お悩み社長
たまにこのような話もあるようです。
中小企業でM&Aが盛んになってから、「〇〇さんの会社、売却したらしいよ」とか「〇〇さんの会社、会社名変わってないのに代表者変わってたけど何かあった?」といった話題も経営者の集まりなどで聞かれるようになりました。
最近では、実名公表して買手を募集!というようなM&Aプラットフォームも出てきている影響もあるのか、よりオープンにM&Aの話題がされているのかなという印象もあります。
でも、このような話を持ち掛けられた側としては、少しびっくりすることもあるんじゃないかと思います。
会社にはよくM&A会社からの営業は来るけど、こんなオファーは貰ったことがない、という方もそれなりにいるでしょう。
今日は、そんな話題に触れ、どういった内容がM&Aに関係するような話題なのか、直接買手と交渉するとどういう展開になるのか、などについて、M&Aコンサルタントでもある筆者が解説していきたいと思います。
それではいきましょう!
買手が送る「会社売ってくれ」のサイン
買手となる会社が、気になる会社(=買収したいなと思う会社)に売却意思を確認するときの話とはどんな話なのでしょうか?
一概に言えない(ただの雑談かも)ところもありますが、例えばこんな内容です。
直球で聞くケース
「将来的に会社の株どうしようと思ってるの?」
「他社からの出資も検討してみない?」
遠まわしに聞くケース
「〇〇社長は息子さんや娘さんいるの?」
「最近M&Aの話も多いけど、〇〇さんのところはどう?」
などなど。
直球で聞く場合は「株」とか「出資」とか「資本提携」とかM&Aに関係するようなワードが出る感じで、遠まわしに聞くケースは「家族関係(後継者がいるのか)」などをネタにM&Aの可能性を探る感じかもしれません。
もちろん、子どもの進路相談みたいな話題の時に「〇〇社長は息子さんや娘さんいるの?」という質問は別の意図だと思うので、文脈にもよります。会社の経営に関する話題の時に出た場合はM&Aの話題に振りたい可能性があるのかもしれませんね。
M&Aというのは基本的には結構センシティブな話題です。
変な聞き方をして、「おまえ、うちの会社を乗っ取ろうとしているのか?!」と誤解されてもいけないので、遠まわしに探っていくということもよくあります。この辺は、お互いの間柄によっても聞き方は変わってくるはずです。
逆に、「うちの会社を買ってくれないかな・・」と思っている売手が、買手に探りを入れる時は、結構ライトに「うちの会社買ってくれない?」と冗談めかしく言ってみて反応をうかがう方もいます。既に取引が強固で、M&A検討自体が買手にネガティブに捉えられるリスクがあるときには、遠まわしな言い方になるかもです。
この辺はお互いの立場や会話の雰囲気によっても様々ですが、何度他の話題にかえても結局M&Aっぽい話題に戻ってきてしまうなどの様子が相手側にあれば。その相手はM&Aについて具体的に話をしたいと理解することもできますので、ある程度M&Aに関する予備知識を持った上で、一歩踏み込んだ話をするのが良いと思います。
なぜ買手が直接売ってくれと言ってくるのか
では、こうした直接打診が行われるのでしょうか?
それは、M&Aのしくみにも関係していると筆者は思います。
多くの中小企業M&Aでは、その相手探しにM&A会社を通すことがあります。
どこかの会社を買収して会社を成長させたい、と思っている買手となる会社は、その買収対象先を常に探しています。
でも、当然どんな会社でもいいわけではないので、「〇〇業で〇〇といった強みを持っていて、自社からも近い場所で、例えば年商は〇〇円くらい、従業員は〇〇名くらい」というような希望を持っていたりします。中には、とにかく色々な案件を見比べつつピンとくるものに出資したい、という買手もいますが、結局検討を進めてみると自社に近い(ビジネス感覚が持てる)会社や事業に収束することもあるので厳密にいえば希望が内在しているといえます。
こういう希望がある中で、対象になるような会社を探すのは非常に難しいのが現状ですので、M&Aマッチングサイトを見たりM&A会社に譲渡案件を紹介してもらったりするわけです。
そうして、希望に近いと思われる譲渡案件に辿りつく買手ですが、以下の理由で売手企業に直接交渉をしたいというモチベーションになることがあります。
理由①「M&A会社では完全にニーズがマッチしている譲渡案件がない」
M&Aをしようとしている買手の中には、希望条件が完全にマッチしていないと買収したくない、という方もいます。
こういう買手としては、M&A会社やM&Aマッチングサイトで、近い譲渡案件を見つけて検討はしてみますが、「やっぱり〇〇が違う」「もっと〇〇でないと」という気持ちになってしまい、検討を断念してしまうことがあります。
で、そう思う買手の理想というのは、実は身近にある知り合いの会社を思い浮かべて理想を描いたものであり、色々検討していく中で「やっぱり買収する会社というのは他でもなくあの会社(身近にある知り合いの会社)だな」という結論に至るというわけです。
当然その理想とする会社がタイミングよく譲渡案件として買手を探していうなんて確率は低い(探していても見つけられない)わけなので、もう直接売却ニーズがあるか聞いてみようか、となる、という流れになります。
もしくは、その会社でないとM&Aしたくないというケースです。
筆者が以前産業廃棄物の運搬を行う買手と話をした時ですが、「産廃についてはエリアがとても重要で、オセロのように自社のエリア内にあるあの会社を買収できたら、もっと効率的な事業ができる」という話をうかがったことがあります。
この買手としては、場所の関係でまさにピンポイントで特定の会社を買収したいわけなので、あれこれM&A会社やM&Aマッチングサイトで相手を見つけにいくよりも、直接その会社に打診してみようとなるのです。
理由②「M&A会社の手数料の節約」
もう一つはM&A会社の手数料を節約しようというケースです。
以前こちらでも解説しましたが、M&A会社を使うと数百万円、数千万円費用がかかります。
「M&A仲介会社の仲介手数料ランキングでどこが一番高い?」見極め方についても解説
買手の中には「M&A会社なんて紹介するだけでしょ?なんでそんなに手数料払わないといけないの?」という方もいらっしゃるので、手数料払うのもったいないから自分で相手探そう、という風に動かれる方もいます。
商売何でもそうですが、中抜きすればコスト削減できるという考え方です。
実際やってみると直接打診は大変な面もありますが、実際M&A会社を使わずにM&Aすれば手数料は払わなくてもいいですし、「相手はいるから段取りだけ仲介して」という依頼をすればM&A手数料も大幅に削減できることがあるので、トライしてみるのもアリかと思います。
直接交渉のメリット・デメリット
では、こんな感じで売手と買手がM&A検討の話になりそうになった時、売手としてはどんなメリット・デメリットがあるのでしょうか?
以下でちょっと考えてみたいと思います。
直接交渉のメリット
まず、一番のメリットとしては、知っている会社・社長とM&Aの話を具体的に詰められるという点です。
M&A会社やM&Aマッチングサイトを使って買収してくれる相手を探す場合、基本的には自分の知らない「初めましての相手」が取引相手になりますが、直接交渉の場合は既に知っている相手であることで安心してM&A検討を進められるというメリットがあります。
M&Aでは条件以外にも、既存の従業員が新しいグループになじむかどうか、取引先は理解してくれるのか、など色々心配事は有りますが、既に関係がある先であればある程度条件交渉に専念できるということもあるでしょう。
また、直接交渉の場合、売手側もM&A会社やプラットフォームへの手数料を払わなくて良いというメリットもあります。
株式の取引というのは印紙も発生しないので、一切専門家を使わなければ譲渡益(譲渡額-資本金)に対して20%程度の税金を支払うだけで取引が完結します。
(契約書のチェックくらいは弁護士を使うことはお勧めしますが)
手数料が無いことで手残りは多くなりますので、この辺は実利の部分で大きなメリットといえるでしょう。
さらに、M&A会社を使うと、相手方とのやり取りには全てM&A会社が入るようになるので、「直接やり取りした方がスムーズだし、話が早い!」と売手も買手も思っているのであれば直接交渉するのもアリだと思います。
この辺は仲介をする者の質によっても異なります。
偏った意見しか言わないM&A会社や伝書鳩をしているだけのM&A会社であればいらないと思うでしょうし、理解力のあるM&A会社が間に入り、自分が変なことを感情のまま言ってしまい取引相手に「ないわ・・」と思われてしまうようなことを避けたいのであればM&A会社を入れた方がよかったと思うでしょう。
M&A会社の質は実際使ってみないと分からないところなので判断しづらいというのは悩ましいところと思います。
直接交渉のデメリット
直接交渉のデメリットとしては、他の買手と交渉しにくくなるという点です。
M&Aでは、通常基本合意時などに独占交渉権というのを売手から買手に付与して、売手が他の買手と交渉できなくなる期間が発生することがありますが、こういう拘束的な契約が無ければ、別に売手は1社の買手とだけ交渉しないといけない(浮気してはダメ)というわけではありません。
でも、そもそもが買手から持ち掛けられた売手というのは、他の買手を見つける時間の余裕があまりなかったり、そこまで頭が回らないということも多々あるので、戦略的に他の買手とも交渉してみて・・ということが難しいケースもあります。
買手1社のみと交渉してほぼその買手の言い値で買収金額が決まってしまった場合、もしかしたら、手数料が多少高くてもM&A会社を使い、色々な買手と交渉していった方がよい買収金額になり、手取りが増えていたということもあるかもしれません。
また、M&Aの進め方が分からないというのもデメリットの一つです。
M&Aでは両社がフェアに取引する上での一定のルールがあったり、M&Aくらいでしかあまり聞かないような文言が契約書に入ったりもしますので、売手も買手もM&A初めてだと「次に何したらいいんだっけ?」となってしまうこともよくあります。
検討資料についてもどこまで出したらよいか分からず、買手からあれもこれもと言われると「そんな重箱の隅をつつくのか」と怒り出す売手もいたりします。
この結果、買収前のチェックが甘々で勢いに任せたM&AをしてしまいM&Aした後で揉めたりします。
M&Aで仲介がいると、第三者的な立場で取引をみる人間が入ることになるので、M&A後の揉めるリスクは減る可能性があるとは思います。
あとは、あまりないとは思いますが、悪意のある買手に引っかかってしまうリスクがあるというのも一応お伝えしておきます。
これは、金銭的な詐欺を働こうと近づいてくるレベルのものもあれば、M&Aの目的に嘘をついて近づいてくるようなものもあります。
会社の事業には全然興味がないけど、会社保有の不動産が魅力的だと思っている買手が、売手には「事業や従業員を責任もって引き継ぎます」と言っておきながら、M&A後早々に従業員を解雇して事業を終了させ、保有している不動産を利用するというようなイメージです。
基本的に、経営権を渡してしまうともはやどうにもならないです。
こういうことをする買手というのは、当然M&A界隈では悪評が経つものですが、そんな悪評を耳にすることがない売手は、一見すると人の良さそうな買手に騙されてしまうということも十分あり得ると思います。
このようなあたりは直接交渉をするデメリットとも言えますので、よく考える時間をまずは確保するようにしましょう。
(M&Aはある程度の期間はかかるものであるというのが常識ですので、「すぐに回答してくれないならこの話をなかったことにする」というプレッシャーをかけられたら、お断りするくらいの心の余裕があった方がよいこともあります)
いかがでしたでしょうか?
直接交渉も良い部分、難しい部分があるので、交渉していく先を想像しながら対応を考えることをお勧めします。
気心が知れた間柄の方が周りにもあまり負担をかけずに進めることもできたりすることもあると思いますので、是非この機会にM&Aに真剣に向き合ってみるというのもよいと思います。
最後までお読みいただきありがとうございました!
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