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「専任契約を結ぶのはやめておけ」と言われる理由

 

M&A仲介会社に仲介を依頼するとき、

「他の仲介会社に仲介を依頼しないでください」

と言われることがあります。

 

これぞ「専任契約」なんですが、売主はこれに応じていいのでしょうか?

 

結論から言うと、売主の立場なら筆者は専任契約は避けるほうが無難だと思います。

 

筆者は仲介業者でもあるのでこんなことをいうのもなんですが正直にいいます。

 

ポジショントーク抜きにして本当に売主にメリットがないからです。

 

M&Aいろは塾は「業者に都合の悪いことも忖度なく業者の視点でオープンにする」というコンセプトで正直に情報発信してますが、今まさに仲介会社と契約を結ぼうとしている人には特に読んでほしい内容となります。

 

 

専任契約とは

 

M&A業界で使われる「専任」とは、売主が他の仲介会社を使わずに特定の仲介会社に仲介を依頼することです。

 

要は、「他の仲介会社に浮気しません」というものです。

 

そしてこの専任契約、一般的にはM&A仲介会社が売主と結ぶ「仲介契約」や「業務委託契約」や「アドバイザリー契約」などといった契約書の1条文として書かれている「専任条項」を指します。

 

なので、「専任契約書」という書面が存在するわけではないです。

 

これ、うっかりしてると見落とします。

 

たまに「専任契約という契約は結んだ記憶ないから、自分は専任じゃないよね?」と言っている売主さんもいますが、仲介会社との業務委託契約書などと細かく読んでみるとガッツリ「専任条項」が書いてあることがあります。

 

売主さんは契約書をちゃんと読んでいないのは間違いないですが、きちんと説明せずしれっと専任条項入りの契約書をぶん投げる業者もいるので油断できないです。

 

中小M&Aガイドラインでは仲介契約締結時の重要事項説明として「専任」「非専任」の別は業者側が説明することになっているので、明らかに説明不足があった場合はガイドライン違反になるかもしれません。

 

また、不動産の売却を業者に依頼したことのある人であれば、「専任媒介契約」とか「専属専任媒介契約」と言えばわかりやすいかもしれません。

 

でも、M&A業界の専任はこれよりももっと業者有利なものなので、”同じようなもの”で片づけない方が良いです。

 

不動産は宅建業法で顧客の囲い込みは行政処分などが行われる問題行為ですが、M&A仲介の顧客の囲い込みは商習慣として当たり前に行われていますので。

 

 

専任契約が欲しいM&A仲介会社

 

仲介会社側としては、良い案件であればあるほどこの専任契約が欲しいです。

 

仲介社内では、

「規模感のある優良企業の専任取りました!」

「おおー、すげー!」

って感じの雰囲気があります。

 

専任が取れるコンサル、というのは社内評価も上がるんですよね。

 

なんで業者がそこまで専任が欲しいかって、簡単にいうと、

「専任契約が取れる」=「その会社がM&Aすれば自動的に成功報酬が入る」

仕組みがあるからです。

 

専任でないと、他の仲介会社経由でM&Aしちゃった場合手数料が1円も入ってこないことも普通にあるので、工数かけ損になるのが業者観点では嫌なんですよね。

 

仲介業も商売なので、業者にとって都合のよい提案をすること自体は問題ではありません。

 

ただ、問題なのは、専任契約を取るために売主に誤解を与えるようなことを平気で言うことが営業スキルとして賞賛されるM&A業界の風土です。

 

例えばよくいうのがこういうセリフ。

「専任で依頼しないと担当者がやる気を出さず買手がつかないからやめたほうがいい」

 

自ら「専任じゃなきゃ本気で仕事しません」と言っているようなものですが、結構こういう説明をしているコンサルは多いと思います。

 

でも、実際のところ、M&A仲介の仕事というのは容易にサボれるようなものではないです。

 

本気であろうがなかろうが、きちんと企業(事業)概要書を作らないと買手から突っこまれるのでサボれないですし、買手探しをサボればそもそもM&A交渉も始まらないです。

 

つまり「専任じゃなきゃ本気にならない」は、単なる専任契約が欲しい仲介会社のポジショントークに近いといえます。

 

また、こんなことをいうコンサルもいます。

「我々も商売なのでかけた工数が無駄になってしまう可能性のある非専任は受けづらい」

 

一見、最もらしい説明ですが、これもM&A仲介のビジネスモデルからいうと矛盾してることもよくあります。

 

そもそも、最低でも何千万円というような報酬設定をしている仲介会社のビジネスモデルというのは、「成約に至らない案件にかけた人件費も、成約に至った案件の成功報酬から回収する」というビジネスモデルなのですが、この文脈では口が裂けても言えないでしょう。

 

あるいは、工数を理由に説明しているのにちゃっかり着手金を請求している業者もいます。

 

こんな説明だったら、まだ、

「お客さんには不利だけど、その分頑張るから専任でやらせて」

 

とお願いベースで依頼してくるほうがまだ可愛げがあります。

 

 

「専任契約はやめておけ」と言われる理由

 

専任契約をしてしまうと、具体的には依頼者である売主がこんな拘束を受けることがあります。

・専任仲介会社から提案のあった買手としか交渉できない
・自分で買手を探しても、成約したら専任仲介会社に手数料を満額払わないといけない
・他の仲介会社を使って成約したら契約違反で手数料を満額払わないといけない
・買手が見つからず親族に譲渡することになっても手数料が発生する など

 

もちろん、専任で依頼した仲介会社が連れてきた買手は条件が合わない、とか、シナジー効果が見込めず会社のためにならない、という理由でM&Aを断ることはできます。

 

絶対M&Aしないといけないわけではないです。

 

でも、「M&A自体は早くしたい」「他の買手から条件提示が貰えず比較もできない」「他の業者を探してまた一から資料提出するのは煩わしい」という状況だとしたら、M&Aをしないという決断ができるでしょうか?

 

この判断は実際難しいです。

 

大抵の売主は、よほど納得いかない条件じゃなければ仲介手数料払ってでも早く売る方向に傾きます。

 

これはその場の雰囲気が想像できないと難しいかもしれませんが、十中八九そういう心理にはなります。筆者は相当数の売主とやり取りしているので分かります。

 

そしてこういった売主の心理に傾くことを多くのM&A業者も分かってます。

 

だから専任を取れと仲介会社の経営層は言うんです。

 

売主は売却した後から気付くんです。

「ああ、もっと色々な業者で広く買手探してたらもっといい条件で売れたかなあ」と。

 

後から考えて納得感があるM&Aにするためには実は最初の業者選定から始まってるんですよ、と筆者が口を酸っぱくして言っているのはつまりこういうことです。

 

そして、もっと重要な話。

 

専任契約をやめておいたほうがいい最大の理由にもなりますが、

「M&A仲介と買手とのやり取りは、売主から見えない」

というM&A仲介特有の構造があります。

 

どういうことかというと、

・依頼した仲介会社が本当に買手候補先に打診したのか
・実際にその買手候補先がどんなリアクションだったか
・他に買手候補先を本当に探したのか

といったことが全く売主では確認できず、全て仲介会社の報告を信じないといけないということです。

 

だから、極端な話、仲介会社が「100社打診します」とリストを出して、実際には99社は打診もせず1社仲のいい買手候補先だけに話をしただけなのに、その買手候補先の条件をもとに「100社打診しましたが1社しか条件出してくれませんでした、ここと交渉を進めましょう」という演出をされても、売主からは気付きようもないです。

 

極端な話ではありますが、仕組み上できるかどうかでいえばできます。

 

こうなると、専任仲介会社がディールをコントロールし始めるようになるのです。

 

一方、専任でない(非専任)時は状況が異なります。

 

買手候補先100社に打診しますといって1社しか打診せず、その1社の条件提示が、他の仲介会社が連れてきた買手候補先の提示に負けてしまったら、基本合意以降その売主の案件には仲介として関与できなくなってしまいます。

 

つまり、良い買手候補先を連れてこれないと仲介として商売にならない、というプレッシャーが仲介会社側にかかります。

 

その意味では、業者側の立場においては「良い条件を出してくれる買手候補先を探索する意欲は非専任の時のほうが強い」ということが言えるかもしれません。

 

 

専任契約は売主にとって本当にメリットがあるのか?

 

前述のような事情を踏まえると、売主にとって仲介会社との専任契約を締結するメリットは何ですかと聞かれても、M&A業者としても回答に困るところはあると思います。

 

強いて言うなら、複数の仲介会社に依頼せず1社の仲介会社に依頼した方が、会社の資料を提出する手間が省け、買手候補先への打診状況の管理も簡便になるという点があるかもしれません。

 

でも、この観点でも敢えて「専任契約」を締結する必要性はないです。

 

なぜなら、売主側とて、仲介契約では「非専任」で締結しつつも、実際には複数の仲介会社に声をかけず、仲介契約を締結した仲介会社で進めるという方法もあるからです。

 

もちろん、この時は非専任で依頼する仲介会社には「他の仲介にも声をかけるかも」「良い買手候補先を連れてこれなかったら他で進めてしまうよ」と発破をかけます。

 

これで、仲介会社が気を緩めることなく動くようになるでしょう。

 

また、情報漏洩のリスクが減るから仲介会社の数を絞る、という考え方もあると思います。

 

とはいえ、これは情報開示する仲介会社の数を減らすことが目的なので、その契約が専任か非専任かは関係がありません。つまり、「情報漏洩のリスクを減らしましょう、だから専任で」もおかしいのです。

 

 

専任契約をめぐるトラブル

 

専任契約にメリットがない話をしてきましたが、実際どんなトラブルが起こりうるのか考えてみましょう。

 

専任契約を結んだのに、買手を紹介してくれない

専任で1社の仲介会社だけに任せたのに全然買手を紹介してくれない、こんな話も結構多いです。

 

専任なのにその仲介会社の買手紹介が滞ると当然M&Aの交渉は何も進みません。

 

これは早く売りたい売主からすると困りますよね。

 

一応、誤解がないよう整理すると、専任だからといって買手が増えるわけでもありません。買手が見つからない譲渡案件はどんな仲介会社が担当しても買手が見つからないです。

 

でも、専任契約がある以上、売主は他の仲介会社に依頼できないのも事実なので、結局M&Aが何も進まないまま、専任仲介会社の「今、頑張って買手を探していますので」を信じて何か月も無駄に過ごすことになることも少なくありません。

 

買手紹介が止まった時点で、仲介会社との契約を一旦解除して、改めて動き方を考えるということが重要です。

 

専任契約を解除させてくれない

仲介会社との契約について解除依頼をすると、「もう少し頑張らせてくれ」と粘ってこられるケースがあります。専任ならなおさらこの抵抗が強いかもしれません。

 

普通のM&Aコンサルは同時に複数の案件を担当しており、その中のどれが今期中に成約できるか、みたいな目算をしているので、手持ち案件が減ってしまうのが嫌なんですよね。

 

会社によっては受託案件についてもノルマがあったりしますし。

 

それでゴネるコンサルもいるのですが、まともに買手探ししていないのに売主をホールドし続けるのは健全ではありません。早く売りたい売主なら普通に迷惑でしょう。

 

中小企業庁の現行の「中小M&Aガイドライン」では、

「専任条項を設ける場合、仲介契約・FA契約の契約期間を最長でも6か月~1年以内を目安として定めるべき」「依頼者が任意の時点で中途解約できる旨を契約に明記することが望ましい」

とされています。

 

とはいえ、初回相談から買手候補先への打診一巡など、普通に進めれば3か月くらいでいけると筆者は思いますので、この6か月~1年というのも長いと思います。

 

本来は最初の段階で契約期間を短くしておき、M&Aが進まないなら当然に契約解除、としておくのが始末がよいです。

 

それでも長期で専任契約を結んでしまっているなら中途解約です。

 

もしゴネるようなら、仲介契約は残すが、専任条項だけを変更する覚書を結ぶという方法もあります。

 

 

もし専任契約を求められたら

 

仲介会社から専任契約を求められたらどうしたらよいでしょうか?

 

筆者はまず、売主は最初の段階で「専任では依頼するつもりがない」と言うのがよいと思います。

 

それでも、「弊社の規定では専任しかお受けしていない」と言われた場合。

 

その時は、「じゃあ、いいです」で断ってしまってよいです。

 

良い案件なら売手手数料0でも関与したい仲介はたくさんいるので、仲介会社側が折れるケースも多いと思います。

 

一部の仲介会社では専任でしか受けない、という会社もあるかもしれませんが、筆者が知る限り大手含め、顧客都合で非専任で受託することは非常に一般的なので、単に業者優位になるだけの専任条項に関しては売主は強気でいくのがよいです。

 

どこも専任でしか受けてもらえず、任せる業者がいなくなってしまうので?

 

とか思わないでも大丈夫です。少なくとも筆者はどんな案件でも非専任でお受けしていますし、非専任で受ける仲介会社はたくさんあります。

 

それでも、やむを得ず専任契約を結ぶのであれば、

契約期間は3か月、ただし、その期間内に具体的な買手と具体的な交渉(少なくとも正式な意向表明書提出までは欲しい)が開始された場合には、その具体的な買手との交渉が終了するまで契約期間を延長する

くらいに所定の契約期間を短期間にします。

 

この方が買手の提案が微妙な時に当然に契約終了できるので始末がよいですね。

 

専任の必要があるかはセカンドオピニオンで相談したほうがいい

専任契約というのは強力な拘束力があるので、締結する前に専門家に相談したほうがいいです。

 

筆者であれば、案件の概要をうかがっただけで、わざわざ専任契約を受け入れる必要があるかも即答できるのでご相談いただければと思います。

 

また、仲介契約については、他の専門家にチェックしてもらってから締結することをお勧めします。

 

基本業者に都合の良いことばかり書いてあるので、「完全成功報酬で成約するまで手数料かからないから、まあいっか」で締結するものではありません。

 

売主にとっては初めてのM&Aの方がほとんどだと思うので、実際M&Aを進めるとどういう問題が起こるかも想像しにくいからです。

 

後々、揉める原因になりますので注意しましょう。

 

最後までお読みいただきありがとうございました。

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