業員の処遇)
買主は、対象会社をして、クロージング日時点の対象会社の従業員について、クロージング以降も、その地位、役職及び賃金水準を尊重し、
当面の間、クロージング日時点の雇用条件を変更しないものとする。

※対象会社というのは売手企業のことです。

 

要は、買手の管理下になったとしても給料を維持してしてねー、という意味合いで入る文言です。

最終段階の「株式譲渡契約書」の他、買手からの初期的条件をお伝えする意向表明書などにも似たような内容が書かれるケースがあります。

 

法的な制限を付けるというのが目的、というより、買手の本音を知り、交渉に役立てられるというものにはなります。

 

ここでの表現で、「買手が雇用条件を維持できるよう努力する」なのか「買手が雇用条件を維持する」なのかで、買手の今後の方針が透けて見えることもあります。

M&A後に給料を下げてやろう!と思っている買手は、変な拘束を受けたくないはずなので、努力義務で止めておきたいと思うものです。

 

また、「当面の間は」なのか「●カ月は」なのかでも、買手の意図が伝わることもあります。

ずっと雇用せい、というのは逆に健全な企業活動の妨げになるので、それほど長期で定めないことが多いのが一般的ですが、明らかに短期間なのに雇用条件の変更禁止を拒む買手がいたとすればそれは慎重に見た方が良いです。

 

実務的には、売手から買手へのお願いみたいなイメージの文言なので、「破った場合は●●」とまでガチガチに作り込まないケースが多いですが、お伝えしたように”買手の本音”がにじみ出る可能性がある箇所なので、買手と深い議論をするきっかけにしていただければなと思います。

 

こうしたやりとりを通じて、信用に値する買手かどうかを売手自身が確かめにいくのが有効な手段かと思います。

 

 

ちなみに、多くの仲介会社ではこうした説明までしてくれないケースが多いです。

悪質な業者の場合、買手に色々な交渉を持ち込まないよう、さらっと説明して契約を進めてしまうところもあります。

売手側の理解度に併せて、契約書の説明はしないと仲介としての仕事をしているとは思えませんが、単純に担当コンサルタントの経験値が不足しているケースもあるため、最初の仲介会社選びの段階で、こういった話題を振ってみて、明確な回答が得られるかを試してみてもいいかなと思います。

 

 

 

以上が、従業員の雇用条件維持のために行う方法ですが、「従業員の仕事に対してその業界相応の給与を設定していない」というケースや「きちんと収益が出ていない会社」というケースはどうしたらいいでしょうか?

 

この点については、筆者の考えにもなりますが、「従業員の雇用条件維持」にこだわるのではなく「会社としての存続・成長」を優先する、というのがあるべき姿と思います。

 

厳しい言い方にはなりますが、会社の業績に問題があるのは元々の経営者にも責任があるわけで、その状態の会社を他社に引き継ぐ時に、「従業員に良い顔がしたいから雇用条件を維持してくれ」という趣旨の要望を出すのは、誰の共感を得られるものではないですし、結果引き継ぐ会社の為にもなりません。会社が傾けば従業員にとっても良いことはありません。

 

上の事例②でお伝えしたようなケースでは、古株社員が昔から働いているというだけで高い給与を支払っている一方、会社の業務にとても貢献している年次の若い社員は安い給与の可能性もあります。場合によっては、年次の若い社員は古株社員と比較し、給与に不満を持っているかもしれません。

 

どちらが会社にとって必要な人材かは分かっていてもそこに抜本的なメスを入れられないのをM&Aを機に何とかしてもらおう、と思うのであれば、立て直そうとしてくれる買手に変な制約は与えてはダメです。

 

譲渡する際、従業員に対しても、自分の経営の問題点を素直に謝り、買手の指導のもと良い会社を目指してほしいと伝えるのが筋かなとも思いますし、そういう状態の会社をよくしようと思ってくれる買手であれば信じてお任せする、というのがあるべき姿かなと思います。

 

 

役員報酬は従業員の給料よりも下げやすい??

 

少し話は変わりますが、役員の給与はどうなるのか、についても少し触れておきたいと思います。

 

役員が株を持っていない(雇われ社長)ようなケースでは、上で説明した従業員と同じように離職などにも配慮して進めます。

一方で、役員が株主のようなケースでは、M&Aをする際に役員が主体となって買手と協議することが多い関係上、自分たちの給与をM&Aの交渉を通じて決めていく、という感じになります。

 

なので、

株式の譲渡価格は高めにするけど、今後の役員報酬は下げますね

みたいな調整が行われるケースも多いです。

 

役員報酬でもらうよりも株式譲渡対価でもらった方が税率が低いので、売手側の希望で役員報酬が下げるケースが多い気もしますね。

 

 

中には、買手に「買手企業の役員よりは下げてほしい」と言われるケースもあったりします。

 

中小オーナー企業の中には、場合によっては上場会社の役員よりたくさん報酬をもらっているような会社もあります。

そんな会社がM&Aをした時に、親会社の役員の報酬よりも子会社の役員報酬が高い、という現象も起こり得ます。

その結果、グループ内での調整を図るため、M&Aの交渉時にM&A後は役員報酬を下げますよ、みたいな話が出ることもあります。

 

この辺りは、「いかに残った役員がモチベーションを落とさずパフォーマンスを出してくれるか」という点を考えつつ、ちょうどよい落としどころを見つけに行くような感じになります。

 

 

 

いかがでしたでしょうか?

 

今回は給料が下がることに着目してお伝えしてきましたが、逆に給料が上がるケースもあります

 

筆者が以前お手伝いした営業会社系の会社だったのですが、M&A後に人事制度を改定しインセンティブ制を導入して、会社業績と従業員の給料が大幅に上がっていきました。

 

良い買手と良いシナジー効果が生めれば、誰からも感謝されるようなM&Aを実現することもできますので、そんなゴールを是非目指していただければと思います。

 

最後までお読みいただきありがとうございました。

 

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