お悩み社長
「最近M&A業界も荒れていることから問題のある業者って規制されないの?」とお考えの方もいると思います。
中小企業庁では中小M&Aガイドラインを設置し、健全なM&Aが行われるように動いてきていますが、それでもなおM&A業者をめぐる問題は後を絶たないという状態です。
「貴社を買収したいクライアントがいる」という嘘っぽいDMは未だにきますし、「本当にコンサルタントなの?」と疑問に思うような方が担当者になることもあるのが現状です。
もちろん中には高い倫理観を持って、誠実にM&A仲介などをしている業者もあるのですが、主に宣伝・広告の部分で不特定多数の会社に問題のある営業をしている業者が悪目立ちしていることもあり、M&A業界全体が問題のある業界、と見られていることは、同業者としても非常に残念だなと思います。
今回取り上げるのは、「M&A仲介協会」についてです。
ウソDMなど虚偽広告についても規程として取り締まっていこう、という動きでもあるので、取り締まりの内容などもお伝えできればと思います。
M&A仲介協会とは
M&A仲介協会とは、2021年に設立されたM&A仲介業を行う一部の仲介会社が参加している一般社団法人です。公的な機関ではなく、民間の会社が共同で参画している組織です。
当初は、仲介の正会員で入会金200万円・年会費200万円という料金設定もあってか会員数が少なかった印象はありましたが、その後、入会金100万円・年会費100万円、現在ではM&A支援業務専従者の従業員数×2万円と価格改定をしつつ、入会案内をしているという状況です。
似たような団体で2010年に設立された「一般財団法人日本M&Aアドバイザー協会」というのもありますが、こちらは設立が古く、入会金3万円・月会費1~3万円という設定で、M&A契約書面のフォーマットが共有されていたり、知識向上のためのカリキュラムもあったりと充実していることから小規模なM&A業者含め多数の入会者がいます。
これらはM&A仲介会社というわけではなく、そのような業者が集まっている団体です。団体によってコンセプトや料金が違っていたりもしますが、「M&A仲介協会」というのは、主に対顧客・対同業者に対して倫理面・コンプライアンス面などの観点で統一化を図っていこう、という働きかけをしている感が強い団体になります。これはユーザーファーストな考え方に繋がるところもあるので良い取り組みかと思います。
記事作成時点で、M&A仲介協会ホームページに掲載されている会員は以下の通りです。
幹事会員:
・M&Aキャピタルパートナーズ株式会社
・株式会社ストライク
・株式会社日本M&Aセンター
正会員(仲介会員):
・インテグループ株式会社
・株式会社AGSコンサルティング
・株式会社M&A総合研究所
・株式会社M&Aベストパートナーズ
・株式会社オンデック
・株式会社経営承継支援
・株式会社CBホールディングス
・名南M&A株式会社
・株式会社レコフ
正会員(金融会員):
・いわぎんリサーチ&コンサルティング株式会社
・株式会社沖縄銀行
・株式会社鹿児島銀行
・株式会社三十三銀行
・株式会社肥後銀行
・ワイエムコンサルティング株式会社
協賛会員:
・東京海上日動火災保険株式会社
・三井住友海上火災保険株式会社
今後「買手がいます」というウソDMは無くなる?
M&A業者がきちんとM&A業務を行うようにというガイドラインは既にありますが、M&A仲介協会はもう少し踏み込んでいるところが特徴です。
目新しい内容としては以下のような項目です。
不適切な方法で他のM&A仲介業者と比較して自己の報酬額が安価であると誤解を与える行為を禁止
M&A業者のホームページを見ると、「弊社は他仲介業者と比べて非常にリーズナブルです」というような趣旨の記載があることがあります。
ただ、よく見てみると、比較する対象も各社バラバラで、単に高い仲介会社を並べて安いですと言っているだけの業者もあれば、M&AプラットフォーマーがM&A仲介会社と比較していたり、最低報酬額は表示させず完全成功報酬だから安い、というロジックでアピールしている会社など様々です。
事実としての価格を表示してそれが安いということや、業者間で適正な価格競争が行われることは問題ではありませんが、「安価ではないのに安価そうに見せている」というのが問題です。
顧客側の立場としては、こうした様々な論法で手数料をされると非常に混乱するはずですし、いざ仲介会社に連絡をしてしまうとゆっくり比較することなくその仲介会社に丸め込まれてしまうという危険性があります。
以前からこのあたりは議論があった部分ですが、会員は報酬基準(報酬基準額、報酬率、報酬の発生時点、最低手数料を含む。)をウェブサイトにおいて一般公開しないといけない形に規程されたので、上記会員企業においては、お問合せする前にウェブサイトで料金を確認することができるようになるかもしれません。
この点、顧客側としてはM&A業者を比較しやすくなるのでとても良い取り組みだと思います。
こちらの記事でも紹介していますが、中小企業庁がM&A業者全体の設定している手数料を統計データとして公開しているものもあるので、こういった公的機関が出している確かな情報を参考にして、料金とサービスの内容、担当コンサルタントのレベルはどうかなど、細かい部分を比較検討していくのも納得感のある業者選びに繋がるかと思います。
「M&A手数料って平均はどのくらい?」中央値は500万円という事実
虚偽又は誤解を与える可能性のある広告を使用して、顧客を自社に不当に誘引することを禁止
これは、いわゆる「貴社を買いたい会社がいる」DMも該当するように思います。
こちらの記事でも長らく取り上げておりますが、こうしたDMも今後減っていくかもしれません。
「貴社と資本提携したい」というDMは大抵ウソ、という事実
M&Aに関するDMや手紙、電話は本当に節操が無く、会社だけでなく自宅にも送り付けるM&A業者もいますし、受電者が「もう電話してくるな」と言っているのに別の担当者・番号から再度電話してきたり、誰もが見れる会社のお問合せフォームから連絡してくるM&A業者もいます。また、開封率を上げるために敢えて封筒に会社名を記載せずに送り付けてくる、手書き風のDMにしてみる業者もおり、あらゆる手を使ってしつこい営業してくるのがM&A業者、というのが世間からの見られ方といっても過言ではないような気がします。
一般常識からも逸脱している今の現状を変えるために、同業間でそういう営業はやめましょうというのは意義のあることだと思います。
ただ、注意しないといけないのは、こういう広告・営業上の業者間の取決めというのは、守らない者が得をしてしまう構造がある点です。世間から厳しい目で見られながらも買手をちらつかせる営業が無くならないのは、実際にそれで乗ってしまう売手がいるからに他ならず、広告・営業上の業者間の取決めを守らない者が得をするということが常態化すると、ひいてはこの取決めも形骸化していく、という展開になりかねないからです。
なによりもまず、売手が「虚偽又は誤解を与える可能性のある広告」にはのらない、というのがこうした営業を減らすには最も効果的だと思います。
ちなみに、こうした規制を嫌がるM&A業者はM&A仲介協会に入りたがらない可能性はありますが、M&A仲介協会員ではないからたちまち悪い業者か、というとそういうわけではありません。
そもそも、DMや電話などを介して営業をしている業者もあれば元々していない業者もかなり多いからです。そもそも、DMや電話営業というのはある程度資金を投じないとできない営業手法でもあります。
なので、M&A仲介協会員であるM&A業者が、M&A仲介協会員ではないM&A業者について、「あの業者はM&A仲介協会員ではないので質の悪い業者です」というようなネガティブキャンペーンを顧客に対して行うようなことがもしあれば、それはそれで顧客に誤解を与える行為に当たるといえるので、どのようなケースであれ不確かな根拠で顧客を誘引するというのはM&A業者が気を付けないといけない内容となります。
過度に主観的な表示の禁止
具体的な根拠もなく高いサービス満足度などを強調して顧客を誘引するなど、過度に主観的な表示も禁止とされています。
世の中には依頼者に都合のよいリサーチ結果を出す会社もあり、それをもとに「〇〇№1」とアピールするM&A業者がいます。
「順位」を付けるのであれば定量的に比較可能なものでなくてはならず、公開している成約件数で№1など客観的かつ定量的に確認しやすい内容であれば問題ないと思われますが、「イメージのよさ№1」など抽象的なテーマでアピールしていたり、どこでどう調査したのか不明瞭なものであったり、こじつけに近いような理屈で№1にしていたりとなってくると、M&A業者を選ぶ上で判断を誤る可能性もあるので、取り締まるのがよいと思います。
ここについては、M&Aのみに関わらず、不適切な方法でランキングを作成している調査会社や、不正確な部分を含む広告を出すことを許している広告媒体側を取り締まる必要もあるかと思います。
他にも様々な規程がありますが、内容的には、最もな内容も多く、顧客を保護するものとしても必要なものと思います。加えて、不正競争防止法を守りましょう、等の業者間のルールという意味合いの規程も多い内容となっています。
不正競争防止法は、顧客を取った取られた・フリーライドされたというような民事事件で争うような内容もありつつ、秘密情報を漏洩した・食肉偽装したなど刑事事件に発展するようなものもあります。
顧客を取った取られたという話は顧客にはあまり関係が無いですが、M&A業者のリスクとして従業員までそういったリスクが共有されていない場面もあるので、自社内のコンプライアンス教育にも役立つ内容のように思います。
売手はどういったメリットがあるの?
では、こういった取り組みによってM&A業者を選ぶ側である売手はどんなメリットがあるのでしょうか?
これから本格的な動きとなっていくと思いますが、以下のようなことがまずは挙げられると思います。
より客観的な情報でM&A業者を比較できるようになる
今まで、実際に問合せするまで手数料が分からないことが多かったM&A業者が、問い合わせする前にホームページで手数料を確認できるようになるかもしれません。
これはとても有益なことです。
手数料については、概ね以下の情報を確認できるようになると、実際に問合せするまでもなくどのくらいの費用がかかるか、どのくらいのリスクがあるのか事前に分かるようになります。
・着手金の有無、金額
・中間金の有無、金額(中間金は成功報酬に内入れできるか否か)
・成功報酬の有無、金額
・着手金、中間金は破談になった場合に返金されるか
・成功報酬が発生するのは、最終契約締結時か、それともクロージング時か
・成功報酬の計算方法は何か(レーマン方式なら具体的に何を基準に、何%掛けるのか)
・最低報酬額はいくらか
・月額報酬の有無、金額(最低)
・その他費用はかかるか(株価査定や企業概要書作成時や、交通費宿泊費など)
現時点でもよくあるのが、最低報酬額を明記しないという業者だと思うので、ここが事前に分かると「最低でも〇〇円はかかる」ということが分かります。
また、読み手に誤解を与えない内容にしようとすることで、より客観的な事実等に基づいてM&A業者の営業活動や広報活動がなされる可能性もあり、顧客側としてはより合理的にM&A業者を選別できるようになる可能性もあります。
禁止されるくらいなので規制内容は実際に起こっていることとして認識できる
M&A仲介協会の規程は一般にも公開されているため、誰でも見ることが可能です。
中には、利益相反の具体的な行為の詳細が推測できるような内容もあったりと、M&A当事者(売手・買手)が知っておいた方がよい内容もあります。
普通の倫理観を持ち健全な仲介者であればまずやらないだろう、ということばかりではありますが、実際に行われている実情もあると思われるので、依頼したM&A業者の不審な動きにも気付けるというのはこうした規制内容を読んでおくメリットもあると思います。
M&A仲介協会の規程に限らず、中小企業庁の出している中小M&Aガイドラインなどもそうですが、顧客側もそういった知識を付けることで業者に騙されるという確率を減らせるはずなので、是非取り組まれる前には一読されることをお勧めします(全ての業者が高い倫理観を持てば本当は良いのですが、、)。
最後までお読みいただきありがとうございました。
お問合せ