お悩み社長
M&Aをして買手がお金を抜いて逃げるというM&A詐欺ですが、このような報道もされています。
news23「【独自】渦中の経営者を直撃…悪質M&Aは介護業界にも」
以前、ルシアンホールディングスのM&A詐欺について取り上げた手法に似ているようですが、買収した買手の経営者にも体当たり取材している動画になっています。
ルシアンホールディングスのM&A詐欺?手法とその対策
今回、ここでも一部触れている「事業承継・引継ぎ支援センター」について、
「公的機関にM&Aの相談をしても詐欺に遭うものなの?」
という疑問を持つ方もいるかもしれないと思いましたので、取り上げてみたいと思います。
公的機関の仕組みから、上手な使い方についても考えてみます。
そもそも事業承継・引継ぎ支援センターとは?
「事業承継・引継ぎ支援センター」とは、全国の商工会議所に設置されている相談所のようなところです。後継ぎがいない、とか、親族内で事業承継したいとか、第三者へ譲渡したい、など様々な悩みについて話し相手になってくれます。
引継ぎ支援センターは相談所。公的機関ですので費用もかからないのが特徴です。
M&A業者だと、手数料もそれぞれ違いますし、正直どのタイミングでいくら取られるんだろう、という不安もある中で話をする方もいるので、そういう不安なく親身に相談にのってくれるのは利用しやすいポイントかと思います。
また、M&A業者の場合、いらないガツガツした営業を受けたり、何を言っても第三者への譲渡という話で持っていきたがるので、そういうのが嫌だなと感じる人にはちょうどよいかもしれません。
ただ、引継ぎ支援センターは公的機関なので、株価算定もしないですし、仲介としてガッツリ案件に入るということもあまり期待しない方がよいです。
無料だけど、深く関与はしないということですね。
ちなみに、相談者の相談内容が後継ぎがいないといった内容だと、結局「誰か引き継いでくれる人(会社)を探そう」という話になることも多く、そういう場合は第三者へのM&Aという方向性になります。
この際、引継ぎ支援センターが買手を紹介してくれることもあれば、引継ぎ支援センターがM&A業者を紹介することもあります。
M&A業者使いたくないから引継ぎ支援センターきたのに、という方もいるとは思いますが、引継ぎ支援センターの情報網だけでは限界があるのと、引継ぎ支援センターが直接買手にドアノックで営業に行くということもないので、ここは業者に任せる部分が出てきます。もちろん、「できるだけ手数料が安いところを紹介して」とか「できれば手数料無料のM&A業者を紹介して」といった感じで引継ぎ支援センターの担当者と相談して業者選定することもあります。
筆者の印象としては、引継ぎ支援センターがどのくらい個別案件に関与するかや業者の紹介の仕方は、結構引継ぎ支援センターによってやり方が違う印象があります。
たぶんプロマネの方の権限がそれなりにあるからだと思いますが、色々な業者にプレゼンさせて売主に選ばせるような形式を取るところもあれば、引継ぎ支援センターの担当者が銀行のOBで、話の通しやすい古巣の銀行を紹介するということもあります。
一度、売主がM&A業者を選んで一緒にM&Aを目指していこう、となると、引継ぎ支援センターの関与は徐々に少なくなることもあるので、基本は業者に任せつつ何か問題が起きたときに相談できる人ということで引継ぎ支援センターを頼る方もいる感じです。
引継ぎ支援センターを使っても詐欺に遭う?
さて、ここで本題です。
上で取り上げた動画では、この事業承継引継ぎ支援センターに相談にいった売主が、最終的に詐欺?に遭ってしまっています。
「公的機関である引継ぎ支援センターに相談にいっても詐欺に遭ってしまうの?」
と思う方もいるかもしれません。
ただ、結論から言うと、今回問題になっているような買手が売手の多額の現金を引き出すような詐欺は、引継ぎ支援センターに相談にいっても起こり得ます。
昨今問題になっているM&A詐欺というのは買手が確信犯的に行うことを指すため、最初から買手が騙すつもりで演じたりすると、誰も見抜けない可能性があるということです。
悪質な買手が引継ぎ支援センターを騙して買手登録することが絶対無いかは分かりませんし、前述の通り引継ぎ支援センターはM&A業者に実務を依頼するので、結局普通にM&A業者経由で仲介を依頼するのと変わらず、紹介された業者のフィルターが甘いと詐欺をする買手を紹介してしまうかもしれません。
引継ぎ支援センターの場合は、M&Aが成立しても金銭的なインセンティブが無いので、何とか成約まで押し込みたいM&A業者と違いフラットな意見が聞けるとは思いますが、あまりに怪しいなと思う節があっても、「そのM&Aはなんだか怪しいので止めましょう」とまで関わるか、というと正直微妙だと思います。
「公的機関に相談にいったのに!」
と、詐欺に遭ってしまったら思うかもしれませんが、あまり過度な信用をもって引継ぎ支援センターの言うことを捉えるよりも、あまり案件に深くは関与しないけど、親切に相談にのってくれる場所、くらいに思った方がよいかもしれません。
ちなみに、公的な機関が、フィルターの甘い、問題を起こすようなM&A業者を紹介するの?という意見もあるでしょう。
買手詐欺についていえば防ぐのが難しい可能性のある問題ですが、明らかにM&A業者の過失と捉えられる問題を、公的機関が紹介したM&A業者を起こすことは普通にあります。
筆者も引継ぎセンターからの案件紹介をいただくことがありますが、話をしてみると他の業者が問題が起こし信用できなくなったから他の業者にする、という背景があることだって結構あります。
引継ぎ支援センターが紹介するM&A業者というのは、各センターに登録のある業者なんですが、誰もが登録できるという訳ではありません。「M&A支援機関」のように誰でも登録されるわけではないので、素性の知れない業者が引継ぎ支援センターに登録はされないとは思いますので、その点では、その辺の業者の中で信用してよいのかもしれません。
でも、これも厳密な審査をして登録されるという感じでもなく、コンサルタントマターの問題を量産している大手M&A業者も登録されているので、それはそういう目で見てあげる必要があります。
引継ぎ支援センターの正しい使い方
引継ぎセンターはあくまで相談所として使いましょう。
どういう業者がいて、どういうM&A支援をしたか、どういう料金体系でやっているのか、という業者選びの視点を担当の方が持っていることもありますし、何よりも「なんとしても早期に成約させてやろう」「成約させるためできるだけ金額目線を下げさせよう」みたいな腹を持っていない立場の方々なので、安心して胸の内を打ち明けることができるでしょう。
ただ、引継ぎセンターの紹介でM&A業者と会うことになった場合は、以下の点について気にしておくことをお勧めします。
・過去問題を起こしたことがある業者かどうか情報を持っているか
・大手の業者ばかり紹介してこないか
・引継ぎセンターの担当者と業者の繋がりは何か
引継ぎ支援センターによっては、一定規模以上の案件は大手の業者しか紹介しないというセンターもあります。
筆者の意見にはなりますが、大手の業者はどこも似たり寄ったりで最低報酬金額も高額です。はっきり言ってあまり比較する上で参考になるか分からないと思います。
売主の中には大手よりも小規模な業者の方がサービスが劣るだろう、という先入観を持っている方もいますが、小規模の業者でも優秀なコンサルタントはたくさんいます。というか、大手で優秀な人から独立して小規模な仲介会社を作る、というイメージの方が合っているかもしれません。実際会われると、手数料がずっと安いのにコンサルタントの質は小規模業者の方が高い、という感想を持たれる方も結構います。
引継ぎ支援センターの紹介で大手ばかり紹介されたら、こうしたコンサルタントに出会えず、高い手数料を払わされる羽目になるので注意が必要です。多分、売主が意識して接触機会を増やさないとこういう層のコンサルタントには出会えません。
また、引継ぎ支援センターの担当者が、特定の業者と深くつながっているケースもあります。
某センターの職員は皆某銀行のOBで、良質な案件(手数料が高い、簡単に決まりそうな案件)は、古巣の銀行をM&A業者として紹介する、みたいなことは実際あります。
筆者は過去、「これって癒着?」と思わざるを得ない話を直接引継ぎ支援センターの担当者さんから聞いたこともあります。
ただ、これだと、売主としては手数料やコンサルタントの質という部分で比較さえできないので、あまり引継ぎ支援センターの言いなりで動くのは得策でないと筆者は思います。
引継ぎ支援センターの方は親切な方が多い印象は筆者も持っていますが、M&Aは多額のお金が動く超一大イベントなので、誰かの言うことを妄信するというのは辞めて、自分で情報を集めに行き自分でよいと思う選択肢を選ぶ、という姿勢が大事なのだと思います。
誰がどういう動機付けでM&Aに関わっているか、に注目して、どういった役割まで求められるか、について考えてみると腑に落ちるものが見えてくるという面もあるでしょう。
最後までお読みいただきありがとうございました。
筆者はM&Aコンサルタントとして活動しており、業者サイドでしか知り得ないような情報も発信しておりますので、他の記事や書籍も参考にしていただけると役に立つかと思います。
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