書籍「M&A仲介会社からの手紙は今すぐ捨てなさい」好評発売中

「某大手仲介会社M社が同業への営業メールを発送?」M&A営業の変化

 

筆者の連携しているM&A仲介会社に某大手仲介会社M社から営業メールが来た、という面白いことが起こっています。

 

調べてみたところ、結構色々な仲介会社に営業メールが来ており、中には、実際に担当者とWeb面談をしたというM&A仲介会社社長もいました。

 

この某大手仲介会社M社はかねてから営業のDMや電話、お問合せフォームからの営業が多い会社といわれており、本ブログにも「M社から営業が来た」という趣旨の報告が多数上がっている会社です。

 

単に送り違い?なのか、はたまた、M&A仲介会社がM&A仲介会社に買収提案をするというのは新しい風潮?と思いつつ、その営業の内容を調べてみました。

 

 

某大手仲介会社M社が送ってきたメールとは

 

筆者が情報提供を受けた某大手仲介会社のメールの内容は以下のようなものとのことです。

件名: 成長戦略型の資本提携に関するご相談
本文:

株式会社●●●●
代表取締役 ●●●様

突然のご連絡誠に恐れ入ります。M社(某大手仲介会社)の●●と申します。

私はM&Aを活用した中長期的な成長戦略の支援を行っております。
中には、”創業から期が浅いので将来的なイグジットは考えているものの、まだ検討は早い”、
“株価がほとんどつかないのではないか”というオーナー様もいるかと存じますが、私が支援しているIT系の会社様で、
“創業数期目”で“営業利益数百万”で“株価5億円”で話が進んでいるケースもござます。

そういった事例を通じて、M&Aが貴社にとって有効な選択肢なのか、
15分程度ディスカッションのお時間をいただければと存じます。
つきましては、以下の連絡先までご都合よろしい日程をいただけますと幸いです。
メール:xxxx
ライン:xxxx
※不明点等ございましたら、0120-xxx-xxxまでご連絡ください。
※現在、システム受託開発、パッケージ開発、Web制作、UI/UXデザイン等幅広い会社様を担当しておりますので、そういった観点からも情報提供可能でございます。

どうぞよろしくお願いいたします。

※弊社のご紹介
~~

 

よくあるM&A営業のメールのように見えますが、以下の内容に注目してみましょう。

私が支援しているIT系の会社様で、
“創業数期目”で“営業利益数百万”で“株価5億円”で話が進んでいるケースもござます。

※現在、システム受託開発、パッケージ開発、Web制作、UI/UXデザイン等幅広い会社様を担当しておりますので、そういった観点からも情報提供可能でございます。

どうぞよろしくお願いいたします。

 

M&A仲介会社への営業にも関わらず、IT系の会社の例や、そういった分野の会社を担当している内容の記載があります。

 

M&A仲介会社へM&Aを打診するのであれば、普通、案件の紹介ができるとか、マッチング連携できるとか、色々伝え方もあるかと思いますが、なぜかIT系の会社にM&Aを打診するような体裁に見えます。

 

また、“創業数期目”で“営業利益数百万”で“株価5億円”で話が進んでいる、という記載になっていますが、趣旨としては、創業して間もないのに高く売れるということをいいたいようにも読めます。

 

普通、買手となる会社が売手見込み先の会社に買収打診する際には、不用意に買収金額の目線を上げるようなことは言わないものです(自分が高く買わないといけなくなるから)。

 

全体的な文面から見ても、これは自社が買収打診する文章ではなく、仲介業者として売手を発掘する際に送る営業メールの可能性が高いのではないかと思います。

 

 

同業に営業メールを送るその真意とは?

 

某大手仲介会社M社が前述の通り送った営業メールは、内容を見る限り、送り相手をM&A仲介会社とは想定していないようにも思います。

 

そのため、M&A仲介会社同士の買収が盛んになっているというわけではなく、単に某大手仲介会社M社が、他の会社(上記ではIT系の会社)向けに送るはずだった営業メールをM&A仲介会社に送ってしまったという風に考えれられるのでは、と筆者は感じました。実際、今回の情報提供をいただいた仲介会社ではIT事業は行っていないということでした。

 

適当にDMをばら撒いているとこういうことはよく起こります。

 

また、某大手仲介会社M社からM&Aの営業をもらったというM&A仲介会社の社長は、実際に担当者と話したようですが、その場ではM&A仲介会社を買いたがっているクライアントがいるような話をされたということでした。ただ、話をしてもあまり具体的な内容は無かったとのことです。

 

M&A仲介の無差別的な営業は、営業DMやメールを送る段階ではよく相手の会社を調べることなく送り、返信があってから辻褄を合わせるトークを考えるということがよくあります。

 

そのため、意図せず同業のM&A仲介会社に送ってしまったが、実際に返信が来てしまったので「M&A仲介会社を買いたい買手がいる」という話を作り上げてしまったとも考えられます。

 

いずれにしても、前述の営業メールに反応しても同じような展開になるかもしれないと筆者は思います。

 

 

「買手がいます」営業ができなくなった時代の営業方法

 

今回の営業メールが「送り間違い」だったとしても、M&A仲介会社の営業方法については少し変化を感じる部分はあります。

 

こちらの記事でもお伝えしている通り、M&A業界では、M&A業者が売手見込み先に、買手もいないのに買手がいますと気を引く営業DMを送ることが非常に多かったです。

「貴社と資本提携したい」というDMは大抵ウソ、という事実

 

ただ、こうした営業は問題になっており、中小企業庁の中小M&AガイドラインではM&A業者の営業・広告についても、M&A支援機関(特に仲介者/FA)の過剰な営業や誤認を与える広告・提案などによる苦情・クレーム、紛争を防止する、という観点で改訂されています。

中小M&Aガイドライン(第3版)P.85
② 広告・営業の内容・方法
広告・営業先の中小企業の意思決定を適切に支援する観点から、以下のような広告・営業は行ってはならない。

~~
M&A の成立の可能性やその条件等の仲介契約・FA 契約を締結し、M&A の手続を進めるか否かの意思決定に影響を及ぼす事項について、虚偽若しくは事実に相違する又は誤認を招くような広告・営業(例えば以下)

・譲り受け(譲り渡し)の意向が無い企業若しくはその意向を確認していない企業又は実際には存在しない企業に関して、譲り受け(譲り渡し)の意向があると偽り又はそのように誤認させるもの

・譲渡額の水準について過大なバリュエーションを提示するもの(なお、仲介者がバリュエーションを実施する場合、確定的なバリュエーションではない旨、必要に応じて士業等専門家等のセカンド・オピニオンを求めることができる旨等を明示する必要がある
~~

 

今回の内容は、「買手がいますのでM&Aしましょう」という内容ではないのは、こうした流れも影響しているのかもしれません。

 

“創業数期目”で“営業利益数百万”で“株価5億円”で話が進んでいる、という内容は、自分の会社も高く売れるのではと勘違いする読み手も生まれる可能性があると思います。ただ、これは一般的な話ではないことに注意が必要です。そもそも、「話が進んでいる」であって「成約した」とは書いていません。

 

中小企業のM&Aの相場感からすると、こうしたケースがあったにせよレアケースと思った方がよいです。

 

純資産が相当積みあがっていればあり得る話かもしれませんが、創業数期目でそれほどの純資産を積み上げているのであれば逆になんでそんなに営業利益が少ないのかという話ですし、新規性のあるビジネスモデルでも、それほど過大なのれんを付ける話というのは一般的話というわけではないです。

 

「誤認」とはあくまで読み手がどう読むか、ですので、高く売れる可能性をちらつかせながら営業するのはどうかと思います。

 

普通の中小企業オーナーがこういう条件で売れるという先入観を持つと、M&Aというのは決まるものも決まらなくなってしまいます。

 

 

M&A仲介会社については、今回取り上げた某大手仲介会社M社に限らず色々な営業がくると思います。

 

そのような中で今回の中小M&Aガイドライン(第3版)では、仲介会社は売手に対して、買手の手数料も開示せよ、という内容もあり、ずいぶん顧客側としては取引の全貌が見やすくなってきたとも言えます。

 

今では、以下リンクにある、公開されているM&A業者のデータベースから、営業してきた仲介会社の手数料を事前に調べることもできるようになったので、営業された際に「まずは話を聞いてみよう」ではなくて、「どのくらいの手数料を取られる業者なのか調べてから反応するか考えよう」ということもできるようになった点は、業者を選ぶ環境が改善してきたともいえそうです。

参考 登録支援機関データベース

 

仲介手数料は高ければ高い程、売手としては「買手の提示条件が下がる」ものですし、買手としては「売手の希望条件が上がる」ものです。

 

仲介会社によって手数料はまちまちですので、希望条件にあった業者を選ぶのもよいでしょう。

 

最後までお読みいただきありがとうございました。

お問合せ

    お名前任意

    メールアドレス必須

    お問合せ内容必須

    スパムメール防止のため、こちらにチェックを入れてから送信してください。