お悩み社長
色々考えた結果、「仲介業者を使わずにM&Aを自分でやってみよう!」という方もいらっしゃると思います。
筆者は基本的にM&Aは経験が無いと交渉は難しいと感じる部分も多いと思っているので、オススメはしていない立場ではありますが、「サクッと売りたい」という方向けに自分で会社・事業を売る方法をできるだけ分かりやすくお伝えできればと思います。
なお、M&Aは100社あれば100通りの進め方になるくらい形式的に進めにくいところがあるので、あくまで一般的な例でお伝えしますこと、及び、ご自身で進める場合にはM&Aに関するトラブル等について当サイトでは一切の責任を負いかねますので予めご了承ください。
今回の実践編は、こんな方に対して、いろは塾を読みながらM&A進められるようなものにしていきたいと思います。
・売却する条件はあまり気にせず早く売りたい方
・仲介手数料を絶対払いたくない方
今回説明するのは、M&Aの工程のここの話です。
それではいきましょう!
まずは気持ちを固める
まずは本当に売るべきなのか、気持ちを固めましょう。
会社や事業を売りたい理由としては、「後継者がいない」、「会社にとって重要な取引先が無くなってしまい従業員を守るために救済が必要」、「コロナでお客さんが来ず毎月赤字なので早く撤退したい」、「単純に会社を継続する気持ちが折れてしまった」など、色々事情はあると思います。
M&Aを行うことで人や金銭的な支援が得られる可能性はありますし、売手社長の個人保証や担保も外すことができたりもするので、こうした問題は解決できるかもしれません(もちろん、買手も慈善事業ではないので、買手にもメリットがあることが前提です)。
こうしたメリットを「今得ることが自分にとっても会社にとっても必要」というタイミングが売るべきタイミングと言えるかもしれません。
そして、M&Aというのは、工程が色々とあり、面談や決定機関の決議の時間も考慮すると普通に数か月以上かかるようなものなので、途中で気持ちが変わってしまわないか、何度も自問自答して、気持ちを固めるのが良いと思います。
交渉相手となる買手企業と具体的な契約書(もちろんここには価格条件なども記載される)を結ぶまでは、譲渡をするかしないかを売主は選ぶことはできますが、買手企業はコストをかけて調査などもするので、交渉が終盤に近付くにつれて「やっぱり辞めます」とは言えなくなってきます。
何を売るのかを明確にする
M&Aと一言でいっても、会社を売るのか事業を売るのか決めなければいけません。
また、事業であれば、どの資産までを売るのかも決めないといけません。
会社を売る(株式を売る)のが「株式譲渡」で、事業を売るのが「事業譲渡」です。
両者の違いはこちらの記事でも紹介はしていますが、何を売るのかが決まっていないと、買手と具体的な話にならないですし、かかる税金も全く違ってきますので、売却した後の手取額の計算も全く想像と違ってくる、なんてこともあります。
株式譲渡?事業譲渡?どっちがいいの?
簡単ですが、要望別にまとめてみるとこんな感じなので、自分がどちらのタイプなのか想像してみましょう。
株式譲渡を検討した方が良い方
・事業の運営母体である会社の社名を残したい方
・社員の籍が変わったり、取引先や家主との契約まき直しが困難な会社の方
事業譲渡を検討した方が良い方
・複数ある事業の一部だけ売却したい方
・会社を他の用途で使う目的があり、自分の手元に残しておきたい方
・法人に税の滞納、社保未加入や係争のリスクなど、将来の潜在債務が大きく、株式譲渡が難しい方
事業譲渡の場合は譲渡益に対して法人税がかかってきますが、株式譲渡の場合は譲渡益がいくらであっても個人株主であれば20.315%で済みます。なので、売却価格が大きい場合は特に税額に差が出てきますし、そもそも、もう事業を畳もうと覚悟している中で、お金の入った会社だけ手元に残っても仕方無いということも多いので、後継者不在で譲渡するときなんかは基本的に株式譲渡を前提としていることが多いです。
ただ、後ろめたいことが会社に色々残っていたりすると、買手側から「潜在債務も多いので株式譲渡ではなくて事業譲渡にさせてくれ」なんて話になったりますので、20%程度の税率で個人の収入にできる株式譲渡というのは、ある意味健全な会社を経営してきた特権みたいな感じで捉えても良いと思います。
また、事業譲渡の場合は、どの事業・資産を売却するのかを事前に決めておく必要があります。
資産については、売却する事業を営む上で必要な資産をピックアップします。取引先との契約書や家主との賃貸借契約書も事業譲渡の際に契約者名義が変わり、引継ぎが必要になりますので、事前に整理しておきましょう。
それに加えて、買手に対してどのくらいの収支バランスの事業かも説明する必要がありますので、部門別のP/Lなども過去3期分以上は用意しておきたいところです。
希望の条件を設定する
会社や事業を譲渡する決意をして、何を売るかを決めたら、今度は希望の条件を設定してみましょう。
参考程度ですが、売却価格とかを決める前に、売手として交渉力が強いM&Aができるかどうかをチェックリスト形式でまとめた記事がありますので、こちらをやってみてください。
「あなたの会社はM&Aできる?!」25項目のチェックリストで解説
会社関係者に反社会的勢力がいる、とか、労働組合に属している社員がいる、とかはM&Aをする上で致命的になるので、希望条件を決める以前に注意が必要です。
なお、これらのチェック項目は、交渉が進んだ後の買収監査でも買手に気にされる可能性が高い内容なので、「買手ってこういうところを見てくるんだ~」というイメージをまずは持っていただければと思います。
そんなところをチェックした上で、次は売却価格について考えてみましょう。
実は、自分でM&Aをする上で実は一番難しいのがこの適切な希望価格の設定です。
筆者も、ネットのプラットフォームで売主が直接掲載している案件を見ていたりすると、法外に高い希望価格が提示されていたりする案件を見かけたりします。
でも、これって仕方ないことなんです。
売手が提示する価格が高いか安いかというのは、数多くの案件の買手探しを実際にして、買手からどういうことを言われてきたのかを体験している人でないと分からないものなので、初めてM&Aしようという方が市場感を理解して、自分で値付けするのは至難の業と思います。
「なら、とりあえず高い値段を言っておいて、徐々に交渉していったらいいんじゃない?」と思って希望価格を設定する方もいますが、成約するのが目的なのであれば、それは得策とはいえません。
当然、売手側としては売れる価格は高ければ高い方がいいと思うものですが、あんまり相場とかけ離れた希望価格を提示してしまうと、買手側から「あ~この人と交渉しても合わなそうだな」と思われてしまい、あなたの会社がどんな事業をしていてどんな強みを持っているのかを知ってもらう以前に、話が終わってしまうことも少なくありません。
高く売れれば売るつもりだけど、売れなかったらそれでもよい、という方は、希望価格をまずは伝えて、その価格で買ってもらえる買手を探す、でもよいかもしれませんが、もしその価格を出してくれる買手に出会っても、「あれ?もっと高く言っても良かったんじゃない?」と思うのが人間なので、納得感を持って売却するためには、事前の心構えが重要になってきます。
筆者の考えとしては、希望はあくまで売手自身が考えるものではあるものとしつつも、こんな風に考えておくと、納得感のあるM&Aになるのではないかなと思います。
事前にしておきたい希望条件の心構え
・売手は自分の会社を過大評価しがちなので、買手目線で自分の会社にいくら投資したら回収できるのか、という視点で考えることも大事
・理論株価は参考にはなったとしても所詮参考程度
・売手側の交渉力を高めたいのであれば、複数の買手に価格提示してもらうこと
・複数の買手からの提示価格で平均をとった値は理論株価よりも信憑性のある値である
・想像よりも低い評価だったとしても投げやりにならず、そういう評価もあるのだと直視すること
・複数の買手の中で相対的に高い価格を出してくれる買手と交渉が上手くいけば、当初の希望条件よりも低くても感謝できる、という水準まで自分の目線を下げることも大事
中小企業の場合、一般的には「純資産額に営業利益額を2~3年分程度足し合わせた金額」くらいが、標準的な株価とされることが多いです。
数ある株価算定の中でも理解しやすい計算方法だと思いますので、一度計算しても良いと思いますが、会社によって帳簿にも載らない無形資産に価値があるというケースでは、想像よりもかなり低めの価格になってしまいますので、参考程度の株式価値という理解で良いと思います。
ちなみに、売手として無形資産については「今まで〇〇万円投資して作ったものだから、そのくらいの評価はしてほしい」という回収目線になりやすいものですが、買手が気にするのは「その無形資産が一体将来に渡ってどのくらいの経済的な価値を生み出すのか」なので、もし、無形資産についての価値を伝えたいのであれば、将来に渡ってどのくらいの価値を生むのかを合理的に説明できるようにしましょう。
また、M&Aをする上で、一般に盛り込む価格以外の条件はこのようなものがあるので、参考にしてください。
・従業員の雇用、待遇を維持すること
・取引先との取引を一定期間維持すること
・M&A後に売主がどのくらいの期間留任できるのか、引継ぎ期間はどのくらい設けられるのか
特に、保証債務の解除はどんなケースであってもマストの条件と思いますので、注意してください。
株主でもない会社が抱えている債務の連帯保証人としての立場が残ってしまった場合、自分のコントロール下にない会社が倒産したときに、何の責任も無い旧オーナーが残った借金を被るという大きなリスクを背負うことになりますので。
いかがでしたでしょうか?
希望条件についての心構えは、自分が納得してM&Aをする上でもとっても重要になってくるので、是非、色々と自問自答しながら考える機会を作ってみましょう。
次回は「STEP2 概要書を作る編」です。
【実践編②】仲介会社を使わず自分でM&A(概要書を作る編)
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