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【実践編⑦】仲介会社を使わず自分でM&A(最終契約書を結ぶ編)

前回の「【実践編⑥】仲介会社を使わず自分でM&A(買収監査を受ける編)」からの続きです。

 

前回記事を確認したい方はこちらからどうぞ。

【実践編⑥】仲介会社を使わず自分でM&A(買収監査を受ける編)

 

今回の実践編では、「サクッと売りたい」という方向けに自分で会社・事業を売る方法をできるだけ分かりやすくお伝えしております。

 

なお、毎度の留意点ではありますが、あくまで一般的な例でお伝えしますこと、及び、ご自身で進める場合にはM&Aに関するトラブル等について当サイトでは一切の責任を負いかねますので予めご了承ください。

 

今回説明するのは、M&Aのこの部分の話です。

前回は買収監査を受けるでした。お疲れ様でした。

 

今回がM&Aで一番山場になる最終契約書の締結です。

※最終契約書と呼んでいますが、株式を売買する株式譲渡であれば「株式譲渡契約書」で、事業だけを切り売りする事業譲渡であれば「事業譲渡契約書」のことです。

 

これを締結できれば、よほどの事が起きない限りその記載条件で譲渡を実施しますので、取引条件についてはこれでようやく一段落です。

 

最終契約書については、譲渡後にも売手が負う責任もあり、それもこの最終契約書に全て明記されます。

これまでM&Aに関するやり取りを買手と重ねてきたと思いますが、最終的に残るのは基本的にこの契約書だけになるので、超重要な書類となります。

 

今回はそんな最終契約書で注意した方が良いことを説明していきたいと思いますので、これから最終交渉に挑むという方は是非最後までお付き合いください。

 

なお、法人が行う事業譲渡については、よほど軽微なものでなければ、会社にとって重要な資産を売却することから最終契約書の締結前に、取締役会の承認を得ておく必要があります。

 

それではいきましょう!

 

最終契約書ってどんな契約書?

 

最終契約書ってどんな契約書面でしょうか?

 

これは実際に現物を見る方がイメージ付きやすいと思います。

 

「株式譲渡契約書 ひな型」や「事業譲渡契約書 ひな型」というキーワードで検索してもたくさんその手の書類は出てきますし、今回の実践編で紹介しているTRANBI(トランビ)でも無料でひな型が提供されています。

 

ここで一点重要なことですが、「ひな型はあくまでひな型であって完璧なものではない」ということです。

 

大体のひな型では、一般的に記載しておくようなことは盛り込まれているのですが、M&Aというのはそれぞれ全く違う背景を持っているので、本来は1社1社でカスタマイズして作られるべきです。でないと、「〇〇ってことが起きた場合ってどうするんだっけ?」みたいなことが書かれていない(疑義が生じやすい)形だけの契約書になってしまいがちだからです。だから普通は弁護士入れるんですね。

 

契約書というのは、取引の当事者が円満な関係だったら見返すことすら無いと思いますが、揉めたときは一言一句見返して、どこまでどういう主張ができるのかを吟味する感じになるので、”揉めることを前提”にして作成することを心掛けてください。

 

ちなみに、これは大手の仲介会社にお願いしていても注意が必要です。大手の仲介会社とはいえ、基本的には社内のひな型を使いまわしますので、イケてないコンサルタントが担当になると形だけの契約書になることは良くあります。

 

多くのM&Aコンサルタントは、M&Aを成約させることが目的に動いていますので、M&Aをした後の問題について意外と関心が無く、M&Aをした後に起こり得る問題を事前に協議するよう両者に促す、というのは経験や能力的にも難しいと言えるからです。

 

自分でM&Aをするにせよ、誰かに任せるにしろ、「こういう問題が起こった時はどうするのか?」と主体的に考えて、必要に応じて契約書に盛り込むようお願いしてみても良いと思います。

 

さて、ここでは一般的な最終契約書の内容についてみていきましょう。

 

最初に言っておくと、契約書の話なのでアレルギー反応が出る方もいると思います(笑)

 

M&Aいろは塾は「あくまで普通の人が分かる言葉で説明する」というのをモットーにしていますので、できるだけ分かりやすく説明します。
(分かりづらいという意見があれば、お問合せフォームにてご意見いただければ改善に努めます)

 

まず、大体はこんな感じの項目が契約書に盛り込まれます。

 

株式譲渡契約書に盛り込まれる内容(例)

1. いつ、誰から誰に、どこで、何株渡すのか
2. 譲渡する対価(1株当たりいくらか)、支払方法
3. 譲渡に際して、満たすべき条件や提出する書類
4. 善管注意義務
5. 譲渡を踏まえて株主名簿の名義を変える旨
6. 譲渡した後、それぞれが負う義務
7. 表明保証
8. 役員や従業員の処遇
9. 契約違反における補償の内容(上限・下限・期間など)
10.  競業避止
11.  完全合意
12.  秘密保持義務

 

事業譲渡契約書に盛り込まれる内容(例)

1. いつ、誰から誰に、どこで、何を渡すのか
(資産、従業員、契約、商標権、ノウハウなど。目録も添付)
2. 譲渡する対価、支払方法
3. 譲渡に際して、満たすべき条件や提出する書類
4. 移転手続き、債務を引き受けするのか否か
5. 瑕疵担保責任について
6. 表明保証
7. 善管注意義務
8. 契約違反における補償の内容(上限・下限・期間など)
9. 競業避止
10.  完全合意
11.  秘密保持義務

 

他にも、準拠法や誠実協議とか契約書でおなじみの内容もありますがここでは割愛します。

 

最終契約書の内容で売手が気を付けること

 

この最終契約書の内容で、売手が気を付けないといけない項目は赤字で記載しました。

(譲渡の金額などは言わなくてもみんな分かっていると思うので、見落としがちだけど超重要という盲点について絞って説明していきます)

 

一つずつ解説していきます。

 

3. 譲渡に際して、満たすべき条件や提出する書類

 

最終契約書を締結したから、「やったーこれでM&Aが成立だ!」と思うのはまだ早いです。

 

最終契約書の中には、「〇〇を達成したらM&Aを実行する」(裏を返すと〇〇を達成しなかったらM&Aは実行されない可能性がある)という文言が入ることがあります。これを「停止条件」といいます。

 

これは、例えば、「テナントの家主の許可が得られたらこの飲食店を譲渡する」とかです。

 

買手からしてみたら、その条件が達成できなかったらM&Aする意味がない、という場合にこういった条件が記載されることがあります。

 

飲食店の例で言えば、M&Aをして従業員や在庫などを引継ぎしたけど、そのことを家主に言った時に「テナントから出てってくれ」と言われたら、いきなり営業できなくなってしまいますので、予め家主の許可を取っておくということは現実的に必要と言えます。

 

なので、最終契約を締結してから実際に譲渡するまでに、売手が責任をもってやらないといけない事項ということですね。

 

一方で、この停止条件の中には、「銀行の融資が下りたらM&Aを実行します」みたいな買手都合なものもあります。こういう停止条件を付ける時点で、買手には資金力がない可能性もあるので注意が必要です。

 

売手としては「銀行がダメといったからこのM&Aは白紙に戻させてくれ」と言われるリスクを抱えながら、本当にM&Aができるか分からない状態で買手の銀行の回答を待つということになるので、売手的にはできるだけ避けたい状況と言えます。とはいえ、銀行からの融資が無いと現実的にM&Aができない可能性もあるので、資金力がない買手と取引をするときはこういったデメリットも考えておきたいところです。

 

売手が急いでいるのに長期間待たされる可能性があり、基本合意書で定めた独占交渉の期間が過ぎているのであれば、売手としては最終契約書を締結せずに、他の買手と交渉を進めておくということでもよいかと思います。

 

ともかく、停止条件はM&Aが白紙になる可能性を秘めているものなので十分注意してください

 

6. 表明保証

 

「表明保証って何??」という方が多いと思います。筆者も、いろんな契約書を見ている中で、M&Aの契約書くらいでしか見ない文言です。

 

これは読んで字のごとく、「表明して、保証する」という内容です。

 

M&Aは、取引するものが会社や事業という複雑なものなので、全部調べて売り切り・買い切りで取引することが難しいものです。なので、調べきれないことや、調べられないことについては、表明して保証してもらうことで安心して取引しましょう、という趣旨でこの文言が入ります。

 

例えば、自分が真の株主だと100%言えるのにそれを証明する資料が残っていない、というケースの時に、「万一、真の株主だと権利を主張してくる第三者が出てきた時は責任とってね」という表明保証の文言を入れることで、買手は安心してM&Aすることができます。売手もやましいことが無ければそういった文言を入れることにリスクが無いので別に問題ないはずです。

 

この表明保証の文言のやり取りで、売手が今まで言ってきたことがウソである、ということがあぶり出されてしまうこともあるので、(何度もいいますが)買手に嘘をつくのは絶対にやめましょう。損害賠償の話に繋がります。

 

M&A後に発生する紛争の90%以上が、この「表明保証」の内容についてと言われていたりもしますので、超重要です。

 

実際、売手も買手もM&A初心者だったりすると、ろくにきちんとした買収監査を行わず、ふわふわした表明保証(ひな型のまま)で結んでしまったために、売手が後々その点を追求されることになってしまうので、「きちんと買手に調査してもらう」「調査できないことについて表明保証をする」ということを意識してください。

 

ちなみにM&Aは、買手が現金を出して、売手が会社や事業を渡す、というものなので、現金をもらう側の売手は買手よりも表明保証する事項が多くなるので、ここはもうそういうものだと思って納得してください。表明保証とは基本的に、買手が売手に対して、「聞いてた話と違う」と指摘されるのはどこまでか、を示すものでもあるのです。

 

8. 契約違反における補償の内容(上限・下限・期間など)

 

契約違反をした時の補償内容は売手としては特に気を付けていて欲しいポイントです。

 

締結済みの最終契約書の中には、「補償の限度額が青天井、補償の請求期限が無制限」となっているものもたまにあります。直接的に”青天井・無制限”と記載されている訳ではないですが、限度額も期限も定められていないという意味で、実際無制限になっている状態のことです。

 

売手としては、買手が「まぁあんまり細かく決めずに信頼関係で・・」みたいなムードに持っていきがちなところで指摘しづらいかもしれませんが、ここは後々安心して譲渡後の生活が迎えられるかにもつながるところなので、是非感度を高めて下さい(これに限らず、契約書は揉めた時のものなので、今の信頼関係は関係ないのです)

 

とはいえ、売手が「譲渡額が5,000万円までのところ、補償限度額は100万円までね」みたいな交渉をすると、買手としては「騙そうとしているのか?」と疑心暗鬼になってしまう可能性もあるので、補償の上限は譲渡額として交渉するようにしてください。税務リスクなどを考えると長くて7年まで話に挙がることもありますが、補償期間としては3年くらいが多い気がします。

 

11.  完全合意

 

これもM&Aくらいでしか登場しない文言です。

 

これは、「M&Aについてお互い色々話したけど、取り決めたことは契約書に全部落とし込んだという相互理解のもと、あの時ああいったからみたいな揉め事はやめましょう」という文言です。

 

売手も買手も、どっちも後から契約書以外の話を持ってこないということで、より取引の内容を明確にすることができるので、この完全合意に則って、買手ときちんと協議をして契約書という形にしましょう。

 

そして、この考え方のもとに契約書を締結したら、お互い揚げ足取りな主張はしないようにしましょう。

 

どちらかというと買手が売手にいちゃもんをつけることが多いので、売手としては、買手にこの文言の趣旨をきちんと理解してもらい、納得いく契約書にしてもらうのが良いかもしれません。

 

最終契約書については気を付ける部分は色々ありますが、最低限上記の内容はクリアにした上で契約締結を進めるようにしましょう。

 

譲渡日までは気を抜けない日々

 

両者で納得いくまで協議をして、最終契約書を締結したら、あとは譲渡する日まで気を抜かないようにしましょう。

 

過大な設備投資や、大きい借入、従業員の大量解雇などをしてしまったことで善管注意義務違反となりM&Aが実行できないケースもあれば、天変地異みたいなことで物理的にM&Aが出来なくなってしまうということもあり得るからです(さすがに天変地異は気を付けてもどうにもならないですが・・)

 

譲渡するまでは会社も事業も売手のものではありますが、何でもしていいわけでは全くないので、細かいことでも買手と相談しながら進めるようにしてください。

 

ちなみに、最終契約締結日と譲渡日(クロージング日)を一緒にやってしまうケースもあります。売手としては最終契約締結日と譲渡日の日程が空いてしまえば空いてしまう程不安定な立場になりますので、できれば一緒にやってしまうと気持ち的にも楽だと思います。

 

 

 

いかがでしたでしょうか?

 

最終契約書は是非スポットでも良いので弁護士に依頼して最終チェックはしてもらうようにしましょう。

 

簡単なものであれば数万円~十数万円くらいで確認してもらえることもありますが、このコストで将来の安心が買えるのであれば、正直安いと思います。

 

 

最後までお読みいただきありがとうございました!

 

次回は、「譲渡する」編です。

【実践編⑧】仲介会社を使わず自分でM&A(譲渡する編)

 

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