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ルシアンホールディングスのM&A詐欺?手法とその対策

お悩み社長

ルシアンホールディングスっていう投資会社が悪質だと記事で読んだけど、M&Aをすると詐欺に遭うことがあるの?

 

M&A投資詐欺のような被害が近年多発しているという記事を目にしました。

 

記事によるとルシアンホールディングスという会社が、M&A後に買収企業の現金を抜き、その後音信不通になる被害が多発しているということです。

 

当サイトにも、「めちゃくちゃM&A業者から営業来るけど詐欺じゃないか?」というような趣旨の相談はきますが、これはM&A業者ではなくM&Aの買手が起こしている被害の話になります。

 

結論としては、M&A業者だろうが、買手だろうが悪意のある相手に当たると詐欺などに遭う可能性があるので気を付けましょう、という話ですが、なぜこんな被害が起こってしまうのか、こういう被害を受けないためには何に気を付けたらよいのか、について現場レベルの実情も踏まえ考えてみたいと思います。

 

 

M&Aの買手が行う詐欺手法

今回事例として公表されている詐欺?的な手法は以下の通りまとめられます。

①買手が売主から株式譲渡で株を買い取る(M&Aする)
②買手は買収した会社で借入している金融機関負債の連帯保証人を替えずに、現金を抜く
③買手が音信不通に
④会社で借入を返せず、株を持っていない旧オーナーが返済を迫られる

 

「M&Aしたら借金も全部買手に引き継がれるんじゃないの?」

と思った方、半分正解で半分不正解です。

 

普通、中小企業が株式譲渡を行う際、会社の借入に個人保証がある場合には、M&Aと併せて売手社長個人の連帯保証は外す(金融機関と交渉して、借入を無保証にしたり、買手が代わりに連帯保証に入ったりします)手続きをします。

 

会社の株を持ってないのに連帯保証だけ入っている、ってめちゃくちゃリスクが高いので、そういうことが起こらないようにするわけです。

 

でも、買手の怠慢でこれをしなかったりすると、売手にとってリスクのある状態がずっと続くという状態になります。

 

つまり、M&Aすれば勝手に借金が引き継がれるわけではないわけです。これはその仕組みを悪用したスキームになります。

 

仲介会社が入っていたのであれば、形式的にも株式譲渡契約書というのが存在するはずですが、そこにはクロージング後の義務として「売主の保証債務や売主の個人不動産等に設定されている対象会社に関する抵当権を解除する旨」が記載されているような気がしますが、これも買手が守らない前提であればなかなか防ぎにくいものではあります。

 

 

どういう会社が詐欺に遭いやすいか

この手の詐欺に遭いやすいコンディションの会社というのはいくつかあるように思います。例えば以下のような会社です。

 

有利子負債が大きく株価が1円などで譲渡されるような会社

 

株式譲渡でM&Aを行う場合、どのように株価を試算するかは様々ですが、例えば、一つの考え方として「時価純資産に営業利益を数年のせる」というような年買法という方法があります(正しいかどうかというより、実務的には、多くのM&A業者ではこの年買法で株価査定をした結果、これを目線感にして動く売主も多い、というニュアンス)。

 

で、この考え方を前提にすると、有利子負債が比較的大きく、時価純資産が少なく、毎期それほど利益が出ていない(もしくは赤字の)場合は、株価としてもそれほど高い金額を望めない株価になるので、「借金を引継いでくれたら1円でも会社を売りたい」という目標設定で検討する譲渡案件も存在します。

 

とはいえ、こういう会社でも、当面運営できるだけのある程度の運転資金は持っていることも良くあります。狙われるのはまさにこういう会社です。

※キャッシュは無いけど不動産はある、という会社の場合は金融機関の抵当権も付いている可能性もあると思うので、ここはやはりキャッシュを持っている会社の方が狙われやすいと思います。

 

悪意のある買手の立場からすると、「ほぼタダで買収できて、いくらかの手元資金を狙える」会社だからです。

 

逆に、M&Aすること自体に多額の資金が必要になるような財務状態が良い会社の場合は、まず株を買う段階で買手が資金を投じないといけないため、上記のような詐欺的スキームは買手からしてあまり意味を成しません。そもそも財務状態の良い会社は将来その会社が生み出す利益まで乗った金額で買収することも多いので、時価純資産以上の値段で売却することが多いかと思います。

 

全部受け身で買手を探している会社

 

今回のルシアンホールディングスの詐欺的手法は会社や従業員を巻き込んでいる分かなり大がかりと言えます。

 

M&Aの仲介をしていると分かりますが、真面目にM&Aを検討している買手が、何かの拍子に詐欺などをする誘惑に負けてしまった、というようなことは普通ないと感じます。というのも、このスキームで詐欺的なことをするにはかなりの人を巻き込み自分自身も結構な演者になることが要求されますし、グループを拡大していこうとしている会社は「詐欺している会社」と思われるようなレビュテーションリスクは避けるのが普通ですし、そもそも真面目にM&Aをしようとした会社がたまたま上記のような財務コンディションとも限りません。

 

つまり、騙そうとしている買手は初めから騙すつもりで、騙す相手を探していると考えるのが自然です。

 

だとすると、全部受け身で買手を探す動きをしている売手は、能動的に買手を探している売手よりもそういった買手に遭遇しやすいということです。

 

筆者が同業の知り合いに今回の話題をしてみたところ、M&Aマッチングプラットフォーム経由でルシアンホールディングスが買収オファーをしてきた、という話はいくつか出てきました。

 

M&Aマッチングプラットフォームは、売手や売手の代理で買手探しをしているM&A業者が譲渡案件として掲載して、それを見た買手が買収オファーをする、という仕組みのところが多いです。

 

それゆえ、カモになりそうな会社を見定め買収オファーをしていたのではないかな、と推測します。

 

一般論ですが、詐欺に遭うきっかけは詐欺師からのコンタクトであることが多いのが常ですので、受け身でM&A検討するのは気を付けた方がよいでしょう。

 

ただ、実際には信用していた仲介会社からの紹介、ということもあると思います。仲介会社は能動的に買手を探索することもあれば、M&Aマッチングプラットフォームを利用して受動的に買手を探索することもあるので、その扱いはどのようなルートでその買手にコンタクトを取ったのかによってことなることと思います。

 

事業上のシナジーを無視して売却先を決める会社

売主の中には、「とりあえず高く売却で気さえすれば相手はどんな会社でもいい」「相手が借金を肩代わりしてくれるならどんな会社でもいい」と、事業上のシナジーを無視して買手を決める売主がいます。

 

こういう売主はこの手の詐欺にひっかかる可能性が高くなると思います。

 

世の中には、「M&Aをすることで自社グループにシナジー効果をもたらす事業会社」の買手だけではなく「投資により収益を上げることを目的にした投資会社」の買手がいます。いわゆるファンドもこれに当たります。これ自体は別に詐欺でも何でもないのですが、事業上のシナジー効果が無いのに買収をするというのであれば、買収動機については気にしてみるのが安全かと思います。

 

詐欺に遭いたくない買手が売手に「なぜ売却したいのか」を尋ねて、その理由に不自然な点が無いかを確認するように、詐欺に遭いたくない売手は買手に「なぜ買収したいのか」を尋ねてみるべきです。

 

実際、筆者も「この買手はなんで買収したいんだろう」と思うケースは結構あります。

M&A業界ではよく言われるのは、「どんな案件でも検討したいという買手は結局買わない」ということも経験則的にあったりするので、普通のM&A業者はビジョンもなく情報をただ欲しがる買手は警戒します。また、何でも買いたいという買手は相場よりも明らかに安い条件を言ってくることが多かったり、急に音信不通になったりということもあったりするので相手にするだけ時間の無駄と考えるM&A業者も多いのではないかと思います。

 

もしシナジー効果を重視する売手だった場合、このルシアンホールディングスのような、何か色々やってるっぽいうけど本業が何か分からないは紹介しづらい、というフィルターはM&A業者側にも一定程度かかるので、紹介経由でも変な買手に騙されるリスクは多少減ると思います。

 

 

詐欺というのが意図的である以上、なかなか防ぎにくいのも有りますが、詐欺に遭わないために重要なのは、「自分が詐欺的スキームに遭いやすいコンディションの会社であることを自覚する」「買手は能動的にコンタクトする」「買収する目的について注目する」ということで、リスクはある程度抑えられるかもしれません。

 

仲介会社を使わなければ大丈夫?

今回の記事では、ルシアンホールディングスを仲介会社経由で紹介を受けた売手が被害にあっているということです。これについて仲介会社は故意ではなかったとしても一定の責任はあると思います。

 

では「仲介会社を使わなければこうした被害には合わないか?」と言われるとそうとは言い切れません。

 

ルシアンホールディングスのような会社は、後腐れなく売却意思のある会社(獲物になりそうな会社)にコンタクトできるM&Aマッチングプラットフォームを利用する可能性もあるからです。

 

売手企業が仲介会社を使わずに買手を探すのは結構難しくて、結局M&Aマッチングプラットフォームなどに頼ることになるケースも多いですが、それはすなわち受動的に買収オファーしてきた買手と交渉することに繋がるので、能動的な買手探しよりもリスクは高まるはずです。しかも買手と直接やり取りです。言葉巧みな買手に「M&Aはこういうものです」と言われて、断るのが難しいケースも多いでしょう。

 

経験の浅いM&Aコンサルタントだと、無理やりでも成約させるために、「この買手はお勧めです」とかあることないこと言って誘導してくるリスクはありますが、それなりに経験を積んだM&Aコンサルタントだと「この買手何やってる会社かわかんないな」とか「本当にお金持ってるのかな?」とか、両社面談でも「具体的なこと何も言わない買手だな」とか感じる部分は少なからずあるはずなので、そういうフィルターは期待できるかもしれません(それでも成約という成果に縛られている営業系のコンサルだと分かってても目をつぶらないかという不安要素もあります)。

 

重要なのは、こういう悪意をもった買手は社名や代表者名などできるだけ周知して排除する、ということかと思います。

 

M&A業者は中小企業庁のM&A支援機関に登録しているわけなので、そういった問題を起こした買手の情報はシェアするとか、M&Aマッチングプラットフォームは買手について調査した上で登録を許すとか、でしょうか。

 

M&A詐欺はこれからM&Aをしようとしている人を躊躇させてしまう可能性もあるので、M&A業界全体が取り組む課題ですね。

最後までお読みいただきありがとうございました。

 

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