お悩み社長
ほとんどの会社オーナーさんにとってM&Aは初めての経験だと思います。
そんな初めてのM&Aでは、こちらが良かれと思ってやったことが相手にとっては「それってマナー違反なんじゃ…?」というようなことも少なくありません。
今日の内容は「絶対これはしちゃいけない」という話ではないですが、マナー的に事前に理解した上で、相手をおもんばかっていただけるとM&Aもよりスムーズに進む可能性もある内容です。
是非、最後までお付き合いいただけると嬉しいです。
それでは行きましょう!
これはマナー違反!?
こんな行為は、M&Aではマナー違反と思われることもある行為ですので気を付けましょう。
取引先や従業員にM&Aのことを喋っちゃう
M&Aは会社全体の問題だからと買手探しの前に従業員に説明してしまったり、取引先の社長とゴルフに行っている最中にぽろっと喋ってしまったりと、意外とM&Aを検討していることを周りの人に言ってしまう方もたまにいらっしゃいます。
周りの人に言ってしまうことが絶対ダメ、という事ではないですが、不用意に周囲を不安にさせてしまうこともありますし、場合によっては条件が合わないとか買手が現れないことでM&Aを断念することだってあります。
こういった話を聞いた従業員は、
「なんかうちの会社売るらしいし、どうなるか分かんないから転職でも考えようかな」
と思うかもしれないですし、こういった話を聞いた取引先は、
「このプロジェクトは重要だから、会社を売るかもしれないあの会社に任せるのはやめようかな」
と思うかもしれません。
不用意にM&Aをちらつかせることはメリットよりデメリットの方が多いと思いますので、極力家族内に話をとどめておきましょう。
売手オーナーさんの中には、「いざM&Aをするって時に反対されたら買手の会社さんにも迷惑かかるんじゃないか?」と思われる方もいらっしゃると思いますが、M&Aでは直前まで口外しないというのが一般的なので、「なんで事前に従業員や取引先に言ってないんですか?」と怒られることは無いと思っててもいいです。
もしそんなことを言われたとしても、売手側としては「M&Aが成立もしていないのに口外して会社に悪影響が出たらどう責任取ってくれるんですか?」と逆ギレしてもいい立場では本来あるといえます。
喧嘩するのを勧めている訳では全くないですが、M&Aでは過度に自分の責任だと思わずに「もし〇〇という事態になったら」という想像力を働かせて、必要以上にリスクを抱えないようにしましょう。
ちなみに、M&A実行後でないと絶対従業員や取引先に言ってはいけないかというとそういう訳ではありません。
番頭的な№2に他の従業員と同じタイミングで説明すると、「私は会社にとってそれほど重要な存在でないのか」と不満を抱えることもありますし、買手企業としても「もし、№2の方が反対して離職するとM&Aする意味が無くなってしまう」という考えだった場合にはM&A実行前に№2の方の意思確認をしたいと思うでしょう。
ここはあまりルールに縛られず、「売手にも買手にも得にならない会社への悪影響」を避けることを前提に、「売手側が過度なリスクを取り過ぎないこと」と「買手側が安心して買収ができること」のちょうどいいところを見つけていく感じがよいと思います。
トップ面談で交渉し始める
売手側の社長が「〇〇億円くらいでないと売りたくない」と言ったり、買手側の社長が「〇〇億円までなら検討できる」と言ったりというケースはたまにあります。
M&Aのお作法上トップ面談の場でお金の話はしません。
理由は色々ありますが、売手側がやたらお金の話ばかりし過ぎると、「この売主、高く売れればそれでいいのかな?」という印象を買手が思ってしまったり、買手側がお金の話ばかりし過ぎると、「この買手、一体ウチの会社の何を見て買収したいと思っているんだろう?」と売手が思ってしまうなんてことにも繋がります。
金額をドライに交渉しても問題無いような取引でない限りは、売手も買手も一番最初の面談はまずは「お互いの会社を知る」というところを目的に面談するのが無難な気がします。
あと、交渉上も、基本的に売手は「高く売りたい」、買手は「安く買いたい」の利益相反の関係にあるので、それを前提に交渉がなされることを考えると、会社の規模が相対的に小さく、M&Aに慣れていないことが多い売手側が不利になってしまうケースもあると思います。
仲介会社が入っていない直接交渉の場合は特に、金額含めた条件面についてはその場その場で即答する必要はなく、一回持ち帰って熟考した上で回答する、という姿勢がよいでしょう。
ちなみに、「今すぐ回答してくれるなら〇〇円を約束する」みたいな畳みかけをしてくる買手企業もいたりしますが、一般的な相場よりも安い提示であるケースも多々ありますので気を付けるようにしましょう。
M&Aの関連費用を全部会社経費で落とす
M&Aの交渉に際して発生する費用は、基本的にM&Aによる受益者が支払うことが一般的です。
つまり、株式譲渡であれば株主、事業譲渡であれば売手企業ということになります。
よくトップ面談の時にお土産代を渡したり、おもてなしということで売手が買手を宴席に誘うみたいな光景はよくみられますが、それを経費として売手企業の経費で落として株式譲渡をしたりすると、結果的に買手が支払ったことになってしまうので、一応その関係性は気にした方が良いです。
買収監査とはいえ直近の元帳を全部細かくチェックするとも限らないので気づかないケースもありますし、気づいてもあんまりそこまで細かく言ってくる買手はあまりいませんが、知ってモヤモヤする買手がいないこともないです。
M&Aに関連する費用なのであれば、株式譲渡代金への課税額を計算する際の支出として計上するというのが正しい姿かと思いますので、受益者は誰かを意識しながら取り組めると、買手としても「配慮していただいているな」と思ってもらうことができると思います。
引退した後に会社に関与し過ぎる
M&A後売主が引退するケースにおいて、しばらくは引継ぎの為に意見を求められることが多いのですが、きちんと引継ぎが完了できればある時点から売主が会社に関与しなくてもよくなります。
こんな中、きちんと引継ぎが完了しても、良かれと思って親切心から元いた会社に色々とアドバイスしてしまう方も結構いらっしゃいます。
悪気はないけど、なんとなく買手のやっていることに口をはさみたくなってしまうという状態です。
ありがたいと思う買手企業もいるかもしれませんが、「そろそろ自由にやらせてくれないかな」と思う会社もありますので、ありがた迷惑にならないように、引くときは引くようにしましょう。
会社に自分の居場所がなくなることは寂しいという気持ちになるのはとても分かりますが、むしろ自分の居場所がなくならないと自立できないわけなので、ここは子離れしていかないといけません。
また、逆に、買手企業が売主の厚意に甘えて親離れできないのも健全とは言えないので、引退したはずの売主をあまり拘束してくるようであればそれはある程度距離を取った方が良いともいえます。
会社を売却した後全然関与しなかったら売主の責任を果たしてない、って言われてしまいますが、関与し過ぎてもよくないケースもあるので、買手の期待値がどのくらいなのかはよくコミュニケーションをとって把握しておく必要があります。
売手としては「買手から必要じゃないって言われたら身を引くつもり」というくらいの温度感がちょうどいいのかもしれません。
逆にこれはマナーでもなんでもない
よくM&Aいろは塾にもご相談いただくのですが、「御社と資本提携をしたいと言っている買手がいる」というDMが届いた時に、「これってマナーとして返さないといけないのかな」と思ってしまう方も一定数いらっしゃいます。
これについてはこちらの記事でも紹介していますが、「マナーだと思って律儀な対応をする人を狙った仲介会社の営業」ですので、注意しましょう。
「貴社と資本提携したい」というDMは大抵ウソ、という事実
こういうDMは死ぬほど世の中に出回っているので、買手は返答がないからといって「失礼だ」とは思わないですし、あるいは、買手などそもそもいないことだってあります。
M&A仲介会社の中には、あれこれとマナーだと思わせて自分の会社にとって都合のよい方向に進めたがる者もいるので、十分に注意するようにしましょう。
仲介会社と専任契約などを結んでしまうと、売手が選んだ仲介会社を通してでないとM&Aができないと買手を拘束することにもなり得るので、ある意味、変な仲介会社を使うことが買手にとって最も失礼にあたるといっても過言ではないかもしれませんね。
いかがでしたでしょうか?
中小企業のM&Aの場合は、当事者(売手・買手)の相手方への心象が、成約に大きな影響を及ぼします。
M&Aが途中で破談になってしまうこともありますが、「相手に不信感がある」という理由も結構聞かれますので、不信感を持たれないような振る舞いや言動が重要といえると思います。
是非、友好な関係の下で成約して、良いM&Aを実現してください。
最後までお読みいただきありがとうございました!