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「売手は買い叩かれる?」足元を見られない為のM&A交渉

お悩み社長

なんだか買手に買い叩かれている気がするんだけど・・・

 

売手オーナーにとって初めて取り組むM&Aで、「買い叩かれているのでは?!」と感じる方も少なからずいらっしゃいます。

 

確かに買手の中には行儀の悪い買手もいたりもするのですが、売手側の感じ方の問題だったり、仲介業者がおかしな説明をしたことによってそう感じてしまうケースも多いです。

 

当サイトにも色々とこの手のご相談をいただきますので、今日はこんな話題について取り上げてみたいと思います。

 

ちなみに筆者は現在M&A仲介会社を運営しており、今までも色々な案件に携わらせていただきましたので、そんな日々の経験を踏まえて筆者の見解をお伝えできればと思います。

 

それではいきましょう!

 

そもそも会社・事業の価値は一物一価

まず始めに、M&Aで取引する会社・事業というのは、当たり前ですが値札が付いて陳列されている訳ではありません。

 

基本的には売手と買手が「取引する会社・事業の価値は〇〇円にしよう」と交渉の上で決めるものです。

 

だから、絶対的な金額として高い・安いを判断することはできない、というのが基本的な考え方になります。

 

 

会社・事業は生き物なので、今後それをマネージメントする人(買手)の能力によっても生み出される結果が違うものになります。

 

そんなことから買手の能力によって見え方も異なり、とある会社を、「1億円で買いたい」という会社もあれば「5,000万円で買いたい」という会社も出てきてしまう訳です。

 

だから買手から提示された条件をみて、「思ってた金額よりもめちゃくちゃ安い!」と感じることがあったとしても、まだ良い交渉相手と出会えていないか、そもそも思っていた金額自体が高すぎないか、という風に考えることもできるわけです。

 

とりわけ昨今では、M&A業者が売手オーナーの気を引くために「御社は高く売却できますよ!」なんてセールストークしていたりするので、売手の希望金額がおかしい水準で話がスタートしていることもよくあります。

 

まずは、客観的に事実を並べてみて、自分の会社の価値を理解しつつ、相手方の提案に乗るべきかどうかを判断していくことが重要です。

 

 

ちなみに、一物一価とはお伝えしましたが、ある程度の相場感というのも存在します。

 

中小企業のM&Aでは、決算書上の数字から、一般的に修正された純資産額と営業利益を2~3年くらいのせた金額が標準的な取引される株式価値とするケースが多いと言われますが、業態業種や売手に対して買手が多い・少ないといった需給バランスによっても取引金額は変わるので、絶対的な株価の計算方法があるとは思わず、実際に出てきた買手からの金額感を考えて高い・安いを判断するのが正しい進め方になります。

 

例えば、純資産5,000万円で営業利益が2,000万円の会社があったとしたら、だいたいの目線感を9,000万円~1億1,000万円と一旦考えておいて、色々な買手と交渉を進める中で妥当な金額で取引を確定させるという感じですね。

 

これを「もう3億円でなきゃ絶対売らない!」とすると、金額が高すぎると買手から思われてしまい、交渉すら始まらないというリスクはあります。

 

一方で、あまりよく分からないうちに「うちの会社は5,000万円くらいなもんかな」と安めの金額で売却してしまうことになると、売手としては機会損失にもなり得ます。

 

この辺の相場感というのは、どれだけあなたの会社と同業種のM&Aを見てきたかという経験がものをいいますので、仲介業者を入れずにM&Aをしようという方はこの辺は正直難しい気がします。

 

筆者がM&Aをお手伝いする際には、基本的には1社の譲渡会社案件を複数の買手に提案に持っていく流れで進めますが、その時買手から返ってくる反応が一番こういう相場感を把握する上では役に立ちます。

 

「〇〇業界では〇年くらいののれんが一般的だな」とか、「買手の需要を考えるとこの案件で〇円を希望金額にすると候補先出てこないだろうな」とかも何となく分かってきます。

 

と、同時に、「M&Aを初めてやろうとする人がこれを自分で高い・安いを判断するのは難しいよな」とも思ったりします。

 

 

以降より、交渉上、有利になる場面・不利になる場面についてお伝えしていきますが、原則M&Aは高い・安いとかではなく、双方が許容できる条件で成立するものとご理解いただければと思います。

 

 

売手は買手に交渉で足元をみられるのか

売手は「高く売りたい」と思っており、買手は「安く買いたい」と思っています。

 

なので、交渉に至った経緯や交渉上の環境次第では、どちらかの力関係が強くなり、もう一方が不利な交渉を強いられるというケースはあり得ます。

 

それぞれみていくと、例えば、こんなケースでは売手側の交渉力が強くなります。

【売手の交渉力が強くなるケース】

・複数の買手候補と交渉できるケース

・別に売却できないなら売却しないで事業継続できるケース

・事業上既に取引のある買手で、買手にとって売手はお客さんであるケース(あんまりないですが) など

 

一方、こんなケースでは買手側の交渉力が強くなります。

【買手の交渉力が強くなるケース】

・売手が焦って売ろうとしている(売却期限が決まっている)ケース

・売手側に自分以外に他の買手候補がおらず、新たに買手候補探すのが困難と考えられるケース

・仲介者などがいない直接交渉で、M&Aについての知識・経験が買手が売手よりも長けているケース

・事業上既に取引のある売手で、売手にとって買手はお客さんであるケース(あんまりないですが) など

 

なので、これから会社や事業を売ろうと思っている方が交渉力を手に入れたいのであれば、会社や事業がきちんと運営できている良いコンディションの時に「良い相手がいれば」というくらいのテンションで現事業で顧客の関係にない複数の買手候補と交渉するというのが良いわけです。

 

この際、一社の売手に対して一社の買手が交渉(独占交渉)をするという場面(基本合意書締結)があるのですが、この基本合意書締結前後で「売手優位」から「買手優位」に移る感じにはなるので、売手が優位を発揮できる基本合意書締結前に交渉するのも有効と言えます。

 

売手としては「買手があんまり変な条件提示するなら他の買手と話進めちゃうよ」と言える基本合意前と比べて、買収監査を踏まえて合理的な理由で取引金額を下げる話をしてくる買手に対してYes/Noを言わないといけない状態になることもある基本合意後は、あんまり強いことが言えなくなってしまうので。

 

筆者は過去色々な売手オーナーさんをみてきましたが、買収監査が結構ハードな内容だったりすると、「こんな大変な監査を他の買手とやるのはしんどいから、多少安くてもこの辺で妥協しとくか」という気持ちなってしまう方も割といますので、交渉を続けるには時として忍耐力も必要になったりもします。

 

とはいえ、買収監査の内容は買手によって様々ですし、減額交渉にならないケースもそれなりに多いので、ここは相手次第といったところです。

 

 

ちなみに、売手から見て明らかに悪質な買手の例としてはこんな買手がいたりします。

・あえて高めの金額で基本合意を締結して、他の買手候補先と交渉が終了したことを確認して値下げ交渉してくる買手

・売却期限が短い案件なのに、意図的に時間を延ばして、ハードな交渉を持ち掛けてくる買手

・(現在の取引があるケースで)買手側の条件に応じないとM&A外の取引で悪影響が出ることを匂わせてくる買手

 

仲介業者の中でこういう筋の悪い風評は広まりやすいので、「もうあの買手に案件紹介するのはやめよう」というレッテルを張られたりもしますね。

(ただ、そういう買手は、自らコントロールしやすい直接交渉を望むので、M&Aマッチングサイトを通じて売手直接案件にコンタクトすることも多いです)

 

こういう交渉相手だったりすると売手としては最悪なんですが、ケースとしてそれほど多いわけではないです。

 

売手も買手も心を持った人間なので、売手が金額に固執して「1円でも絶対負けられない」と意地になってしまうと、買手も「●円以上は絶対出せない」と意地になってしまうこともありますので、お互いに過度に「交渉したろう!」みたいな感じの見せ方をしない方がまとまりやすくはなります

 

お互い変な相手は交渉相手から適切に外して、一度信用できると思った相手と、じっくり「会社・事業の為に何ができるか」「お互いが納得できるこの会社・事業の価値はいくらなのか」を友好的に見定めていくという姿勢が、スムーズにM&Aをするために必要なんじゃないかなと筆者は思います。

 

筆者の成約した過去案件でも、両者の満足度が高くて、結果M&A後も上手くいっている案件というのは当事者がこういう感じの姿勢・温度感であったことが多い気がします。

 

足元の見られないためにすべきこと

以上踏まえ、条件交渉において、足元をみられない為に売手側がすべきことはこんなところです。

・「売らざるを得ない状況」になる前に売却検討を始める

・独占交渉に入る前までは複数の買手と交渉する

・独占交渉は、買手側の買収監査の内容を踏まえて、適切な期限を基本合意書で定める

・変なM&A業者を入れない

 

特に変なM&A業者を入れないというのは昨今特に重要になっている気がします。

 

M&Aの相場感やルールを理解する上ではかなり重要な存在ではありますが、中には経験不足からおかしな認識を売手や買手に植え付けてきたり、無理矢理畳みかけてくるような業者もいるので、業者選びに失敗すると正しい情報が得られないばかりか、「誰も信用できない」と思ってしまうような状況にもなり得ます。

 

そもそも、この記事を読まれている方の中には、現在依頼しているM&A業者の言っていることに疑問を感じる、という方も多いと想像しています。

 

「御社は高く売れる!」と売手に言っている仲介会社は、一方で買手に「あの会社を安く買いましょう!」と言っているものと思います。

買い叩かれるということを避けたいのあれば、金額について先入観を押し付けてくる業者は排除した方が得策かと思います。

 

このM&Aいろは塾ではいろいろなM&A業者について赤裸々にお伝えしていますので、業者選びの参考としてご参考いただければと思います。

 

業績が悪い会社は買い叩かれる?

ちなみに、これから売却しようとする会社の業績があまり思わしくない場合であれば買いたたかれるのか、というとちょっと誤解があります。

 

(ちょっと言い方が失礼だったら申し訳ないですが)そもそも、いくら安くても会社の業績が悪い会社を譲受はちょっと・・・という買手も相当数いるので、「買い叩かれる」以前に「買手がつかない」という現実に直面するケースが多いです。

 

例えば不動産とかであれば、どんな物件でも一応0円以上の価値は有るので「訳アリでないなら、安ければ買おうか」という発想にはなり得ますが、会社や事業の場合は、買収した後大幅に赤字を垂れ流すということも普通にあり得るので、買手からして誤ったM&Aをしてしまうことは致命傷にもなりえます。

 

実際、筆者の経験上も「安いから」という理由だけで買収をするケースはほとんど聞いたことが無いです。

 

そういう意味では、あなたの会社・事業に興味を持ってくれる買手がいるならそれだけで恵まれていると思ってもいいかなと思います。

 

この場面では、「いくらで売るか」という交渉に主眼を置くのではなく、ある程度許容できる金額水準なのであれば「個人保証はきちんと解除されるのか」「変な補償条項は入らないのか」などを気にしつつ、あまりにおかしい条件でなければM&Aを成約させることを優先に考えるという考え方も持ってもいいかもしれませんね。

 

 

いかがでしたでしょうか?

 

普通、売手と買手は、M&A後も協力関係を作り、会社や事業の円滑な運営の為に良好な関係にしておかないと、という意識が働くのであんまり強引な手法は取られません。

(買い叩くという行為は場合によっては買手の首を絞めることにも繋がります)

 

どちらかというと、「よく分からないM&Aで、なんかいいように扱われている」と感じてしまうこと自体の方が問題な気がするので、信用のできる買手やM&A業者と一緒に、安心してM&Aを進めていけることを目指せるといいかなと思います。

 

 

最後までお読みいただきありがとうございました。

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