お悩み社長
中小企業でM&Aを検討する方は色々な背景があります。
筆者がお話する中ではこんな理由でM&Aを検討している人が多い気がします。
・後継ぎがいないが従業員がいて事業継続したいから新しいマネジメントの導入を検討する方
・事業に疲れて引退したいから売却を検討する方
・そもそも親から継いだ会社でありあまり思い入れが無いから売却を検討する方
・企業価値が毀損し、事業継続のために他社の支援を得たい方 など
必ずしも会社のシナジー効果を求めるような前向きな理由だけではないのが実情で、「お金が欲しい」「早く引退したい」という個人的な理由もあれば、「お金の工面で心労が絶えず、そこから解放されたい」という想いもあるのがリアルなところです。
今回は資金繰り悪化をM&Aで解決できるか、という点についてお伝えしていければと思います。
資金繰り悪化をM&Aで解決できる?
M&Aというのは様々なスキームがありますが、まず資金繰り問題を解決する前に「経営権を渡してもよいか」について決めないといけません。
株式譲渡であれば会社の株式を渡すので経営権を渡してしまうことになりますし、事業譲渡であれば事業のみを他社に渡すのでその事業についての経営権は渡すことになります。
もし、「自分で引き続き経営権を持ちながら、資金繰りの問題だけ解決したい」とお考えなのであれば、金融機関からの融資の方がよいと思います。
ただ、与信が付かないということもあるでしょう。そんな時に資本取引も視野に入れたりしますが、それでも株式譲渡ではなく、第三者割当増資のような形で他社に資本注入してもらい資金の補填をするか、残したい事業以外の事業を事業譲渡してその売却代金で資金の補填をするか、という方向性になってきます。
一部でも会社株式を売るという話になると、銀行からお金を借りるよりもウェットな関係になってくるので、あまり経営に口出しされたくないということであれば資金繰り悪化をM&Aで解決するという発想は人によっては「毒を飲む」みたいな言い方をする方もいたりします。
一方で、「経営権を渡してもいいから会社をなんとかしてほしい」という方については、M&Aも根本的かつ有効な策になってきます。
M&Aで会社ごと売却してしまえば、以降は買手側がその会社の資金繰りを管理していくことになりますので、売手としてはもうお金の心配はしないで良くなります。
大抵の場合は買手側が資金力があるため、M&A後に買手から買収した会社に資金を貸し付け等して資金繰り問題を解決したり、買手が保証して買収した会社で新たな融資を引っ張ることもあります。
また、買手がマネジメントに加わってくれることにより、取引先との交渉力にも良い影響を及ぼすことがあります。販売先の売掛金の回収サイトを短縮したり、仕入への支払い条件を良くしたりと、資金繰りが発生する原因も解決できる効果も期待できます。
売手からすると、M&Aは目先の資金繰りを解決するだけでなく、根本的に資金繰りが起こる原因を解決できることもあるので、自力で立て直すことが難しいと思われるケースにおいては有力な選択肢にもなると思います。
ただ、注意することもあります。
財務状況が苦しい売手企業をターゲットにした詐欺的なM&Aでとどめを刺されるような事例もあります。
ルシアンホールディングスのM&A詐欺?手法とその対策
当然ですが、買手も自社にメリットがあるからM&Aに踏み切るわけですので、あまりに不自然な理由で買収を検討しているという買手がいた場合には、買収目的の真意について探るなど、慎重に対応しないと被害者になってしまうこともあります。
M&A以外の資金繰り改善策は?
では、M&Aをしてみよう、と思い立った時に、まず念頭に置かないといけないことがあります。
それは、「M&Aはすぐにできない」ということです。
M&A業界の界隈では、1か月程度でスピード感のあるM&Aをした、なんていう話がされていることもありますが、これはレアケースです。しかも、こうした早さ重視のM&Aは本来実施することを端折って進めている事例も散見されるため、M&Aされた後に問題が発生する可能性は高くなると思います。
一般的な手順で進めた場合、早くても半年、標準では1年程度見た方がよいです。
場合によって、買手が見つからないという場合においては、2年3年経っても一向にM&Aができない、ということもザラにあります。
資金繰りの問題というのはそんな悠長に待てないということも多いので、即効性が無く、しかも不確実の高いM&Aに過度な期待をするというのはリスクが高いです。
あと、焦って売却しようとすると買手から足元を見られたり、買収監査を短期間で行ってほしい話を強くすると買手が潜在リスクを懸念して検討断念してしまう、なんてこともあるので、買手にとっても緊急性の高い会社の買収というのは怖いものです。
ですので、まずは目先の対策として自社内で資金繰りを改善できるような方法は無いか探りつつ、M&Aで根本的にお金に関する不安を払拭するという動き方をするものよいでしょう。
以下は自社内でできる資金繰り対策の一例です。
在庫の処分をする
事業の種類のよっては、在庫を持たないと成り立たない事業もあります。
とはいえ、過剰な在庫を抱えることで資金繰りを圧迫します。
中小企業の中には適正在庫がどのくらいか、という明確な基準を設けず、「いつか売れるだろう」と売れない在庫が溜まっていく会社も少なくありません。特に、アパレル関連の企業など、商品に流行りや季節性がある場合にはこうした在庫が問題になることも多いです。
定価で売ることが難しいという場合、値下げして販売することも当面の資金確保のためには必要なこともあります。
もし、一度安値で売ると高く売れなくなってしまう、とか、ブランドイメージが傷がつくという事情があるのであれば、期間を区切ったり、商品グレードを分けて扱うようにするなど工夫をするのもよいでしょう。
近年では、滞留在庫を一括で買い取ってくれるようなサイトもあるのでそういったサービスを利用するのもよいでしょう。
取引先に取引条件を見直してもらえるよう交渉する
販売先からの売掛金の回収サイトや手形の回収サイトが、仕入先への代金支払いサイトよりも長い場合、運転資金は多く必要になってきます。
資金繰りを考えれば、販売先からの回収は短縮し、仕入先への支払いは長期化するよう交渉する必要があります。
ただ、あまり頻繁に「早く入金してほしい」という話を持ち掛けると、「この会社大丈夫なのかな」と思われることもあり得ますので、話を持ち掛ける頻度や説明を誤らないようにしないといけません。
「資金繰りが厳しいから」ではなく、「税務上の損益の関係で」という感じの話を持っていくのもよいでしょうし、「管理上の観点から、取引が一定額までは末締め3か月後支払ではなく、翌月支払にしてほしい」といった感じの交渉もみられます。
また、商材によっては、前述の在庫の処理と絡めて、余った在庫を仕入先に返品できる仕組みを提案してみるというのも実際存在します。例えば、「月に〇〇円以上取引がある場合には、〇個以内で滞留在庫を仕入先側に返品できる」というものです。仕入先が他の販売先にも転売が可能な商材などが対象になると思いますが。
ファクタリングや商業手形融資を利用する
資金繰りを解決する方法として、ファイナンス面でのスキームを利用する方法があります。
それは、売掛金を現金化する「ファクタリング」であったり、受取手形を現金化する「商業手形融資」というスキームです。
「ファクタリング」の場合は、債権を売買するという取引になり、融資とは異なるため迅速に現金化することができます。
ただし、ファクタリングの業者選びは気を付けるポイントもあるため注意しましょう。以下の記事は業者の見分けるために参考になりますので紹介しておきます。
参考 悪徳・詐欺行為を疑われるファクタリング業者を見分けるために必要なこと
「商業手形融資」とは、販売先から受取った受取手形を割り引くことです。
金融機関では「商手」と言われることもありますが、一定金額までの保証枠を設定し、その枠内であれば、受取手形を持ち込み利息等を差し引いた現金を入金してくれます。
ただ、商業手形融資の場合は融資の一種なので、保証枠の設定時には融資審査を通す必要がありますし、融資する側に償還請求権があるため、万一手形が不渡りを起こした際には手形割引をした側に請求が来るという注意点もあります。
換金性のある資産の売却、保険の解約をする
資金の工面の為に、換金性のある資産を売却するという方法もあります。
事業で使用する資産を売却してしまうと業務に支障が出ますが、使用していない機材や事業と関係の無い不動産を処分するというのも良いと思います。
また、解約返戻金のある保険を解約することで当面の資金を確保するのも良いでしょう。
ただ、資産の売却の場合は、売却したことにより税務上の益金が発生しないかは注意しましょう。
減価償却済みの固定資産が思いのほか高く売れた、とか、保険料支払いの際に経費計上した保険を解約した、などのケースでは、受け取ったお金が税務上の益金になり、そこに対して法人税等が発生することもあります。
本業でそこに充てられるような損金があればよいのですが、税金の支払いで再びキャッシュアウトしてしまわないかはよく考えましょう。
スポンサー探しは自力か仲介か
財務面で厳しい状況にある会社がM&Aを目指す場合でも、M&A専門業者を利用することがあります。
実務的な話で言えば、あまりに財務が悪化し過ぎており、民事再生手続きを行い債権カットなど金融機関にも負担を強いるような段階まで来てしまっている場合には、M&A専門業者に依頼しても対応が難しいことが多いです。
このような状況であれば、専門の弁護士や公的な機関である中小企業活性化協議会に相談しつつ、各金融機関の意向も踏まえつつ、スポンサーを探索するという流れになり、売主が買手を選ぶというよりは、より債権回収できる買手にお願いする、という感じになります。
そこまで悪化はしていないが、放っておけば立ちいかなくなるというくらいのコンディションであれば、普通のM&Aを目指すことも可能です。
この場合は買手を見つけられるかどうかが重要になりますが、自力で買手を見つけるか、M&A専門業者に依頼するといった方法でM&A成立を目指すことになります。
自ら買手を見つけられる、もしくは、既に買収のオファーを貰っている先があるようであれば自力で買手を見つけるのもよいかもしれませんが、複数の買手を並べて交渉というのは初めてM&A検討をする中で対処するのは結構難しいというのはあります。また、一般的なM&A条件がどんなものか分からない中で進めることになるので、思い切り不利な契約書に仕上がるリスクは上がると思います。
一方で、M&A専門業者を利用する場合は、手数料が高い業者には気を付ける必要があります。
M&A専門業者にはそれぞれ独自の手数料設定があるので、最低報酬でも2,000万円ですという業者に依頼してしまうと、M&A金額が2,000万円を下回った時にはM&A専門業者への支払いで借金しないといけない、など本末転倒な事態にもなりかねません。
できるだけ手数料は安い業者を選びつつ、広く買手を探索できるように、場合によっては複数の業者に同時に動いてもらうということも検討してもよいかもしれません。
厳しい状況にある会社の場合、時間が経てば経つほど価値が毀損する可能性があり、よりM&Aしづらくなるということもよくありますので、できるだけ早く信用できそうな専門家に相談されるのがよいと思います。
筆者にご連絡頂ければ、M&Aにチャレンジした方がいいかどうかなども感覚的な部分でアドバイスできると思いますので、希望される場合はお問合せ下さい。
最後までお読みいただきありがとうございました。