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買手がいて借金がチャラになるのに会社売却を思い留まる売主

お悩み社長

M&Aで借金の重荷から解放されるなら1円譲渡でも検討したい・・・

 

こういった方も結構多いです。

 

でも、いざ本当に買手が興味を示し、交渉が進んでいったとき、「やっぱり売るなら多少お金もらえないと」と突然言い出す売手オーナーさんがたまにいます。

 

その背景としては、「今後の生活を考えると多少手元にお金無いと生活できないよな・・・」と考えてしまうところにあります。

 

1円譲渡とは一般的に1株1円ということになるので、1円×株数しか譲渡対価として受け取れません。

 

ほぼタダでの譲渡に等しいので、ある程度個人に蓄えがないと老後に心配になってしまう。また、M&Aに併せて役員を退任して今後役員報酬も無いとなれば収入も無くなるので、いきなり生活苦になる。

 

でも、M&Aを諦めたからといって、今会社に残っている借金を返すためにまた会社を立て直す気力もアイデアもない。

 

困りますよね。

 

でも、ここには画期的な解決法など基本的にありません。「自分で立て直すか」「誰かに頼るか」です。

(あくまで、会社を売るか売らないかという判断をする上で中間は普通無い、という意味です)

 

今日は実際にあった事例をもとに、M&Aを取り組む際にしておく心構えについて考えてみたいと思います。

 

借金が多くても買手がつくことはある

 

以前、このような記事を書きました。

「借金が多いと会社って売れないの?」M&Aを進める上での注意点

 

借金が多い会社でも、それを全部まるっと引き取ってくれるようなM&Aができる可能性もゼロではありません。

(成約しやすいかしにくいかでいえば、借金が多いと明らかに「成約しにくい」ですが、成約しないか?と言われれば成約することもある、というニュアンスです)

 

ちょっと実際にあった事例をご紹介します。

 

以前、筆者は、借金が多く債務超過でかつ役員報酬をカットしても赤字の会社様のM&Aのお手伝いをしたことがありました。

 

当初ご相談に来られた際、売主は「借金さえなくなればもう他に臨まない」と仰っており、筆者も株価算定をした上で「債務を引き継いでいただけることを最終のゴールとしてM&Aを進めてみましょう」という感じでお話をお受けしました。

 

中小企業のM&A市場ではそれなりに人気業種ではあったので事業に関心を示してくれる買手が現れましたが、借金の大きさに検討辞退が続出。

 

ただ、1社だけ売主の境遇に共感し、かなり無理をしているような印象でしたが、債務を全て引き受けるという前提で1円譲渡を進めようと言ってくれた買手が現れました。

 

まさに、渡りに舟、地獄に仏、日照りに雨です。

 

ですが、売主はしばらくその買手の回答を保留にした後、筆者へ「やっぱり色々と考えると多少色を付けて売却できないと生活が難しい」という返事がきました。

 

当初から債務を引き継いでいただけることを最終のゴールにする、というのは売主と筆者で十分に話合った上で設定した目標でしたし、M&A後に収入がなくなる点については「売却後は仕事が無くなるが、技術もあるのでサラリーマンとしてどこかで働く」という話もされていたので、筆者的にも寝耳に水でした。

 

よくよく考えたら今の年齢で再就職が厳しいと思われたのかもしれません。

 

結局、売主の意志は固く、売主に共感してくれていた買手も「爪を伸ばすのあれば・・」ということでM&A検討を見送り、新しい買手も現れず、お蔵入り案件になりました。

 

未上場株式の場合は、株主が「売らん」と言えば取引はできないのでどうしようもありませんが、今後「やっぱりM&Aしたい」と思った時にできなくなっていたとしたら、これはもったいない話かもしれませんね。

 

どう考えても売る場面だけど今後の生活を考えると売れない売主

 

ここで紹介した売主のような方は、意外と1円譲渡前提の案件では多かったりもします。

 

理由は様々ですが、年齢が高齢だったりすると再就職が難しいとか、年金だけじゃ生活できないとかもあると思います。

 

あとは、今の生活水準を落とすくらいだったら、今の状態のままのらりくらり経営して、最後は借金を残したまま会社を潰して自己破産すればいいや、みたいな人も実際います。

 

筆者はそもそもお金を借りている金融機関に「この人きちんと返済できるのか」と思われながら生活するのは嫌ですし、「従業員の今後の雇用なども含めて会社としての尻拭きをするのが経営者の役目」だと思っているので、そういった責任を全うするよりも自分の目先の利益を優先してしまう方には正直共感できないところですが、1円譲渡でも買手が付かない会社が多い中、奇跡的に良い買手と出会えたチャンスを活かさないのはもったい無いことだと本人が感じなければ、なかなか自分の置かれている状況を把握できないかなとも感じたりもします。

 

この辺は、個人個人の責任感の違いによるところだと思いますので何とも言えませんし、何が正解とは何とも言えません。

 

ただ、筆者としては「借金が多いのに買手が買収意欲を示してくれることをすごく幸運なことである」「こういうチャンスは逃すともう訪れない可能性も高い」ということを知っていただきたいなと思ったりもします。

 

仲介会社と契約する前に1円譲渡が行われた時の腹積もりはしておく

 

ちなみに上記の事例では、仲介契約を解除する際、筆者はそれまでに動いた工数分の費用を少額ではありましたが売主と協議した上で頂きました。

 

費用をいただいた理由としては、「1円譲渡でなく、多少の売買価格を付けないとM&Aをしない」という売主の意向を最初から教えてもらっていたのであれば筆者側が最初の段階でお断りしていたということもありますが、売主側が動いてもらったのに申し訳ないという気持ちもあったのでいくらか支払いますということを言っていただきました。

 

一般的なM&A仲介会社は、仲介契約書の中に、買手が原因でも仲介会社が原因でもない売主都合で検討を一方的に辞める場合は、それまでに発生した諸費用や人件費等は請求させていただきます、と記載されていることが多いです。

(上記のケースはこの内容とは少し違いますが、売主も自分で言っていることがおかしいと感じられた様子でしたので、この内容に準じて処理しました)

 

売主からしてみたらこうした支払いは本来払わなくてもいいコストです。

 

M&Aを始める前にこの辺りについてよく考えた上で進めていれば、時間もお金も無駄にしなくてよかったわけなので、「迷っていても仕方ないから取り合えずM&Aを進めてみよう」でなくて、「自分はいくらでないと納得できないのか」「上手くいったときは〇〇する」「〇〇(時期)までに上手くいかなかったら〇〇する」ということを考えておく必要があったかと思います。

 

この辺は心構えの観点からも意味があります。

 

もし「M&Aが成立しても今後の生活が苦しくなるなら嫌だなぁ」という想像が前もってできるのであれば、「それくらいだったら、重い腰に鞭打ってでももう一度奮起してやろう」という考えにもなるかもしれません。

 

M&A仲介会社などから株価の算定が出た段階で、一度色々な想像をして腹決めして、仲介会社を選ぶ、という進め方が良いかなと思います。

 

 

いかがでしたでしょうか?

 

自分がどう頑張っても返すことができない借金を引き継いでもらう、というのは、どんな会社でもできるものではないので、もしそのような機会に恵まれた方は、買手に感謝して、会社が立て直せるよう出来るだけのことをしてあげるという姿勢が大事かなと思います。

 

あと、倒産して自己破産することが将来待っているのに前向きに頑張るなんてことは難しいとも思いますので、整理できるものは整理できるうちにして、新しい人生を送れるようにするのも精神安定上いいかなとも思います。

 

借金で苦労された経営者時代だったかもしれませんが、学ぶことも多かったはずなので、次は高い価値で評価される会社を作ることができるんじゃないかな、とも思ったりします。

 

最後までお読みいただきありがとうございました。

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