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「親族内承継ができないまま社長が他界」そんな時どうする!?

お悩み社長

まだうちの会社は親族内承継できていないけど、準備できずに死んじゃったらどうしよう…

 

会社の代表者が高齢になってきた時、後継ぎがいる会社においては親族内承継を考える機会も多いことでしょう。

 

最近では、非上場会社の株式について、贈与税・相続税の納税猶予措置がある事業承継税制の特例措置(2023年3 月31日迄)も利用できるため、親族内承継が準備しやすい環境にあると言えます。
※詳細は国税局HP

参考 事業承継税制特集(外部サイト)国税庁

 

ただ、こうした特例を利用するためには、複雑で面倒な手続きも必要となるため、「そんな悠長な事言ってられないよ!」という方も多くいらっしゃるのではと思います。

 

今日は「親族内承継をしようと思ったけど間に合わなかった」という事例を取り上げ、どういう展開になるかを実例を交え説明したいと思います。

 

「こんなことにならないように何とかしなきゃ!」と思っていただけると幸いです。

 

本日の記事を読んでいただきたい方

・親族内承継をしなければ、と思っている方
・親族内承継と検討したけど時間的な余裕がない方
・株を持ったまま他界した後の展開を知りたい方

 

それではいきましょう!

 

 

親族内承継できずに社長が他界した話(実話)

 

これは筆者がM&A仲介として案件に関与したご案件になります。

 

内装工事会社のA社長は御年80歳。
後継者として、A社長の息子B氏(58歳)も同じ会社で役員を勤めている。M&Aのご相談をいただいたのは息子のB氏から。 

「今や、現場や会社全体の管理はほとんど自分が仕切っている。ただ、親父が頑固で会社の経営権を譲ってくれる気配がないし、とはいえ自分も年齢的に会社を更に大きくしようと思ってもいない。もし、M&Aができるならやってしまって、自分も会社からは離れたい。だから、M&Aの専門家として社長を説得してくれないか」 


そんな依頼を筆者は受けて、A社長に話をするも、
「会社の株の処理は確かに何か考えないといけないが、他人に任せる気はないからBが頑張ってほしい」と、M&Aにはあまり興味を示さない様子でした。


それから半年あまり経って、B氏から突然連絡があり、

「親父が急逝してしまった。遺言書はあるが、結局経営権は何も動かさなかったからどうしたらいいか分からない」

とのことでした。


幸いA社長は遺言書を残しており、会社の株式をB氏に渡すという記載がありました。

ただ、少しやんちゃなA社長は、非嫡出子もおり、その非嫡出子へも、A社個人の現金や不動産を渡す旨も記載がありました。それぞれの相続人に、A社長の気の赴くままに、色々保有していた資産を振り分けた形となります。


あまり争いごとが苦手だったこの親族は、特に揉めることなく、遺言書の通りの配分でA社長の財産を分けることになりました。

そして、会社の株式を相続したB氏は、筆頭株主として筆者にM&Aの譲渡を委託し、半年後に同業の内装工事会社に株式を譲渡し、取締役を退任しました。

めでたしめでたし

 

こういうケースは意外と多いのではないかなと思います。

M&Aに懐疑的な創業者と、事業にあまり想い入れが無く第二の人生を早く歩みたい二代目では、株式の処理に思い違いがあったりします。

親子なのに、ではなく、親子だからこそ、「株をどうするつもりか」とか「会社を今後どうしたい」という話し合いができないのもあるかもしれないですね。親族内承継だからこその悩みとも言えます。

 

親族内承継ができるならできるだけ早くしておいた方が良いけど

 

もちろん、上記のようなケースについて、どうしておくべきだったのか、と考えると「事前に株式をA社長からB氏に移しておく」とか「株式の相続について事前に計画しておく」ということになります。

 

ただ、そんなに前もって準備できるかというと難しいケースの方が多いかと思います。

・息子が急に会社を辞めてしまうかもしれないし
・株を渡してしまって経営が暴走するかもしれないし
・自分がいつ死ぬかも分からないし

そして、日々の仕事が忙しいと考えること自体後回しになってしまいますよね。
とてもよく分かります。

 

そんな方には、もっと最悪なケースを想定しておくことをお勧めします。

 

実は、この事例はかなり奇跡的な幸運に恵まれています。

それは例えば、

・息子のB氏が社長の代わりが務まる程に成長していた
・実務を担っているB氏に株式が配分される遺言書であった
・非嫡出子を絡めた感情的な論争に発展しなかった
・遺留分侵害額の請求が行われることなく相続が確定した
・A社長のいない内装工事会社をM&Aしたいという買手企業がいた
・M&A譲渡益を相続財産額の議論に持ち込む相続人がいなかった

といったことです。

こんな偶然が重なるのはラッキーとしか言えません。

 

もし、その会社で社長しかできない仕事がたくさんあれば、社長の急逝で会社の運営自体傾く可能性が高いですし、その傾いた状態の買いたいと言ってくれる会社はあまりいないかもしれません。

 

自分がいなくなったことで問題山積の会社を、残された家族に方法を考えてもらう、というのは考えただけも気が重くなると思います。

 

あるいは、会社と関係ないけどM&Aに詳しい相続人がいた場合、「高く株を売れるならそれも相続財産分与のテーブルに乗せるべき」とか主張されると厄介です。こういう株主がいる会社のM&Aは買手側からも嫌がられます。

相続を境に、親族内の関係がギクシャクするのも本望ではありませんよね。

 

最悪の内容を考えておくと、積極的に親族内承継を前に進めよう!という気力にもなるはずです。

 

事業承継税制は平成30年度の税制改正でかなり使いやすくはなりました。

発行済株式の全株式が対象で、相続税が100%猶予されるので、即税金を現金で納めるということが無いので短期的に経済的な負担を負うことはなくなったといえます。

但し、実際これに則って運用しようとした場合、現在であれば認定経営革新等支援機関の指導を受けた計画書を提出し、その後定期的に報告・届出を行わないと相続税の猶予が継続できないので、手間はかかります。あと、これに詳しい税理士などは探すのが大変だったりします。

 

上の事例のように、「二代目がもうあまりやる気がない」とか、「後継者が一応いるが、後継者も高齢なため、先々が読みにくい」といったケースであれば、最初の段階で第三者へのM&Aも有効な手段として認識しておくのが良いかと思います。

A社長がご存命の内に第三者にM&Aで譲渡し、A社長が受け取った譲渡代金を個人の資産として、現金を相続人に相続させれば、相続人からすれば「ありがとう、お父さん」という感謝で幕引きできるはずなので、綺麗な最期とも言えます。

 

単純に支払う税額だけを考えれば、事業承継税制が合理的なこともありますが、自分の作った会社を自分で道筋をつけたい、と考える方にはM&Aが良いこともあります。

 

 

相続に関連した会社法上のテクニック

 

余談ですが、こんなテクニックもありますので参考までに載せておきます。

 

① 相続のタイミングで株式が分散してしまった時に使えるスクイーズアウト

スクイーズアウト(Squeeze Out)とは、ある会社の少数株主を排除するテクニックの事です。なんだか大企業のM&Aを想像しがちですが、中小企業でも使えます。

相続によって持分が少数の株主が出ることもありますが、大株主であればこれらに金銭を交付して株を強制的に買い集めることが合法的に可能です。

法的安定性を担保するためには90%以上の議決権を確保し、「特別支配株主の株式等売渡請求制度」を用いた買い集めができるのが望ましいです。最悪は、2/3以上の議決権を持っていれば「株式併合」を用いた方法で買い集めもできるので、「2/3以上の議決権を持っていて、邪魔な株主がいる場合」はこれも活用の余地があります。

大株主だったら、「文句言うなら株買い取っちゃうよ!」と横暴なことが出来ちゃうわけですね。

 

② 議決権を調整することができる種類株式の発行

会社の株式は普通株式だけという訳ではありません。
発行する株式に対し、定款で特別に条件を付け、議決権の制限や譲渡制限有無、剰余金の配当有無などについて様々な設定をすることができます。

会社に関係ない子どもに株を渡す、というシーンでは、議決権の無い種類株式を渡すケースなどもあるので、「株を渡すかどうか」を議題にするのではなく「議決権を持たせるかどうか」などの視野も広げて資本政策を考えましょう。

 

どっちもちょっとテクニカルな感じのスキームかもしれませんので、専門家は入れた方が良い内容です。

 

いかがでしたでしょうか?

親族内承継で一番大事なのは、「継がせようと思っていること」をきちんと言葉で伝えて「親族の意志を確認」して「何を優先させるかを一緒に決める」ことだと思います。

是非、悔いのない結論を出しましょう!

 

最後までお読みいただき有難うございました!

親族内承継・従業員承継についてはこちらの記事もご参考下さい。

「親族内承継・従業員承継って意外と難しい?!」その理由を解説

 

 

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