お悩み社長
M&Aで会社や事業を売却しようとしたときに、「そんなに仲介手数料かかるの?」と思われる方も多いと思います。
仲介会社に始めから「最低でも2,000万円かかります」と言われてしまうと、「もうM&Aするのやめようかな・・」とげんなりしてしまう方もいると思いますが、筆者から言わせるとそんな仲介手数料払わずにM&Aしましょうといいたいところではあります。
ここでは、これからM&Aをしようとしている売手が払う費用は何か、ということと、その費用の内削減できるものは何か、という点について解説していきます。
筆者は、M&A仲介会社の経営者の立場で業界の内情をお伝えしていきますので、おそらく実態に近い内容を知れると思います。何でも正直ベースでお伝えしてしまうので、同業者からは煙たがられる存在ですが(笑)、業者側と顧客側で情報の非対称性が激しいのでフェアじゃないなと思って情報発信しています。忖度の無い真実が知りたい方には評価いただいています。
是非、最後までお読みいただけると嬉しいです。
M&Aの売手が払う費用ってなに?
まず、M&Aで会社や事業を売却しようとしたときに、売手側が負担する費用って何でしょうか?
売手や売手企業が直接的に払う可能性がある費用としてはだいたいこんな感じです。
① M&A業者への手数料(これが大半)
② 税理士への手数料
③ 弁護士への手数料
④ その他専門家への手数料
⑤ 登記費用、印紙代
⑥ 交通費、宿泊費等
⑥ その他
色々項目がありますが、金額的にいうとダントツで①M&A業者への手数料が大きいです。
なので、①さえ安くできればトータルコストはグッと抑えられるので最優先でやりましょう、という結論になりますが、一つずつ解説していきます。
①M&A業者への手数料
M&A業者というとざっくりした言い方ですが、ここでは「M&A仲介会社」と「FA会社」を言うことにします。あなたの会社に山のように届くDMの送り主と考えてもよいでしょう。
M&A仲介会社は基本的に売手と買手双方から仲介手数料を徴収するので、売手もいくらか仲介手数料なる手数料を払うことになります。FA会社は売手か買手どちらかについて助言などを行う立場なので、売手FAを雇う場合は手数料が発生します。
売手が払う額面ベースの手数料で比べると、仲介手数料よりもFA手数料の方が高額になります。たまに仲介会社がFAをやっているケースもありますが(筆者はこれをなんちゃってFAと呼んでますが)、ここで設定手数料は「仲介手数料<FA手数料」となっていることがほとんどです。業者としては片手からしか手数料取れないですからね。
この手数料はいくらくらいか、というと、ざっくりというと、上場仲介会社で最低仲介手数料が2,000万円越程度、全M&A業者の分布を見ると最低仲介手数料500万円が中央値になっています。
詳しい手数料額はこちらの記事でもまとめていますのでご参考ください。
「M&A仲介会社の手数料一覧表」決定版!! 「M&A手数料って平均はどのくらい?」中央値は500万円という事実
②税理士への手数料
常にという訳ではないですが、たまにM&Aの売手側で税理士への手数料支払いが発生することがあります。
費用が発生するのはどんなシーンかというと、例えば、仲介会社や買手から資料請求を受けた時の対応や、買手による買収監査で顧問税理士として同席を求められた時の対応、M&A条件を決める際のご意見番対応、みたいなシーンです。
仲のいい税理士だったり、「長年お世話になっているから」とタダでお手伝いしてくれることも少なくないですが、しっかり請求してくる税理士もいるので実際費用が発生するかどうかは税理士によります。
株式譲渡で会社ごと売却して、個人の確定申告は別の税理士ということであれば、M&A成立と同時に顧問税理士とも疎遠になったりもしますが、そうでない場合は今後も税理士との付き合いは続きますので、そういう関係性も考えて費用請求されるかどうかの話にもなったりします。
③弁護士への手数料
M&A取引というのは基本的に契約書の取り交わしになるので、契約書に不備がないか、依頼主にとって著しく不利な内容になっていないかをチェックするために、売手が売手側の弁護士を雇うことがあります。
平成16年から弁護士報酬は自由化されているので、どのくらいの報酬がかかるかは弁護士によるところですが、訴訟事案のように「経済的利益の~%」といった旧日弁連の報酬表のような手数料の取り方をする弁護士はあまりM&Aのリーガルチェックでは聞かず、「~時間~円」といったタイムチャージで報酬設定していることが多いです。あるいは固定か。
企業法務、とりわけM&A法務の実務経験を積んでいる弁護士とそうでない弁護士がいるので、その経験値によっては、「正直あまり経験がないのでお受けできません・・」と言われることもありますし、料金で調整します、と言われることもあります。
筆者の感覚的には、だいたい1時間2~5万円くらいの報酬設定で、最終契約書のリーガルチェック+ちょっとしたやり取りで累計数時間といった所要時間での対応が多いような気がします。この関与の場合、バックヤード的な関与なので、買手側の弁護士と交渉するみたいなことはしません。
④その他専門家への手数料
だいたいの案件は、税理士・弁護士で完結しますが、そうでないケースもあります。
例えば、労務系の業務の多くを社労士に任せているような場合では、買手の買収監査で社労士も同席してほしいと言われることもありますし、M&Aに併せて給与所得が発生するような設定があれば給与計算の必要性も出てきます。
また、例えば、M&Aで売却する資産に不動産があった場合、不動産の評価額を見定める場合に不動産鑑定士に売手の費用で依頼することもありますし、会社を分割してからM&Aという組織再編絡みのM&Aの場合は、別途組織再編コンサル(税理士がやっていることが多い)や司法書士への報酬が発生することがあります。
まあ、あまりこれらの専門家を必要としないケースの方が多いので、最初はあまり気にしなくても良いかもしれませんが、これらの専門家に費用を払ってでもスキームを考えた方が節税に繋がるということもあるので、この辺は上手くアレンジするM&A業者がいた方がスムーズです。
⑤登記費用、印紙代
M&Aで経営者が変更になる場合は、M&A後に代表者の変更登記が発生します。場合によって、買収監査で定款の変更が必要と判断されればそれも同時に行うこともあります。
こうした登記費用は、M&Aにかかる費用として売手・買手の折半ということもあります。実際はM&Aする会社が費用計上するのですが、その分売手への譲渡金額を調整するなどします。買手が太っ腹であれば、買手の負担でやってくれることもあります。
また、事業譲渡の場合は、株式譲渡と違い、譲渡契約書に印紙を貼ります(売手と買手でそれぞれ一部用意し、それぞれ貼付します)。
1億円の譲渡で6万円の印紙、5億円の譲渡で10万円の印紙代という金額感なので、受け取る金額に比べればそれほど負担感は感じにくいかもしれませんが、これも売手・買手の折半が基本なので一応認識しておきましょう。
⑥交通費、宿泊費等
これは敢えて書く必要もないくらいですが、売手がM&A業者や買手の事務所に行く、ということがあればその交通費、宿泊費が発生します。
とはいえ、買手と直接交渉するようなM&Aでなければ、M&A業者や買手が売手側に出向くというのがお作法的には一般的なので、売手がわざわざ足を運ぶということは少ないケースもあります。
M&A業者から「一緒に買手の事務所に出向きましょう」みたいなことを言うこともあまり無いと思うので、売手が「どんな買手か事務所を見てみたい」といった申し出がなければ、M&Aが実行されるまで一度も買手企業に訪問したことなかった、なんていう案件もままあったりします。
⑥その他
M&Aで売手が直接負担する費用は、上記が主なものですが、他にも「M&Aマッチングサイト」の費用など費用がかかるものがあります。
売手にとって「M&Aマッチングサイト」は買手を探すために使うサイトですが、メジャーなマッチングサイトは大体売手無料だったりするので、無料で使用できるということも少なくありません。
他、「表明保証保険」というような、M&A後不測の事態があった時の保険に対する保険料というものもありますが、加入がマストでないのと、仲介手数料に含めている仲介会社もあったりするので直接費用を負担するケースはあまり多くないと思います。
以上、売手が負担する可能性のある費用の説明です。
でも、M&Aの仕組みからいうと、買手がM&Aにどういった費用がかかっているかも無視してはいけません。
買手側からM&A取引を見ると、買手側がM&Aにかかる費用があればそれも加味して買収価額を考えるものなので、例えば、「この会社1億円の価値だな、でも、M&Aするのにかかる費用が仲介手数料やらで1,000万円かかるから売手には9,000万円の提示をしよう」という感じで、間接的に売手が買手の費用を払うことになるのです。
買手がM&Aで支払う可能性のある費用とは、上記の売手の費用に加えて買収監査の費用などがあります。この費用感は買手によってまちまちですが、上場会社の買手やファンド絡みの買手の場合では細かい監査を行うことも少なくないのでそれなりの費用を捻出します。
ただ、買手の費用項目の中でも仲介手数料が一番の経費になるので、買手手数料が高い仲介会社が買手を探してしまうと、どんなにいい買手であっても売手への提示額が下がる、ということが起きます。
「M&Aに係る費用を抑えたい!」と思っている方は、そうしたM&A取引の全体像までイメージして考える必要があるということですね。
削っていい費用と削ってはいけない費用
ここからが本題です。
前述のようなM&Aで発生する費用の内、削っていい費用と削ってはいけない費用は何か考えてみます。
削っていい費用
まずは、削っていい費用とは何か、です。
これはダントツで「①M&A業者への手数料」です。
なぜダントツか、というと理由は3つあって、一つは「売手が負担する費用の中でダントツで大きい比率を示すものだから」ということと、もう一つは「料金とコンサルタントの質が必ずしも比例しない」ということ、最後に「売手への手数料を高く設定している業者は、買手にも高い手数料を設定しているので、提示額が減少・成約率の減少を招く可能性があるから」ということです。
近くにM&A業者を使ってM&Aをしたという方がいれば一度聞いてほしいんですが、ほぼ間違いなく「M&A業者への手数料が一番高かった」と言うと思います。
上記の②以下の費用はどれだけかけても100万円もいかないような水準感の中、M&A業者の手数料は中央値で500万円、中には2,000万円とか3,000万円という最低手数料を設定していたりするので、それはそうなるはずです。
確かに、M&Aについて右も左も分からない中でM&A業者は接触頻度も多く、頼りになることもあるので、高い手数料を払っても仕方ない、と思うかもしれませんが、それにしてもみんな手数料払いすぎだなあ、と筆者は思います。
じゃあ、仲介手数料をあまり払わないでいい仲介会社にすると、「サービスが悪いのではないか?」「結果売買代金が下がるのではないか?」「おかしなM&Aを斡旋されて詐欺に遭うんじゃないか?」と言い出す方が現れますが、これはただの先入観です。
サービスの良し悪しは結局担当者ガチャですし、M&Aで受け取る金額を考えれば手数料高い大手・中堅の仲介会社を使えば減りますし、最近詐欺に遭っているという売手の多くが大手・中堅の仲介会社を使ってM&Aをしたばかりに被害に遭っています。
M&A業者の設定している手数料水準とは、M&A支援機関の登録情報などを見ていただくと分かりますが概ねM&A業者の規模に比例しています。でも、担当するコンサルタントの経験や能力とは比例していません。なので、大手の仲介会社に依頼したものの担当コンサルタントが頼りなく不利益を被ったという話は枚挙にいとまがないわけです。
というか、コンサルタント目線でいえば、M&A仲介はやってみると超属人的な仕事だと皆気づくので、仕事ができる人から大手・中堅の仲介会社を去り、自分で会社を立ち上げるんですよね。なので、M&A業者全体を見てみると、経験と能力のあるコンサルタントがやっている小規模M&A会社(手数料安)と、未経験も結構混ざっている大手・中堅のM&A会社(手数料高)という構図になっていることに気付きます。
「それでも大手の方が安心だから」というのであれば筆者は止めませんが、手取金額をわざわざ減らして成約確率を下げる可能性がある中、わざわざ手数料の高い業者を選ぶのはあまり合理的とはいえません。買手を探す能力があることを期待しているなら、手数料の安い業者で買手が見つからなかった後に依頼すればいいのではないかということです。もちろん安い業者ならどこでもいいと言っているわけではありませんが。
その他削れる費用は、「③弁護士への手数料」あたりかと思います。
筆者はこれまでに様々な事案に依頼する側として弁護士探しをしてきましたが、弁護士は本当にピンキリです。
M&A業者とよく似てますが、質が悪くても手数料が高い弁護士もいれば、質が良いのに手数料が安い弁護士もいます。正直当たりはずれが大きいです。
M&A法務は少し特殊なので、いくら名門の法律事務所に依頼してもあまりM&A法務に経験のない弁護士が担当すると手数料が高いのに微妙な対応だな、ということはあります。それであれば、個人でやっているような弁護士でも実際のM&A案件で法務DDを多数経験しているなら手数料が安いのに的確なアドバイスをしてくれるということもあるわけです。
M&Aで負うリスクを考えると弁護士費用は決してケチるべき費用ではありませんが、高い報酬を払ってもよい弁護士とは限らないので、逆に言えば質がいいのに費用を削減できるチャンスもあるということです。
また、「④その他専門家への手数料」も削減の余地はあります。
例えば、売手側で不動産鑑定士を雇って不動産鑑定をしたとしても、買手がそれを真に受けてその鑑定結果通りに評価してくれるわけではありません。「意図的に周辺の高い売買実績を利用していないか」などと見てくる可能性も普通にあります。
だとすると、売手が行う不動産鑑定というのは、鑑定結果があれば一応合理的に不動産価値を示すことができる程度の位置づけ、ということになります。
であれば、買手と共同で不動産鑑定士を雇って両社にとってフェアな鑑定をしてもらいましょう、という展開もあるわけで、この場合の費用は折半でよかったりもします。
M&Aで組織再編が伴う場合、実務を行う司法書士はマストですが、別途コンサルが必要かどうかも費用削減の一つのポイントです。
ちょっと難しい話ですが、例えば、組織再編を行う際に税制適格で行うところ非適格になってしまうと、組織再編をしただけで課税関係が発生してしまうなど取返しが付かないこともあるので、安全にやった方が良いですが、これもコンサルによって費用はピンキリなので、できるだけ実績と経験があって料金の安いところに依頼しましょう。あと、金融機関との調整が必要になる案件の場合、その辺まで関与してくれるかどうかも料金と併せて確認しておきたいところです。
削ってはいけない費用
一方で、M&A費用で削ってはいけない費用もあります。
あくまで筆者が思うところですが、「②税理士への手数料」は削りにくいと思います。
顧問税理士に足元を見られて費用請求されている時は別ですが、それでも、顧問税理士に見放されている中M&Aを進めるのはしんどい時はあります。
買手が行う買収監査はあくまで「買手が満足する水準の監査が行えること」がマストになります。これが満たされないと、最終契約まで至らず途中で取引が白紙になることもあります。
仕訳を売手の会社内でやっていれば、経費の詳細について聞かれても売主で回答できるとは思いますが、例えば、「どういった会計基準で計上しているのか?」というような質問が来たときはどうしても顧問税理士先生回答をお願いします、みたいな話になってきます。
顧問税理士がM&Aに協力的で、「このくらいの役員退職金だと手取額が増やせるからこういう投げかけを買手にしてみましょう」という売手の提案のところまで入り込んでくれると、売手にとっても実際の利益に繋がります。
M&Aをした後も、例えば、今期は分離課税でたくさん納税するので、ふるさと納税で上限〇〇円までいけます、とかまで提案してくれる税理士だったら本当に重宝した方がいいと思います。
お金を払ってもそれ以上のメリットがあるということも結構あるような気がします。
これから売られる会社で顧問をやっている税理士の立場としては、時にM&Aに否定的な意見を言うケースがあったり、非協力的な態度を取るケースもあったりするので、この辺の接し方は上手くやるのが良いでしょう。
また、「⑥交通費、宿泊費等」は大した額ではないので、むしろ積極的に買手に訪問しましょう。
最近起こっている買手によるM&A詐欺は、買手の実態を掴めないままM&Aをしてしまっていることも原因の一つではあるので、M&A前に実際に買手企業に行ってみた方がよいと思います。M&A業者から自主的に「買手企業に行きましょう」とは勧めないことが多いので、ここは売主から自発的に言った方がいいです。
実際に買手に行けば、どういうモチベーションで社員が働いているか分かりますし、事業の内容もなぜ買収したいかも腹落ちできるチャンスがあります。また、買手が過去に買収した会社があれば、買収されると実際どうなるかも肌で感じることができますので積極的に見させてもらうべきです(でも勝手に行くのはやめましょう。買手に許可を取り一緒に行くのがマナーです)。
他、間接的な費用を意識する意味では、売手がM&Aプラットフォームに掲載するとき、いくら売手の手数料がタダだからといっても掲載するプラットフォームは選んだ方がよいです。
M&Aプラットフォームは買手側から手数料を取る設定になっていることが多いですが、この買手手数料が高いと、そのM&Aプラットフォームから接触してくる買手の提示額が低くなってしまうからです。
買手は色々なM&Aプラットフォームを併用していることも多いので、できるだけ手数料の安いプラットフォームで出会う方がお互いにメリットがあるわけですね。
一気に色々なM&Aプラットフォームに登録するのではなく、買手も含めたコストが安いM&Aプラットフォームから順に登録していくのがよいでしょう(一気に色々なところからオファーがくると対応も大変ですし)。
いかがでしたでしょうか?
最近では、仲介手数料も成功報酬で最後に支払う手数料体系を採用している業者も増えているので、売手にとってはあまり負担感なくM&Aは始めやすいと言えます。
ただ、業者選びを失敗すると最後にガサっと取られて手残りがわずかになってしまう、というケースもありますので注意が必要です。
どのような業者が良いか、選び方についての情報などもこのブログで色々と発信していますのでご参考ください。筆者に相談いただいても構いません。
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