・会社を売ろうとしている会社の内、年商1億円規模の会社がどのくらいあるか
・年商1億円の会社に対してつけられる株価の相場
・年商1億円規模の会社はどうやってM&Aを進めたらよいのか
息子が会社を継がない、新しい事業をしたいなどの理由で会社の売却を考えた時、親族以外への譲渡(M&A)を検討されることもあるかと思います。
M&A会社がCMやチラシを入れているけど、年商1億円の会社が実際M&Aを行えるのかは気になるところです。
ここでは、年商1億円の会社がM&Aに取り組むとどうなるのかを解説したいと思います。
※業種によって年商1億円の規模感は異なりますが、話を分かりやすくするためここではひとまとめにしています。
年商1億円でもM&Aは可能か
結論から言うと可能です。
中小企業のM&Aでは、年商1億円の規模感の会社を好む買手もたくさんいますので、双方のニーズが合えばM&Aが成立することもあります。
それが証拠に、年商1億円の規模感の会社になるとこちらで紹介しているようなM&A仲介会社からのDMや電話もたくさん来ているでしょう。
「貴社と資本提携したい」というDMは大抵ウソ、という事実
とてもざっくりですが、中小企業のM&Aをメインに仲介していますという仲介会社で扱う企業の規模はこのくらいの規模なイメージです。
年商規模 割合
10億円以上 10%
5~10億円 10%
3~5億円 20~50%
1~3億円 20~50%
1億円未満 10%
M&Aの仲介業というのは、案件規模が大きければ大きいほど手数料収入も大きいので、仲介会社の売上は年商5億円以上の会社のM&A仲介による手数料収入で成り立っているともいえる収益構造です。
なので、どの銀行や仲介会社もそのいわばスウィートゾーンである年商5億以上を狙ってDM・電話の営業活動をします。もちろん、そうはいっても年商100億円以上のM&Aや上場会社のM&Aをサポートできるかというとそこは手掛けません。また違うM&Aの専門業者の領域になります。
なお、5億円以上を狙っているとは言え、それよりも小さい規模の顧客層が多いというのは、単純に企業の数が小さい程多いという関係があるためです。
このような感じの割合なので、年商1億円で会社を売りたいとM&Aの仲介会社に行くのは全然お門違いではありません。
むしろ、日本にある会社の内、90%弱が小規模事業者(サービス業であれば従業員5名以下など)なので、年商1億円以下の会社の方が多いはずです。
ただ、証券会社やメガバンクなどに「会社売りたいんです」とかいうと、「うちでは取扱いが難しいですね」と連携している小規模専門のM&A会社を紹介されたり、大手仲介会社の中では「着手金もらえるなら対応しても良いですよ」みたいな上から目線の対応を受けることは実例としてもよくあります。
ちなみに、M&Aの相手方になる買手については年商数千億の上場企業でも、年商数億のオーナー企業でも、エンジェル投資家のような個人でも、相手方としては可能性はあり得ると思いますし、実際に実績もあります。
相手選びで重要なのは、どんな買手が良いかと売手の先入観で相手を絞って検討するのではなく、自社に興味を持ってくれる会社はどんな会社だろうと広く探し、興味を持ってくれた会社とシナジーについて議論を交わすのがよいです。この方が成約確率は高いですし、思わぬシナジー効果が発見できることも多々あります。
年商1億円の会社の株式価値はどのくらいなのか?
一つのモデルケースを以下の通りと仮定します。
総資産 50,000
(内、現預金 10,000、有利子負債 30,000)
純資産 10,000
売上高 100,000
売上原価 70,000
売上総利益 30,000
販管費 20,000 (内、減価償却費 3,000)
営業利益 10,000
このような会社で、ざっくり3,000~4,000万円が会社の譲渡価格になります。
細かい説明は別の機会で説明しますが、純資産+営業利益2~3年くらいがよくM&A仲介の現場で言われる年買法の指標です。
※年買法が価値算定で必ず正しいとは言えませんが、感覚的に理解しやすい方も多く株価算定の話をする際によく出ますのでここでは取り上げています。
どうでしょう?
意外と安いなぁと思われる方も多いかと思います。「年商1億円も売り上げているのに!」と仰る方もいるかもしれません。
もちろん、簿価に乗っていない資産も会社にはあるので、買手企業との交渉でのれんがもっと乗るケースもあります。なので、あくまでこのくらいの価格は、「相手方がびっくりしないというフェアバリュー的な価格」と捉えていただければと思います(実際筆者がお手伝いした案件でも、純資産0、営業利益が700万円の会社が最終的に7,000万円で成約した案件などはありました)。
株式の価値というのは本当に曖昧なものですし、筆者の感覚的には、どちらかというと小規模のM&Aのほうが一般的に言われるフェアバリューから振れ幅が大きい印象です。
退任する役員の役員報酬は実質営業利益とみることもでき、その額は会社決算における影響力があることなどもそうなっている原因かもしれません。
とは言え、「年商1億円もあるんだから1億円で譲渡できるだろう!」などという勘違いすると、うまくいくM&Aもうまくいかなくなります。
基本的にはM&Aも買手からみたら投資なので、営業利益ベースでどのくらい収益力があるのか、買手企業は買収後何年で投資額を回収できるのか、の観点で見るほうが常識と言えます。
ここで一点注意点ですが、いきなり銀行やM&A仲介会社に株価試算させずにまずは一般的な株価を自ら計算してみることをお勧めします。銀行やM&A仲介会社の中は基本的に受託したいスタンスではあるので、少し高めに株価を見せて受託の方向に持っていく、という会社もあるからです。
年商1億円の会社はどうやってM&Aを進めたらよいのか
年商1億円もあれば、自分で相手を探して交渉するもよし、銀行やM&Aの仲介会社に持って行っても良し、です。
でも、基本的にM&A仲介会社の手数料は高いです。
こちらの記事でも紹介しましたが、仲介手数料で最低でも5,000万円中抜きされたりするので、選ぶ業者を間違えるとM&A成立しても全然手残りが無い、なんてことになりかねません。
「M&A仲介会社の手数料一覧表」決定版!!
銀行やM&A仲介会社に依頼する場合
ただ、上の例だと3,000~4,000万円の譲渡価格なわけなので、5,000万円も仲介手数料で中抜きされてしまうとむしろマイナスになってしまいます。
マイナスになるっていうのは、M&Aが成立すると、譲渡代金を受け取るはずが、仲介手数料で全て消え、さらに仲介会社に対して借金をするようなイメージになります。
これだったらわざわざ大変な思いをしてM&Aなどせず、会社を清算させた方がよいかもしれません。
あくまで、理論株価をベースにして、「最低報酬額がいくらなのか」に焦点を当てて、手残りがいくら欲しいかを基準に依頼する仲介会社を選びましょう。
筆者がおすすめするのは、最低報酬数百万円くらいでやってくれる会社に依頼し、「経営引継ぎ補助金」という国の補助金を合わせ技で使う方法です。
補助金の概要についてはこちらの記事をご覧ください。
「M&A仲介手数料で使える!」令和2年度の事業承継・引継ぎ補助金まとめ(続報)
譲渡価格3,500万円、資本金1,000万円とすると売手だけの話でいえば手取り額はこんなにも違います。
仲介手数料2,500万円の会社に依頼した場合の税引後手取り額:797万円
仲介手数料300万円で補助金を使った場合の税引後手取り額:2,912万円(+2,115万円)
自分でM&Aする場合
筆者は基本的にM&Aは自力で行うのは結構難しいと思うのでできるだけコスパの良い仲介会社にお願いすることを勧めていますが、自分でやってみようという方もいるかと思います。
そういった方はこんな感じで進めてみるといいでしょう。
・自社の紹介資料をまとめる(業務内容、組織、財務情報など)
・M&Aプラットフォームなどで買手を探索
※プラットフォームの使い方で困ることはあまりないと思いますが、どんな買手に当たるかは分からないのでできるだけ多くの 買い手と同時並行で交渉することをお勧めします。
※バトンズやトランビなどのプラットフォームは案件情報が誰にでも見られる設定もあるので情報の出し方に慣れていない方には少しリスクがあります。
・具体的に交渉が始まったら税理士に相談しながら株価が妥当か検討する
・株式譲渡契約書や事業譲渡契約書などの最終契約書はスポットで弁護士に診てもらう(これは絶対)
※これは超重要な契約なのでお金払ってチェックしてもらう方が結果安上がりだと思います。
※標準的なひな形はネットに転がっているので、独学で学ぶのもアリだと思います。
M&Aの契約書には、表明保証とか完全合意とかあまり見慣れない内容も盛り込まれるので、都度ググりながら意味を理解しておくようにしましょう。「まあ、この人(買手)は裏切らなそうだからいっか」と安易にハンコを押さないようにしましょう。経営権が移った後ではもうどうにもできませんので。
いかがでしたでしょうか?
年商はあまり気にせず、会社の将来やオーナー自身の気持ちを大切に考えて進められればよろしいかと思います。
後悔しないM&Aを目指しましょう。
最後までお読みいただき有難うございました。