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「仲介契約時に重要事項説明をしないのはルール違反?」悪質業者の排除につながるガイドライン改訂

お悩み社長

M&A会社からきちんとした説明がないまま仲介契約にハンコを押してくださいと迫られてるんだけど・・

 

たまにこういう業者もいます。

 

筆者もM&Aの売主さんから色々とお話を聞くことも多いですが、考えさせる間を与えずに仲介契約書にハンコを押させようとしてきたり、一方的に契約書を送りつけてきて軽いノリで押印させようとしてきたり、というような仲介会社の話は枚挙にいとまがありません。

 

仲介契約には「専任条項」という「他の仲介会社にM&Aを依頼してはいけませんよ」という条項が入っていることも多いのですが、たとえ軽い気持ちで締結したものであったとしても変な仲介会社と専任条項入りの仲介契約を結んでしまうと、M&Aをするならその仲介会社を通さなくてはならず、決められた手数料も払わないといけないという拘束を受けてしまうので、場合によっては売主側がとても損をすることがあります。

 

おそらくこういう「納得せずに仲介契約を締結してしまった」ということなどM&A会社とのトラブルも増え、中小企業庁に苦情が色々入っているのでしょう。

 

今回、2023年9月22日付で「中小M&Aガイドライン」が改訂されることになりました。

参考 「中小M&Aガイドライン」を改訂しました経済産業省

 

この「中小M&Aガイドライン」というのは、法的な拘束力こそないものの、ガイドラインに違反することでM&A支援機関の登録が抹消され、結果、その仲介会社経由でM&Aをする場合、利用者(売手・買手)が補助金申請できなくなる、というオチが待っているので、営業面を考慮すると「中小M&Aガイドライン」を守ろうと業者は考える設計になっているものです。

 

今日は、この変更された「中小M&Aガイドライン」で明記されている「重要事項説明」についてお伝えできればと思います。

 

ガイドラインで記載されている「重要事項説明」とは

 

「中小M&Aガイドライン」とは、簡潔にいうと、「悪質なM&A会社がめちゃくちゃなことをしないように、こういうルールでやりましょうね」というもので、こちらで公開されています。

参考 「中小M&Aガイドライン」を改訂しました経済産業省

 

これは、M&A関連事業者が読むだけでなく、その顧客になりえる中小企業オーナーが読んだ方がよい内容です。

 

M&Aってだいたいの方が初めてやるものなので、コンサルタントっぽい人が「M&Aでは〇〇が普通です」なんていったらそれを信じてしまう可能性が高く、そのコンサルタントがめちゃくちゃなことを言っていた・やっていたというのはトラブルが発生してから初めて気づくものです。

 

「中小M&Aガイドライン」を読めば、M&A会社の人がおかしなことを言ったときに事前に気付ける可能性が上がる、というメリットがあるので、まだ読んでいない人は是非読んでみましょう。

 

そして、今回、2023年9月22日付で「中小M&Aガイドライン」の第二版がリリースされ、前回の第一版から主に以下の変更点がありました。

 

(1)仲介者・FAの手数料の整理

M&A専門業者の手数料に関し、実務上多く用いられる算定方式(レーマン方式)について依頼者である中小企業において留意すべき点を明記し、また、設定されることが多い最低手数料について、その金額の分布状況や適用事例を紹介しています。

(2)M&A専門業者の質の確保・向上に向けた取組

支援の質の確保・向上に関し、M&A専門業者には、依頼者との間の契約上の義務の履行し、職業倫理の遵守することが求められる旨を明記しました。そのためには知識・能力の向上、適正な業務遂行を図ることが重要であり、個々のM&A専門業者や業界に求められる取組を紹介しています。

(3)仲介契約等の締結前の書面による重要事項の説明

仲介契約・FA契約に関し、M&A専門業者は、契約締結前に契約に係る重要な事項を記載した書面を交付(電磁的方法による提供も可)して、明確な説明することを明記しました。また、説明すべき重要な事項を見直すとともに、説明を受ける相手方、説明者、説明後の重要な検討時間の確保等も明記しました。

(4)直接交渉の制限に関する条項における留意点

直接交渉の制限に関する条項の留意点に関する項目を新設し、制限される候補先、交渉目的及び期間に関する留意点を明記しました。

※抜粋:経済産業省「「中小M&Aガイドライン」を改訂しました」

 

とにかく分かりやすく説明すると(正確性よりも分かりやすさを重視)、つまりはこういうことです。

(1)どのM&A会社も自分の会社が安い、みたいなアピールするけど、具体的に最低報酬額がいくらくらいのM&A会社が多いのかデータを公表しますよ

(2)仲介なのに売手や買手の利益相反になるようなことすんなよ

(3)だいたい仲介契約等はM&A会社側に有利な内容なので、その辺の重要事項をきちんと説明して、判断を焦らせるなよ

(4)売手と買手が直接交渉するのを禁止されるのは、仲介契約等の期間内だけにしろよ。あと、M&A以外の商談とかまで制限するなよ

 

今回こうしたガイドラインの変更があった、ということは、裏を返せばこういう事柄についての苦情が多いのだと考えることもできます。

 

(1)については、いままで会社毎の手数料設定で分かりづらいと評判だったM&A会社の手数料について一定の客観的データが公表されるということなので結構画期的なことです。M&A会社を選ぶ側の顧客としては「手数料が安いM&A会社を選びやすくなった」ともいえます。こちらについては、以下の記事でも詳細説明しておりますのでご参考ください。

「M&A手数料って平均はどのくらい?」中央値は500万円という事実

 

以降お伝えする(3)ですが、なんだか不動産業界らしくなってきたといえるかもしれません。

 

そのうち、重要事項説明をできる人は有資格者のみ、M&A業をするなら従業員の内有資格者が〇%以上、みたいなことが義務付けられてくるんでしょうか。。

 

 

重要事項説明の具体的な中身とは

 

今回、中小M&Aガイドラインで述べられている重要事項説明書とはどんなものか見てみましょう。

 

まず、フォーマットですが、これは中小企業庁がサンプルを提供しています。

参考 (参考資料11) M&A 仲介契約/FA 契約 重要事項説明書サンプル中小企業庁

 

主に書かれている内容は、以下のような内容です。

【重要事項】

・仲介契約と FA 契約の違いの説明

・今回の契約は「仲介」なのか「FA」なのか

・業務の範囲

・手数料について
 ✓着手金はあるのかないのか(金額、計算方法も)
 ✓中間金はあるのかないのか(金額、計算方法も)

 ✓成功報酬はあるのかないのか(金額、計算方法も)
 ✓成約しなかったときに着手金・中間金は返ってくるのか
 ✓最低報酬金額の設定はあるのか、それはいくらか
・上記手数料に含まれない実費負担はあるか

・秘密保持に関する取り決めはあるか(誰にどこまで話してよいか)

・専任条項はあるのかないのか

・テール条項(契約終了後の手数料支払義務)はあるのかないのか
・契約期間

・解約条項はあるのかないのか

・免責事項はあるのかないのか

・契約期間終了後も効力がある条項があるのかないのか

・利益相反の恐れがあるのか

 

全部重要な内容なんですが、不動産取引の重要事項説明の如く、あまりその取引に慣れていないと「なんとなく分かった感」で納得してしまうこともあります。

 

なので、これをちゃんと理解しないとこうなるよ、ということも含めて説明したいと思います。

 

仲介契約と FA 契約の違いの説明

仲介は、1つのM&A会社が売手も買手の間に入ります。M&A会社は「調整役」という立ち位置です。M&A会社は手数料を売手・買手両方からもらいます。

 

FAは、弁護士みたく、売手か買手かどちらか一方だけについて、自分のクライアントの利益の為だけに尽力します。M&A会社は「助言者」「交渉役」という立ち位置です。

 

M&A会社を自分のクライアントからのみ手数料をもらいます。売手・買手双方にFAが付くケースもありますし、片方だけのケースもあります。

 

今回の契約は「仲介」なのか「FA」なのか

M&A会社が「仲介」なのか「FA」なのかを明記します。

 

「仲介」なのか「FA」なのかで接し方を変えた方がよかったり、M&A会社が利益相反するような会社なのかを見定める機会になります。

 

仲介の立場なのに「私に任せてくれたら高く売ってきます」というコンサルタントがいたとしたら利益相反の関係でアウトです。こういう人は、買手には「私に任せてくれたら安く買いたたいてきます」と言ってくるようなコンサルタントのはずなので、信用してはいけません。

 

また、「FA」は顧客の立場で戦うので、売手側のFAであれば金額を高くしてもらえるよう交渉しますし、買手側のFAであれば金額を安くしてもらえるよう交渉します。それゆえ、ハイボールを投げすぎて交渉が破談になってしまうということも起こり得るので、「成約することを第一に」ということであれば仲介での調整事として穏便に進めるのも一案です。

 

業務の範囲

M&A会社がどんな業務を行うかを明記します。

 

「交渉」はしませんとか、「関与するのは成約するまでですよ」とかそういった内容です。

 

これは契約書文言として見ていても分かりづらいと思いますが、「トップ面談時には同席してくれるのか」とか「M&Aをする上で必要になる契約書面等についてはどういう段取りになるのか」などきちんと聞いておきましょう。中には、遠方なので両社面談は直接やってください、というようなM&A会社もあります。

 

手数料について

重要事項説明書の中で、最重要といってもよい事項になります。

 

最低報酬額が高いM&A会社は、あえてHPに記載していない会社もあるので、必ずチェックが必要です(ホントは、株価算定とかその辺のやり取りをする前に、最初の段階で最低手数料は聞いておきたいところですが)。

 

着手金有無はM&A会社によって異なります。着手金有の会社はだいたい成約しなくても返還されないことが多いので、「依頼したM&A会社が買手探索をサボって相手が見つからなくても返還されないの?」とか「他のM&A会社よりも株価算定結果が高いのは、成約しなくても着手金で稼げるから、単に気を引こうとしているだけ?」など、慎重に見定める必要があります。

 

捨て金になってもいい、くらいの気持ちで着手金を払うくらいでないと、後から気を揉むことになるかもしれません。

 

中間金の有無もM&A会社によって異なります。中間金はだいたいが特定の買手候補1社と基本合意をするタイミングで発生します。

 

払った中間金は成約しない場合返還されるのか、成約時に払う成功報酬に内入れするものか、成功報酬の〇%となっている場合の成功報酬の計算は何か、などについて確認しましょう。

 

基本合意くらいのタイミングでは、成約するかどうかわかりませんし、その後M&A取引金額が変わる可能性もあります。

 

また、当事者の気持ち的に、中間金を払うと、売手は「多少最終条件が悪くても妥協しようか」買手は「多少買収監査で見立てと違っても話をまとめるために売手の希望を飲もうか」という風に「中間金を無駄にしたくない」というバイアスが働くので、それも予め考慮に入れてM&A会社の手数料設計を理解するようにしましょう。

 

成功報酬については、概ねどのM&A会社も「レーマン料率」を採用していますが、「何の指標にレーマン料率をかけて手数料を計算するのか」と「最低報酬額」はM&A会社によって様々です。

 

例えば、どう転んでも1~2億円のM&A取引金額なのに、最低報酬額が2,500万円などと高額な設定をしているM&A会社は、手数料の計算シミュレーションを見せる時に5億円で売却できた場合2,500万円です、などと大きな取引金額で説明することが多いです。これは、1~2億円のレーマン料率5%であれば500万円~1,000万円となるところ、最低報酬額の設定があることによって2,500万円となってしまうため、「手数料高くない?」と顧客側に思われてしまうからです。

 

この辺の説明をきちんとせずに仲介契約を結んでしまい、成功報酬で「レーマン料率で5%って聞いてたのに!」とクレームになる事案もあるようです。

 

重要事項説明ではこの辺の説明もすることになるので、誤解が無いようしっかり聞いておきましょう。

 

顧客側にとって「最低報酬額」は高くて得することは何も無いです。

 

手数料に含まれない実費負担はあるか

旅費交通費や、不動産鑑定などの専門家費用、組織再編などの費用など様々です。

 

この辺はM&A会社によって様々ですが、一切負担無しですという会社は少ないと思いますし、そういう会社は先ほどの「最低報酬額」が高い可能性もあります。

 

秘密保持に関する取り決めはあるか(誰にどこまで話してよいか)

ガイドラインでは、他のM&A専門家にも意見を聞けるセカンドオピニオンも許容しましょう、ということであったり、顧問税理士などにも意見を自由に聞けるようにしましょう、と推奨されています。

 

逆に言うと、契約者が誰にも意見を聞けず(聞いたら秘密保持義務違反)、契約者の孤立を狙った悪質な契約書も存在するということです。

 

専任条項はあるのかないのか

これは、料金の次に大事くらいな内容です。

 

専任条項というのは、「M&AをするならそのM&A会社以外は使いません」という約束のようなものなので、運悪く信用のおけないM&A会社を使ってしまうと悲劇が待っています。

 

本当にそのコンサルタントの言っていることが正しいのか、の答え合わせが専任だとできないこともあるので慎重に考えましょう。ただ、あまり何社もM&A会社を増やすと、どの買手候補に打診したかもわからなくなってしまい、情報漏洩したときにどこから漏れたかもわからなくなるリスクは上がります。

 

中には「専任しかやりません」という強気なM&A会社もありますが、特定のM&A会社でしかM&Aができないわけではないので、違和感がある場合はそういったM&A会社は外しましょう。

 

「非専任(ひせんにん)でお願いします」というような依頼をすれば、そういった表記にしてもらえることもあります。

 

テール条項(契約終了後の手数料支払義務)はあるのかないのか

M&Aでは、仲介契約の期間満了後も、一定期間内に紹介してもらった相手と成約したら手数料の支払い義務が生じます。

 

これは、売手と買手が「M&A手数料払うの嫌じゃない?」って口裏を合わせて、意図的に成約させるタイミングを仲介契約期間後にする、などの防止策として設けられている条項です。

 

ガイドラインでは、テール条項の期間は最長でも2~3年で、M&A会社が紹介した相手とのみに限定されているか確認しておきましょう、としています。

 

逆に言えば、「M&A会社が紹介してない先であっても、M&Aしたら仲介契約期間後3年以内だったらお金貰うよ」という強引な内容の契約もあるということです。

 

契約期間

仲介契約等の契約期間です。

 

最長でも6か月~1年以内が目安ですが、M&A会社が紹介した候補先と交渉が継続していれば期間満了時期も延長する文言になっていることが多いです。

 

解約条項はあるのかないのか

「やっぱりこのM&A会社微妙だな」と思った時に解約できるかどうかに関する内容です。

 

良い案件であれば、M&A会社が抱え込みたがるので、顧客側の意思で解約したいといった時に解約できるかはきちんと確認しておきましょう。

 

また、違約金が発生するかどうかを明記する方がトラブルになりにくいです。

 

免責事項はあるのかないのか

どういった時にM&A会社が責任を取るのかを明記します。

 

「故意」「重過失」「軽過失」など程度は様々ですが、受け取った手数料が損害賠償の上限額になっている文言が多いかと思います。

 

契約期間終了後も効力がある条項があるのかないのか

仲介契約等の契約期間終了後も、何の効力が残るのかはきちんと確認しておきましょう。

 

先ほどのテール条項や、秘密保持義務など様々です。

 

利益相反の恐れがあるのか

「仲介」と「FA」の違い、にも関係する部分ではありますが、仲介の場合「売手は高く売りたい」「買手は安く買いたい」という利益相反が発生しますよ、ということなどについて説明する部分です。

 

利益相反するような事柄について、仲介の立場でどちらか一方に有利な助言はできませんので、改めて確認しあうものになります。

 

 

 

いかがでしたでしょうか?

 

重要事項説明を行うことで、「よくわからないけどこの人信用できそうだしいいか」といって契約締結した結果、後で揉めるということは少なくなるかとは思います。

 

ただ、M&A会社が問題のある進め方をした結果こうした工程が新しく入った、という事実ではあるので、契約内容は自分に不利益な内容になっていないか、を自分できちんと確認して進めるのが良いと思います。

 

是非、納得のいくまで契約内容や手数料を理解して、よいM&A会社と一緒にM&Aを成功させましょう!

 

 

ご参考いただければ幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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