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【実践編⑥】仲介会社を使わず自分でM&A(買収監査を受ける編)

前回の「【実践編⑤】仲介会社を使わず自分でM&A(基本合意をする編)」からの続きです。

前回記事を確認したい方はこちらからどうぞ。

【実践編⑤】仲介会社を使わず自分でM&A(基本合意をする編)

 

今回の実践編では、「サクッと売りたい」という方向けに自分で会社・事業を売る方法をできるだけ分かりやすくお伝えしております。

 

なお、毎度の留意点ではありますが、あくまで一般的な例でお伝えしますこと、及び、ご自身で進める場合にはM&Aに関するトラブル等について当サイトでは一切の責任を負いかねますので予めご了承ください。

 

今回説明するのは、M&Aのこの部分の話です。

 

前回は基本合意書という、売手と買手の1対1で具体的に交渉を進めていきましょう!という書面を締結したところまででした。

 

ここまでくると「あぁうちの会社は●●円で売れるのか」「老後何しようかな」みたいに気持ちが高まってしまう人もいたりしますが、まだ早いです。今回説明する買収監査を踏まえて最終条件が変わる可能性は十分にあります。

 

筆者としても、過去お手伝いしたM&Aにおいて、基本合意した条件で気持ちが固まってしまい、最終条件で譲渡価格が減額になってしまったことが受け入れられなくなった売手の方を数多くみてきました。この辺は何度説明しても勘違いされる方が多いので、しつこいですが何度もお伝えしておきます。

 

M&Aは譲渡する瞬間まで何が起こるか分からないものなので、気を引き締めていきましょう!

 

 

それではいきましょう!

 

買収監査って何されるの?

 

買収監査とは、デューディリジェンス(DD)とも言われ、M&A前に買手が売手の会社に対して行う調査のことを言います。意味合いとしては、「安心して買収するために、もっと御社の事調べさせてね」という感じの調査です。

 

「買収監査」と聞くと、税務調査のようなイメージをされる方もいると思いますし、「なんか怖い・・・」という声もよく聞かれます。

 

ですが、実際調査する内容や形式は買手によって様々です。

 

それなりの調査になると、大手法律事務所の弁護士チームや会計士事務所の会計士チームなどが結成されて、要求される資料やインタビューの時間も結構な量になることもあります。一方で、小規模のM&Aでは、とりあえず会社にある資料を出して雑談していたら監査が終わっていた、なんてことも実際あったりします。

 

買収監査で見られるポイントというのはある程度ありますが、要は買手が安心して買収できる状態になれば良いので、絶対これをしないといけないという事項があるわけではなく、買手が希望する調査に協力していれば問題ありません。

 

逆に言うと、この買収監査に協力的でない売手の場合は、買手が途中でM&Aの検討を終了する可能性もあり得ます。

 

たまに、「なんでそんなにあれこれ聞くんだ!」とか「重箱の隅をつつくような質問をして、私のことを信用していないのか!」と怒り狂う売手の方もいらっしゃいますが、買手としてみたら現金をその売手にお支払いするわけなので、どんな会社・事業なのかよく分かっていないのに買えません。

 

また、買手としては、今後は売手でなく自分達がその会社を運営していく訳なので、いままで売手で積み上げてきた歴史を知っておく必要は当然あるのです。是非協力してあげましょう。

 

買収監査の種類と実施方法

 

買収監査(DD)とは具体的にどんな調査をするのでしょうか?

 

中小企業のM&Aでは一般的にこんな感じのカテゴリに分けて調査します。

税務/財務DD:税務署の調査が入った時に指摘されるような問題があるかを調べたり、簿外の資産・負債を確認する、など
法務DD:M&Aをすることで影響の出る契約書はないか調べたり、違法性のあるような内容が無いかを調べる、など
労務DD:未払残業代があるかや、雇用契約書などの不備を確認する、など
ビジネスDD:両社のシナジー(相乗)効果を検討する、など

他にも、環境DDや不動産DDなどのついても調査することもあります。

 

税務/財務は会計士、法務/労務は弁護士、ビジネスは買手or外部コンサルor買手子会社の役員、不動産は不動産鑑定士、みたいな感じのチーム編成で調査が進められることが多いです。

 

ビジネスDDだけは、「もし一緒になったら●●できるね」みたいな前向きな雰囲気なので、調査というよりは相談チックな話になることが多いので、ちょっとした息抜きタイムです。

 

これらの調査について、売手は一体何をするの?というと、基本的に、「資料を提出する」「質問に答える」「実際に会社に来てもらい色々と見てもらう」だけです。

 

 

ここからは筆者の経験での話をすると、実際これだけの調査するか、と言われると、一定規模のM&Aでないと全部やる事はそれほど多くありません。

 

例えば、飲食店1店舗を同業の買手がさくっと買収するケースでは、買手の担当者がお店に訪問して、備品がきちんとあるか、リース資産はどれでどういう契約になっているか、テナントの賃貸借契約はきちんと結ばれているか・M&Aによって解約されないか、パートやアルバイトとの雇用契約はどうなっているのか、くらいの書類確認・現物確認・ヒアリングで終わることもあります。

 

買手が「事業については大体分かるから、大枠だけ確認させてもらったらいいよ」みたいなタイプだとこういうこともありますし、場合によっては、買手もM&Aが初めてで「買収監査って何?」という状態の時もあります。

 

売手としては、買手から「調査したい」って言われたら協力しないといけませんが、自ら「調査してください」というものではないので、「ざっくりの調査でいいよ」という事であればそれに従うで基本的には問題ありません。

 

ただし、仲介者も入らないM&Aの場合、買収監査についての理解が薄い買手がM&A成立後に「何でそんなに重要なことを買収前に教えてくれなかったんだ!」という理不尽なクレームを言ってくるケースもあるので、会社や事業にとって重要と思う内容については自発的に伝えたり、「M&A前には買手が買収監査をするもので、こちらはそれに真摯に対応します」という内容のメールを残しておくとよいでしょう。

 

売手として覚えておきたいポイントは次の通りです。

・買収監査は基本的に受け身でOK
・言われたことは誠実に対応し、聞かれたことは正直に回答する
・逆に聞かれていないことは回答しなくてもよい、が買収監査の基本だけど、買収監査に慣れていない買手も多いので、後々のトラブルを避けたいと思うのであれば、売手が考える中で問題になり得る火種があれば自発的に言っておく
・両社のシナジー効果についての話し合いは、「なぜこのM&Aをするのか」の話にもつながるので、後々従業員にM&Aの話をするときにも役立つ
・買収監査の費用は全部買手持ち。費用を請求してくる買手がいたら注意すること

 

ちなみに、監査で会社やお店に来られるなら従業員に何て説明したらいいの?と思う方もいると思います。

 

通常、M&Aの検討段階では従業員にM&Aをすることを伝えないので、買収監査で買手が売手の会社やお店に来るときは、「社長の知り合いの人が勉強の為に見学する」くらいの嘘をつくか、従業員がいない休日などを利用して現地調査を行うことが多いです。

 

ただ、買収監査で必要な資料類を従業員で管理させていたりすると、資料を出すのにも従業員に聞かないと分からないというケースもあるかと思います。そういった場合にはその従業員だけにM&Aの話を口外禁止で行い、協力してもらうことが多いように思われます。

 

買収監査で買手が売手の会社やお店に訪問する場合には次のような点に気を付けましょう。

 

・来訪される買手側の方が、従業員と接触させない
・買手側の方の社章やバッチは外してもらう
・現地で資料類を読み込みする場合は、できるだけ事前に確認書類を聞いておき、当日までに準備しておく

 

従業員の中には、普段感じない違和感を感じとる方もいらっしゃいますので、上手くフォローしてあげるとよいでしょう。

 

買収監査をした後って?

 

買収監査が終わると買手は最終条件を検討します。

 

形式的な流れとしては、弁護士や会計士が調査結果をDDレポートという形で買手に提出し、それを基に買手が最終契約書上の条件や制約事項などを検討する流れです。

 

例えば、「退職引当金が必要なことが分かったからその分減額させてね」とか「税金の未納分があったからその分は引かせてね」とかですが、場合によっては、「●●さんという従業員さんが会社の要(かなめ)だと理解したので、もしM&Aが原因でその従業員さんが離職した場合は、譲渡金額の一部を返金してね」みたいな内容のものもあります。

 

売手としては、今までちゃんと事業をしてきたという自負があると思うので反発してしまう気持ちも出てきてしまうかもしれませんが、買手の言い分が合理的なものであれば真摯に受け止めるようにしましょう。

 

完璧にやれている中小企業なんてない、というくらい皆どこかに穴はあるはずなので、「ちゃんとした会社はそういうところを問題視するのか」と勉強する気持ちくらいで話を聞くと、まずは受け入れやすい気持ちになるのではと思います。

 

なお、税金の未納とかであれば当然減額になるべき内容ですが、従業員が離職した場合に一部返金という趣旨の要求は買手が過剰に自分の身を保全する立場を取ろうと交渉している要素も含まれるので、全ての要求を飲むとか飲まないの話ではなく、個別に考えるようにしましょう。

 

仲介者を使わずにM&Aをするのが難しいのは、こういった買手の要求が売手にとって当然受け入れるべきものなのか、交渉事項として捉えるべきものなのかの分別が付きにくいという点もあると思います。なので筆者としては基本的には経験値の高い仲介者を入れるべき、というスタンスではあります。

 

是非、買手の考え方も聞きつつ、冷静にM&Aが上手くいくためにはどうしたらよいか話し合いをしていきましょう。

 

 

いかがでしたでしょうか?

 

買収監査については買手によりけりなので、思っていたよりも厳しかったとか、思っていたよりも易しかった、ということは良くあります。

 

でも共通して言えるのは、買手が安く買い叩くために行っているのではなく、安心して買いたいから行っているものなので、きちんと理解して、協力していただけるとよいかなと思います。

 

 

最後までお読みいただきありがとうございました!

 

次回は、「最終契約書を結ぶ」編です。

【実践編⑦】仲介会社を使わず自分でM&A(最終契約書を結ぶ編)

 

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