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「M&Aの誘いを断るには?」業者・取引先・従業員別断り方を解説

お悩み社長

M&Aの誘いを受けるんだけど、どうやって断ったらいいの?

 

中小企業でM&Aも盛んに行われるようになったため、M&Aの誘いというのはちらほら聞かれるようになりました。

 

ただ、皆が皆、M&Aに興味あるという訳でもないと思うので断る時に不安になる方もいると思います。

 

ここでは、「M&A業者から誘いを受けたとき」「取引先から誘いを受けたとき」「従業員から株を売ってほしいと言われたとき」についてそれぞれ断り方を考えてみたいと思います。

 

参考にしていただけると嬉しいです。

 

M&A業者からのM&Aの誘いを断る方法

 

「M&Aの誘いを断りたい」と思っている方の多くは、「M&A業者からの営業を断りたい」という方が多い気がします。

 

以前こちらの記事でもM&A業者の撃退法は解説しました。

M&A迷惑電話を断る・減らす具体的な方法【受付担当者さんも必見】

 

ただ、M&A業者の数の増加もあってか、こうした営業が無くなる気配がありません。

 

公的機関にも苦情が来ているのか、今回改訂された「中小M&Aガイドライン(第3版)」では「広告・営業の禁止事項の明記」が入りました。

参考 中小M&Aガイドライン改訂(第3版)に関する概要資料

 

これによると、広告・営業を受けることを希望しない旨の意思表示がされた場合は、業者はこれを拒んではならず、直ちに広告・営業を停止しないければならない、とされています。

 

ガイドラインなので法的拘束力は無いのですが、営業先の中小企業の事業活動などに多大な支障を与えるようなものであれば民法上の不法行為責任を負う可能性がある、と書かれています。

 

M&A仲介の場合は大手中心に過剰な営業しているのがM&A業界なので、今後は少しまともになるかもしれません。もしまともにならないのなら、しつこい営業はきちんと中小企業庁管轄のM&A支援機関登録事務局「情報提供受付窓口」に報告しましょう。こういうマメな報告で、問題のある業者を排除できますので。

 

営業が不要なら基本はガチャ切りでもよいとは思いますが、もし、「体よく断りたい」と思っている方向けに、これを言えばM&A業者が営業しなくなる(かも)という使えるフレーズを紹介します。

 

「後継ぎがいるから他社に売るつもりはない」

M&A業者のビジネスというのは、売手なら買手、買手なら売手を紹介して、紹介料をもらうというものです。

 

なので、「第三者へのM&A」という話にならないのであれば業者側はあまり営業するうまみがないと思うはずです。

 

こういう発言の後には、「後継ぎは誰か?」と聞かれることを気にされるかもしれませんが、M&A仲介会社が親族や従業員情報まで把握して営業することは基本的にないです(そもそも無差別に送るケースもあるのでその場合はどこに送ったかも把握していません笑)。帝国データや商工リサーチに株主構成とかを教えていれば、「あ、子どもらしき人に株渡してるな」くらいは分かるかもしれませんが、その程度です。何を答えても業者側が確認する手段は基本的にありません。

 

さらに、「後継ぎだと思っていても承継を断られるケースもある」とか「後を継ぐ側が資金力がない」ということを伝え、「第三者へのM&Aはどうか?」と畳みかけるのがM&A仲介の常套句ですが、「細かくは言えないが考慮済」というということで一蹴してよいと思います。

 

こういった断り方をすることで本当の買収オファーを断ってしまうのでは?と思う方もいるかもしれませんが、M&A業者が持ってくる「買収に興味のあるクライアントがいる」はほぼ確実に嘘なので気にする必要ありません。もっというと、買手はよく知らない会社に買収オファーなんてしないので、本気の買収オファーをするということであれば既に売手と買手の面識があるなどよく知っている仲である可能性もありますし、本気で欲しければ中継ぎの仲介会社が断られたくらいであきらめません。

 

むしろ、よくわからないM&A業者の話を鵜呑みにして「実はちょっと売ることも考えている・・」という話をしてしまう方が、場合によって内情を絶対知られたくない競合企業に情報漏洩してしまうリスクもゼロではないので、その気があっても断るくらいの方が安全だと思います。

 

ちなみに、たまに親族承継や従業員承継でも専門家がいた方が良いです、と営業を持ち掛ける者もいますが、筆者の印象からすると別にこの場面で仲介会社が必要とは思いません。仲介会社は親族承継や従業員承継の専門家ではありませんし、手続きだけならもっと専門的で料金も格段に安い専門家がいるので。

 

「M&Aを検討する場合でも、厚意にしている専門家がいるから無理」

いまや石を投げればM&A業者に当たる、といっても過言ではないほどM&A業者が増えました。

(この前筆者がスタバにいたときに、大声で「トップ面談が・・」と喋っていた同業者を発見して、おいおいと思いましたが特に時代の流れを身近に感じました)

 

そこら中にM&A専業の会社がいますし、税理士や会計士も副業的にM&A業者をやっていたりします。

 

なので、体よく断る場合は他の業者と関係があることを伝えるのもアリです。

 

ただ、ここで単に「他の業者に依頼している」と言ってしまうと、M&Aの譲渡意思があることを悟られてしまいます。大体、この次は、「専任契約は結んでいるのですか?もし非専任ならウチも入れませんか?」という展開になるでしょう。なので、「M&Aを検討する場合でも厚意にしている専門家がいる」という表現の方がよいかもしれません。要は、「あなたには入る隙はないよ」ということが言いたいだけだと思うので。

 

「従業員がいない」「財務が悪い」

従業員がいない会社なのであれば、「従業員がいない」と伝えると営業が来なくなる可能性が高いです。

 

というのも、従業員がいない社長だけの会社というのはM&Aで買手を見つけることが難しいからです。

 

従業員がいないけどビジネスモデルや取引先、その他価値のある資産を売却するというM&Aもありますが、人がいない会社というのはいきなり管理の問題を抱える話になるので、買手によっては従業員がいないというだけでお断りをされることもあります。

 

ある程度経験を積んでいるコンサルタントであれば、「あ、そうですか、失礼しました・・(その後音信不通)」という感じになるものです。ただ、「どんな案件でも案件受託したい(件数目標がある、着手金が欲しい)」とか「話を聞いてくれるだけでもラッキー」と考える新米コンサルタントもいますので、それでも「いけますよ!社長!」という者もいると思います。これは時間の無駄になる可能性もあるのであまり真に受けなくてもよいと思いますし、着手金が発生する場合は着手金払い損になる可能性もあるので特に警戒した方がよいです。

 

また、「財務が悪い」というのもM&Aの営業マンを遠ざけるワードです。

 

「良い」か「悪い」というのは基本的に主観なので、これよりも「他の専門家に株価算定をしてもらったら備忘価格(株価1円)だった」とかの方が齟齬が無いです。

 

M&A業者の多くはレーマン方式で成功報酬を取る手数料の計算方式を取っています。簡単にいうと「高く売れれば手数料も高くなる」ということです。

 

なので、M&A金額が低額の場合は手数料も見込めないため営業しなくなるという話です。

 

それでもM&A業者の手数料には最低報酬という規定があるので、「株価1円でも最低手数料2,000万円もらえるなら全然動きますよ!」という業者もいるでしょう。それに、株価に関係なく総資産で手数料を決めますという業者もいます。なので「きちんと手数料を払ってくれるなら対応します」というスタンスを取られる可能性もありますが、仮にそういう業者に依頼してM&Aが成立したらいきなり負債を抱えるという話になるだけなので、そもそもM&Aしない方が賢明かもしれません。

 

この断り文句は少なからず自社の情報をM&A業者に喋るということなので、時に情報漏洩になることもリスクと考えておく必要があります。

 

 

M&Aをするつもりがないということであれば、M&A業者の誘いを断る場合には、

①喋ることもせずやり取りもしない(←これが情報漏洩の観点からも一番安全)

②やり取りしても自社の情報は一切出さない

が良いと思います。

 

 

取引先などからのM&Aの誘いを断る方法

 

取引先からのM&Aの誘いを断る場合はどうしたらよいでしょう。

 

既に取引がある中で誘いを断ると、取引に影響が出るのではないか?と心配される方もいるでしょう。

 

既に取引ある相手の場合、交渉しているのはM&Aの話題だからこのやり取りでこじれても本業には影響しないだろう、と思うのは少し楽観的かもしれません。相手も人なので、関わった点が何であれ印象が悪くなれば取引に影響が出ないとは限らないでしょうし、極端な話、反社と関わっているということを知ってしまったら取引は無くした方が良いと普通は考えるでしょう。

 

誘いに乗る場合は誠意をもって対応し、誘いを断るにせよ丁重に誠意をもって対応するのが無難です。

 

対応方法については次のようなパターンがあるかと思います。

 

対等な立場でM&Aのオファーをされる場合

M&Aというのは標準的には売手と買手は対等な立場で交渉します。

(厳密には、基本合意までは売手が強く、DD以降は買手が強い、というような段階ごとの強弱はありますが)

 

対等な立場で買手がM&Aのオファーをする場合には、ダイレクトに「おたくの株売ってくれませんか」と言ってくるケースは多くないように思います。

 

なぜなら、株を売る、会社を売る、というのはセンシティブな内容なので、いきなりこんなことを言うと場合によって印象が悪く映ることもあり、丁寧に進めればM&Aできるかもしれないものを自ら壊しにいくような行動になってしまう恐れがあるからです。

 

気の知れた間柄であれば、「おたくの株売ってくれませんか」というのを冗談めかしていうこともあるかもしれませんが、意外と目が本気だったりします。

 

なので、ダイレクトには聞かれないものの、「後継ぎ問題とかどう思う?」とか「知り合いの会社がM&Aしたらしくて」といった話題を振られつつ、様子をうかがわれるということもあります。

 

もし「あ、これってM&Aの売手として興味持たれているのかな」と思う節があれば、明言を避けてそれとなく話題を変えるのが断り方としてスマートかもしれません。

 

しびれを切らして直球で「おたくの株の譲受に興味がある」と言われたら、相手にもよると思いますが、自社を評価いただいたことへの御礼と、重要な話なので家族とも会話したり、自分でもよく考えるというような丁寧な返しがよいかもしれません。場合によっては、ちょっと踏む込み過ぎな話題では?という反応を見せて相手が引くのを待つでも良いかもしれません。

 

ちなみに、M&Aに興味ある、今は興味はないけど将来的にはその可能性がある、という方が注意しておきたいのは、いきなり独占での交渉を約束はしない、ということです。

 

中小企業のM&Aでも、売手が複数の買手と面談、意向表明書を受領、気に入った条件の買手と基本合意をし独占交渉へ、という流れで進めることが多いです。1社しか買手の条件提示が無かったら、本当にそれが良い条件なのか売手では判断付かないので、複数の買手と交渉してみるのが売手側としては客観的な判断の助けになるのです。

 

そんな中、1社の買手といきなり独占で交渉をする、というのは売手にとってはM&Aの条件提示を吟味する機会を自ら捨てにいくようなものなので、売手として少しでも良い条件を求めるなら変な約束はしない方が良いです。

 

買手が素人でなければ、いきなり「独占交渉を約束してくれ!」と言うことが普通でないことは理解しているはずですが、変な約束をして、それによってお互いギクシャクしてしまうようであれば「その時が来たらご相談の機会を頂けると嬉しいです」くらいに留めておくのがよいでしょう。

 

弱い立場でM&Aのオファーをされる場合

売手側が弱い立場で買手からM&Aのオファーをされるケースもあります。

 

これは例えば、ビジネスの大半を特定の買手に依存しておりその買手から買収の話が来たというケースや、既に株の一部を買手に持たれており残りの株を全部売ってくれと言われるケースなど様々です。

 

例えば、筆者がお話をうかがった売手オーナーの話にはなるのですが、倉庫業をしている売手の倉庫について、特定のメーカーが95%以上倉庫を占有している状況であり、立地的にそのメーカーが出て行ってしまうと倉庫を埋めるのが難しいという状況でした。さらに、セキュリティシステムや在庫の管理システムなども倉庫を持っている売手負担で導入した経緯などもあり、かなりそのメーカーに依存しているという状況でした。

 

もしこのメーカーが倉庫業を営む売手に安い金額で買収オファーしてきたとしたらどうでしょうか?

 

この場合は、「M&Aを断ったらさもなくば・・」と受け手が捉えるケースもあるでしょう。それゆえ慎重に対応する必要があります。

 

もし、断って差し支えない程度あれば前述のような断り方もありますが、脅しに近いようなケースであれば弁護士への相談が良いと思います。

 

また、一部の株主からの全株取得の申し出がある場合は、断りにくいということもあるかもしれません。会社に”ツバ”を付ける意味合いでマイノリティでも株を買っておくという買手もいなくもないので、そもそも他人に株を渡すこと自体に慎重になるべきですが、これはこれで気を遣いながら対応する必要があります。

 

根本的には、こういう話にならないよう事前に買い集めを行っておくか、2/3以上の議決権があればスクイーズアウトで少数株主を追い出すなども手段としてありますが、ここは協議して落としどころを見つけるのがよいです。

 

ただ、上記のような状況におかれている売手においては、心変わりしてM&Aをやろう、となった時弊害になることも多いので注意が必要です。

 

どういうことかというと、仮に売上の大半を占める取引先があれば、M&A前に買手から売手に「クロージング前に大口の取引先にM&Aの承認をもらってください」と言われることもありますし、よくわからない会社が株主に入っていれば「本当に株の買い集めが可能ですか?」「スクイーズアウトするにせよ訴えられたりしないの?」という話にもなり得ます。関係性が悪化している取引先や株主の場合、M&Aを阻止するような動きを取られることもあるのです。

 

取引先からのM&Aのお誘いは、M&A業者のように雑に断れない事情もある可能性もあるため、できるだけ丁寧な対応を心がけましょう。

 

 

従業員からの要求を断る方法

 

M&A業者からでも、取引先からでもなく、従業員から株を売ってほしい、と言われることもあり得ます。

 

M&Aなど資本取引に関する仕事に携わったことが無いのに、こういった話を持ち掛ける従業員はそれほど多くない気もしますが、無いとは言い切れません。

 

会社の幹部クラスで、会社が儲かっていることも知っている者が、ふと、「この会社のオーナーになったらもっと稼げるのにな」と思ったら、所属している会社の株を買ってオーナーになりたいと思うかもしれません。

 

最近ではM&Aの事例なども情報が溢れているのでそういったことから興味を持つ者もいるかもしれませんし、あるいはストックオプションを持っていたことからIPOで大金を手にした知り合いから話を聞いた者もいるかもしれません。

 

従業員が株が欲しい、と言っているのを無下に断ると、場合によって離職するかもと思う方もいると思います。少なくとも会社の仕組みは理解しているはずですし、経営に対して感度は高いはずですので。

 

まずは、なぜ株が欲しいのか聞いてみましょう。

 

マイノリティでもよいので上場した時に恩恵が欲しいという理由なのか、会社の経営権を手に入れたいという理由なのか、それによっても異なります。

 

前者の話を断る場合には、上場するつもりはない旨や上場を目指したとしても確実にそうなるとは限らない旨を伝えつつ、マイノリティの株式ではできることも限られることを説明してもよいでしょう。

 

後者の話を断る場合には、株を買うお金はあるのかについてどのように考えているか聞いてもよいでしょう。よくあるのが、思っていたよりも安い金額で株が買えるのだと勘違いしているケースです。

 

会社オーナーにとっては、良く知っている従業員に会社を継いでもらった方が混乱が少ないとか、承継後がイメージしやすいというのはあると思います。一方、M&A条件交渉であまり淡泊な交渉が出来ず、第三者に売却したときよりも条件が悪くなるということもあるかもしれません。

 

どちらが正解と考えるかは人それぞれですが、株を売る気が無いということであればそれは伝え、辞められては困る従業員なのであれば、株を渡さずに報酬体系を変えるなどどうすればモチベーションが上がるかなど相談してみるなど、希望に沿う努力をする姿勢を見せるのがよいかもしれません。

 

仮に従業員に株を渡して頑張ってもらおうかな、と思っているオーナーに知っておいていただきたいのは、逆にモチベーションダウンになることもあるのと、最終的にIPOせずに第三者にM&Aしようとしたときに面倒ということです。

 

社員間で誰がどのくらい株を持っているという話が漏れてしまったときに、「なぜ自分の方が会社への貢献度が高いのに社歴が長いというだけであの人の方が株を持っているのか」といったいざこざが起きやすかったり、上場を目指していたがやっぱり目指すのを辞めてしまった際に一気にモチベーションダウンし離職するということもあります。

 

また、第三者にM&Aで売却する、となった時に、買手としては全株取引したいという意向を示すケースもあるので、第三者の買手に売却する前に株の買い集めや委任状の回収などの作業が入ってきます。そうなると買手とのM&A前に従業員がオーナーが第三者に売却しようとしていることを知ることにもなります。場合によって、反対する従業員(株主)が多数出た場合には収集が付かなるなるリスクもあります。

 

株を従業員に配るというのは慎重になった方が良いということですね。

 

 

 

いかがでしたでしょうか?

 

M&Aの誘いをどうしたらよいかについての参考になれば幸いです。

 

ちなみに筆者はM&Aは売手も買手もハッピーになれるものだとは思っていますので、M&Aの誘いは危ないので断らないといけないもの、という考え方ではないです。色々考えて真剣にM&Aに取り組み満足いく結果になった方も大勢いらっしゃいます。

 

ただ、M&Aというのは大きなお金も動きますので焦ってするものではないです。時としてきちんと考える時間を確保することも必要です。

 

受け身の態度で進めた結果後悔しないように、知識や自分の考えが追いつくまでは立ち止まるということも大切かもしれません。

 

誰かと相談したい、という方、筆者は忖度なくアドバイスもしていますのでお気軽にご相談下さい。

 

 

最後までお読みいただきありがとうございました。

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