「M&A相談するなら銀行の方がいい?」
銀行からM&Aを進められている会社のオーナー様からたまにご質問をいただきます。
「銀行のほうがうちの会社のことよく知ってそうだ」
「融資に影響が出たらいやだなあ」
銀行の場合は、債権者という一面もあるので、気軽に相談できるか、というとそういう会社ばかりではないでしょう。
でも、バンバン営業してくるM&A仲介会社は信用できない・・。
結論としては、費用面では実際どっちもどっち、提供するサービスはそれほど大きく変わらずなので、きちんと仲介として対応できるようであれば選択肢に入れてもいいでしょう。
ただし、最初に知っておいた方がよい注意点がいくつかあります。
筆者は、もともと銀行で勤めていた経験もM&A仲介会社に勤めていた経験もあるので、業者側の本音の部分をお伝えできると思います。
銀行がM&Aを勧める理由
銀行が顧客に対してM&Aを勧める光景が増えてきました。
筆者が銀行員をやっていた時代では、
「お客さんに対して会社を売る提案をするなんて失礼だと言われるぞ」
という事なかれ主義の上席者なんかがいて、積極的にM&Aの営業なんてしないことが多かった気がします。
でも、近年では、支店長自ら来社され、事業承継の話などをしてくるケースも多くみられます。
この理業の腹の内について解説すると、こういう理由があると筆者は思います。
M&Aにノルマがある
銀行の営業とはノルマまみれです。
融資量の獲得はもちろんのこと、新規融資先の開拓、預金量の獲得、預かり資産の獲得、コンサル手数料の獲得、クレジットカード申込の獲得など。
実際に筆者もやっていましたが、リアルに10円禿げができそうでした。
会社として売上・利益を上げるというのならまだしも、「メンツを維持するためだけのノルマ」なんかもあったので、筆者的には気乗りしなかった記憶があります。
まあ、それはともかくとして、M&A仲介の受託件数や成約件数についてはそういうノルマになっている銀行もあります。
メインの融資先などを中心に、「事業承継ニーズをきちんと把握しているのか」「M&A仲介につなげて手数料両手取りできるか」などの商機を捉えるように支店や営業店に指示が出ているなら、支店長から法人営業担当にニーズの芽を拾ってこい、と指示が出ることもあります。
筆者が聞いたとある銀行では、支店の主要融資先のM&Aの動きを事前に察知できず、M&A仲介会社経由で仲介を進められてしまい、成約と同時に融資も全額返済されてしまったことがマイナス評価され、支店長が転勤(降格)になったということもあったくらいです。
実際のノルマがあると、成約件数ノルマ・成功報酬ノルマが課せられれば成約しそうな会社にアプローチををかけ、アポ取得・受託件数ノルマが課せられればとりあえずM&Aニーズがありそうなところにアプローチするでしょう。
M&A仲介をして成功報酬がほしい目的
銀行がM&Aを推進する目的で大きいのは「仲介手数料を稼ぐ」というところにあります。
日本は長らく低金利が続いていましたので、金利で稼ぐ融資では利益が出しにくかったことから、コンサルのような手数料ビジネスに触手を伸ばしてきました。
そこでM&A仲介というわけです。
M&A仲介は成約すれば数千万という売上が立つため、一躍稼ぎ頭のビジネスとなりました。
銀行側も、最初は紹介者としてM&A仲介会社に売手を紹介して紹介料をもらうというケースも多かったですが、もっと大きい利益を確保するために、M&Aを仲介を行うということも増えてきました。
この際、大手仲介会社などでの進め方を踏襲することが多いです。
なので実際やってることはM&A仲介会社と変わらないです。
でも、コンサルの報酬についていえば、銀行にいたら過激なインセンティブを稼ぐというのが難しい部分もあるので、銀行で経験を積んだ人がM&A仲介会社に転職していく、というケースも珍しくはありませんね。
融資の返済に懸念があるため
実は、この会社は融資返済できるのかな?という会社もM&Aの営業先になります。
というのも、融資の返済が厳しい会社でも、M&Aをすれば親会社の資金を持って返済できる可能性もありますし、返済できるだけの譲渡対価が支払われればM&A後に一旦返済してきれいにすることもできます。
融資懸念先が減り、手数料収入にもなるなら一石二鳥。
さらに買手側も自行取引先なら買収資金融資で一石三鳥。
という具合です。
もちろん、返済が苦しいということは、事業自体がうまくいっていない・利益も出ていないということもあるので、高い金額で売却できない・そもそも買手がつかない、ということも普通にあると思います。
あくまで、上手くよい条件で売却できたら仲介をした銀行も売主もハッピーという話です。
銀行にM&Aを依頼するメリット・デメリット
銀行にM&A仲介を依頼するメリデメについて、銀行もM&A仲介会社も働いたことのある筆者はこう考えます。
銀行に依頼するメリット
・「おかしなことをしなさそう」という安心感がある
・紹介される買手と銀行取引がある可能性がある
・個人補償や担保解除まで先回りで対応してくれる可能性がある
以下の記事でも紹介していますが、売主が被害者になるM&A詐欺は昨今いくつか発生しています。
紹介された買手とM&Aをした後で、買手が会社から現金を抜き取り音信不通になり、金融機関借入の個人保証に残っていた売主に返済義務が発生する、という事件です。
売主が被害者にならないためには、M&Aをする前に金融機関に個人保証解除の調整進め、M&Aと同時に個人保証を解除するといった進め方をする必要があります。
銀行が仲介という立場に入れば、少なくとも自行の融資については、保証人変更などもM&Aのフローの中で整理してくれる可能性があります。
また、買手企業もその銀行の融資先なのであれば、少なくとも決算情報は持っているはずなので、お金のある買手なのか、最近の業況はどうなのか、グループ会社と不可解な資金の流れはないか、くらいはその気になれば調べられることがあります。
もちろん、買手の内心までは銀行もわからないので、紹介される先が絶対問題ない、とまでは過信しないほうが良いです。
銀行に依頼するデメリット
一方、銀行にM&Aを依頼するデメリットとしてはこのようなものもあると思います。
・自行の融資先である買手を優先して紹介してくる可能性がある
・自行で仲介せず仲介会社に斡旋することがある
・融資では依頼されなかった内部資料を色々出さないといけない
これは売主からは見えにくい部分ですが、銀行が仲介者として買手をリストアップする際に、自行の取引先を買手として優先的に紹介したがる可能性があります。
というのも、M&Aが成立すると、買手企業の資本力によって、売手企業に残った融資は返済される可能性があるため、融資量が減ってしまうのは面白くない、となってしまうからです。
銀行にとってのベストパターンは、
「買手に新規融資が生まれる」→「そのお金でM&Aする」→「M&A仲介手数料を売手・買手から受取る」→「売手企業の融資は残る」→「大金を手にした売主が投資資産を買う」
みたいな流れです。
できるだけこういう流れにするためには、打診する買手候補を自行の取引先にするのが都合がよいわけです。
売主としては、できるだけ買手候補の選択肢は広げたほうが、取引条件が良くなる可能性もあるわけなので、もし銀行がこういう動きをした場合は機会損失になる可能性が出てきます。
なので、銀行にM&A仲介を依頼するならなおさら、仲介会社など毛色の違う仲介にも同時に仲介を依頼して候補先を出させたほうがよいこともあります。
ちなみに、M&Aを依頼すると融資が不利になるというのは一概に何とも言えません。
銀行の「貸し渋り・貸し剥がし」は金融庁の監督対象でもあるので、露骨に「M&Aするから新規融資はしない」などという話には、筆者はならないと思います。
ただ、M&Aをする上では、融資以上に会社の内部資料や経営方針なども共有する必要があるため、そこで伝えている内容と融資の申し込み内容の整合性はみられるなど、多少気を遣う部分はあるかなと思います。
銀行に依頼するコスト
銀行にM&Aを依頼するとどのくらいコストがかかるのでしょうか?
結論からいうと、M&A仲介会社と大して変わりません。
メガバンクなどであれば最低報酬で2,000万円超もざらですし、地方銀行でも最低報酬で500万円以上、場合によって2,000万円超の設定の銀行もあります。
手数料の観点で、敢えて銀行を選ぶ、というメリットは筆者はあまり無いと感じます。
手数料については、M&A仲介会社もそうですが、各社全然違う設定をしており、場合によると何倍も差がつく可能性があるので、まずは手数料を調べて計算してみて、いくつか絞った上で、きちんとしたM&Aコンサルができるかどうかを確認しにいく、というのがよいでしょう。
M&A業者の手数料のリアルな情報については、以下の記事でまとめていますのでご参考ください。
まとめ
ご参考いただければ幸いです。

