2026年9月1日、中小企業庁から不適切な営業行為を行ったM&A業者がいるということで、M&Aガイドライン違反の公表がありました。
参考 不適切な営業行為に係るトラブルの発生を踏まえた対応について(中小企業庁)
要約すると、過去注意を受けた先が、また不適切をしたのでまた注意した、この旨を公表するが実名は公表しない。
ということです。
筆者からみて、問題のある業者について行政への情報提供が寄せられているにも関わらず、業者にとってノーダメージの実名非公開という対応、にみえます。
筆者としては中小企業庁がM&A業界の悪習を正すつもりがあるのか甚だ疑問ですが、こういう行政の対応を踏まえて、これから会社や事業を売ろうとしている人は何に気を付けたらよいか、考えてみたいと思います。
そもそも中小企業庁の苦情窓口って?
中小企業庁はM&Aに関する相談窓口を作っています。
参考 情報提供受付窓口(中小企業庁)
この窓口とな何ぞやという話です。
そもそもの経緯は、M&A界隈が無法地帯になってきたため、さすがに行政がこれを無視できないだろうということで、M&A支援機関登録制度を作りました。
これに登録する際、業者側は中小企業庁の定める中小M&Aガイドラインを遵守する宣誓をします。
業者はこのガイドラインを遵守することが求められている一方、支援機関に登録しておくことで、顧客(M&Aの売手や買手)がM&A補助金を申請できる(だから集客しやすくなる、手数料取りやすくなる等)といったメリットがあります。
少なくとも筆者の周りでは審査で落とされたという人はいなかったのもありますが、どういう調査や審査が行われて登録できる仕組みなのかは筆者はよくわかりません。
ただかなりの数(数千社(者))に上る業者が登録できているのが現状です。
こういう制度なので、体裁上は、行政が民間企業であるM&A業者を登録制度の枠組みで監督する、という関係性になっています。
ただ、監督する側の行政が、M&A業者の悪事を知らない限り何もできません。
そこでこの「情報提供受付窓口」というわけです。
M&A業者の明らかにおかしい行動をしたことに対して、売手や買手、その他の相手方から「こんなことされたんだけど!」と行政に駆け込める仕組みです。
そうです、密告という感じがとても近いですね。
だから、あまりにも特定のM&A業者に対して情報提供がなされ、「このM&A業者ヤバいな」ってなれば、行政が、「この業者ヤバいですよー」って社名を公表したり、あまりにひどい場合はM&A支援機関を登録解除します、という扱いになります。
なのに今回の実名非開示、というのは甘めの対応だと筆者は思います。
そもそも情報提供受付窓口自体、M&A業者との間のトラブルについて何か助言してくれたり、問題解決のために能動的に動いてくれるようなものではないです。密告する側としては、あくまで問題業者に対して行政が動けよ、という気持ちで密告するんですよね。
その密告がM&A業者の粛清に繋がらないのであれば、何のための制度なのか怪しくなっている気もします。
今回注意されたM&A仲介会社はどこ?
今回注意されたM&A業者は本店が「東京都」ということまでしか公表されていません。
東京本社のM&A業者なんていっぱいいるのでわからないです。
ただ、今回注意が公表された文章にこんな表記もあります。
広告・営業先から停止意思を表示された場合の記録基準の設定及び停止意思の表示があった旨の記録並びに当該情報の組織的な共有体制の構築等を求める旨を通知しています。
文章を普通に読めば、しつこい営業をされた相手方から「もう営業してくんな」と言われたのに営業してしまいクレームに発展、行政側は「業者が社内で停止意思について情報共有できていなかったのが問題」と解釈した、と読めます。
この「組織的な共有体制」というコメントから、一定規模の仲介会社なのではないかな、と筆者は推測します。
M&A支援機関は1,2人で運営しているところも多いので、組織的に運営しているM&A業者で、この手の営業をしつこくやってるといえば結構絞られると思います。
筆者は敢えてここでは社名を挙げません。公表資料だけでは特定できませんし、あくまで筆者の推測にすぎないからです。
ただ、多分あそこだろうなと思う会社はあります(笑)
M&Aいろは塾にも「〇〇という仲介会社からしつこく営業が来ている」「遠方だからと突アポ依頼来たけど約束したらドタキャンされた」「担当コンサルが頼りなさすぎる」みたいな相談がかなり多い会社があるので、迷惑営業という関連性では筆者個人としては連想してしまうところがありますね。
それはさておき、どちらかというと「なぜ中小企業庁がこんなに甘々対応なのか」のほうが問題な気がします。
しつこい営業くらい看過しろ、ということ?
公表したら何か特別な影響が出るから?
M&A業界を健全にしようと始まった一般社団法人M&A支援機関協会の会員だから?
人によっては何かの便宜や忖度が働いたのか?と感じる可能性もあると思います。
なぜ今回再発した問題なのに社名を公表しないのか、次回同じ問題が発覚したら公表する、登録の取り消しをすると断言しないのか、の理由についても行政は明らかにしたほうがよいと思います。
※今回の文章では、「同様の事案が再度確認された場合には、社名公表や登録の取消しを含めた対応を検討します。」と書いてあるので、次回そういう対応するとも限りません。国のいう「検討」なので、次回は「検討を加速します」とか言い出すのかもしれません(笑)
悪質な業者に引っかからないためにすべきこと
今のところ行政側で問題のあるM&A業者を徹底的に排除するという動きは見られません。
過去には、不適切な譲り受け側とのM&Aを支援したM&A DX社について、ガイドライン違反が認められたとして登録取消し・社名公表まで行われています。
なので、実績からだけでいえば、かなり重大なレベルの問題でないと行政の積極的な動きは期待できないとも言えます。
もちろん過剰な営業自体が悪質とまでは言いませんが、営業を受けたくないと明確に意思表示した相手に対して営業するという行為は受け手にとっては悪質と考える人もいるでしょう。
そんな中でもしこういう業者に引っかからないようにするにはどうしたらいいでしょうか?
実際M&Aを進める可能性があるかどうかで対応が異なりますが、筆者はこう考えます。
M&Aを進める可能性がある方
M&Aを検討している、あるいは、ちょっと気になっている、という方は特に進め方は注意すべきだと思います。
今回問題を起こしている業者が筆者の想像だとすれば、この業者は日本全国津々浦々に万遍なく過剰な営業をかけています。面談時に買手がいることを匂わせる営業も未だにしています。
でも手数料は業者内でもかなり高額です。
この会社の営業は接触頻度自体は多いでしょう。でもこれをきっかけに話を進めてしまえば、たちまち高額な成功報酬が書いてある仲介契約を結んでしまうかもしれません。
というか、裏を返せば多少強引な営業でも実際に顧客を囲い込めるからリスクがあっても強引な営業してるのもある、というのが同業者としての見方でもあります。
担当コンサルタントのレベル感は手数料の高さとは関係ないので、サービスの質と費用感はきちんと比較しないと危ないです。
高いお金を払って業界経験の浅いコンサルが担当になる、なんてこともM&A業界では普通にあります。
でも、行政に聞いてもどういう会社を選ばないほうがよいか、なんて教えてくれないでしょう。
今回実名を非開示にするくらいなので。
なので、少し手間ではありますが、M&A業界に長くいる業者に、同業の評判として確認した上で実態を把握するのがよいと思います。
筆者はこうしてブログ形式で発信していますが、個別相談ではもっと突っ込んだ話をしますので聞いていただければ教えます。
あるいはお近くで信頼できるM&A業者がいれば相談してもよいでしょう。M&A関連の案件にたくさん関与している税理士が顧問だったりすれば業者の評判を聞くのもアリです。
意外とM&A業界は同業間を転々とする人も多いので、複数同業者に話を聞けばどういう仲介会社か実態に近いものが掴めることもあります。
また、ネット上の評判というのはあまりあてになりません。
評判の悪い情報は、業者から削除申請して消しに行くことが多いからです。これはM&A業界に限った話ではないですね。
不都合な情報を消すために法的な圧力をかける業者も普通にいるのがM&A業界です。
なので「この人なんか知ってそうだな」という人複数人から話を聞くほうが、ネットで情報収集するよりも生々しい話を聞けるのでは、と筆者は思います。
手数料とか、定量的に業者を評価できる情報はこちらの記事でも紹介しています。
払うお金に関してはその気になればすぐ調べられるようになってきているので、業者への返信をする前に必ず自分で調べるようにしてください。
M&Aを進める可能性がない方
M&Aを検討してないのにガンガン営業をかけられて迷惑している、という方はこちらをご参考ください。
迷惑営業で行政にクレームを出しても今回程度の注意に留まるようなので、あまりここに時間をかけるのはもったいないかもしれません。
無視が一番良いです。
そもそも営業を受けないようにするのが根本的な解決に繋がるので、あなたの会社の情報を我が物として売りさばく企業情報転売業者に情報を出さないのを筆者はお勧めします。
M&A業者は企業情報転売業者から情報を入手し、営業活動を行っていることが多いからです。
この対策を強化すると、M&A以外の営業も減らせる効果もあります。
いかがでしたでしょうか?
M&A業界はモラルが低いな、というのはM&A業者である筆者も思います。周りできちんとしたM&A支援をしている同業者も同じことを思っている人は多いです。
多少モラルを無視してドライに営業活動したほうが儲かるのも事実。
この毒を飲むかどうかで悩んでいるM&A業者もたくさんいるのも事実。
行政が積極的に公表しなければ今後もこの悩みは続き、色々踏み外す業者も出てくるでしょう。
今後も、M&A業者の表面的な部分ではなく、きちんとM&Aに対する姿勢、商売に対する向き合い方を見て選ぶことが重要なのではないかと筆者は思います。
筆者へのご相談については、下のお問い合わせフォームよりお気軽にお問い合わせください。

