お悩み社長
令和7年1月24日、中小企業庁はM&A DX社に対してM&A支援機関の登録取消を発表しました。
参考 M&Aに係るトラブルの発生を踏まえた対応について(外部サイト)中小企業庁財務課
簡単に説明すると、中小企業のM&Aに関するガイドラインを守ることを宣誓したのにこれに反する行為を行ったため、中小企業庁から登録取り消しの処分を受けた、という話です。
実際には、M&A DX以外にも不適切な買手を紹介したなどでいくつかの登録機関が中小企業庁から注意を受けていたりもしますので、そもそもM&A業界って大丈夫なのかという疑念を持つ方も少なくありません。
ここでは、M&A DXの事例をみつつ、M&A仲介会社に依頼するのは危険なのか、どういう点を見分ければよいのか解説していきたいと思います。
なぜM&A DXはM&A支援機関の登録取り消し処分を受けたのか
M&A DX社がM&A支援機関の登録を取り消された理由については、
「中小 M&A ガイドラインにおいて求める善管注意義務に反する行為が認められたため、本日付けで登録を取り消すこととします」
と公表されています。
これだとよくわからないですが、一部報道では、
「M&A DX社の仲介事例で、買い手に買収資金が払えない疑いがあることを売り手に伝えず、結果的に株式代金も払われなかった。専門家でつくる第三者委員会にも諮り、登録業者が守るべきガイドラインで定めた善管注意義務に反すると判断した」
という理由も報道されています。
問題のある買手との仲介をし、仲介者としての善管注意義務を果たさなかった責任を取ることになったという趣旨に読めます。
M&A業界では、当ブログでも次のような記事で取り上げましたが、買手が売手を騙すような事件にM&A仲介が関与していたことも公になってきており、仲介者の責任がどこまでかはかなりホットな話題になっています。
実際のところ、こうした事件で仲介に入っている会社は他にもありますが、なぜM&A DXだけが登録取り消し・実名公表という厳しい処分になったかは、他の仲介会社との差分があったのではないかと推測できます。専門家でつくる第三者委員会がどんな顔ぶれかは分かりませんが。
多くのM&A詐欺事件の仲介で名前の挙がっている会社は、「問題のある買手だと思わなかった」と善意の第三者という立場を貫いていますが、M&A DXについては「資金力に疑いのある不適切な買い手企業であることを認識していた」ような報道もされていたので、この立場の違いが処分の重さの違いにつながったのかもしれないな、と勝手ながら筆者は予想しています。
M&A DXはヤバい会社だったの?
結論からいうと公的機関から登録取消処分を受けた会社であることは事実です。
M&A DXという会社は元々「株式会社すばる」という会社でした。
代表の牧田氏は公認会計士で、当初は比較的士業感を出して営業されていたような印象が筆者はあります。
筆者は実際とある飲み会でこの会社の幹部の方とお話したこともありましたが、規模拡大も図っていたとは見られ、他の大手仲介会社と同様にDMや電話営業などもしていたと認識しています。
業界内では拡大中の中堅仲介会社的なイメージを持つ人が多かったかなとは思いますが、特別事件を起こすところまで問題のある会社という印象はなかったです。
(もちろん、営業は盛んだったので、単に迷惑だなと思っていた会社もあったとは思いますが)
ただ、今回の事件をきっかけにM&A DXの社内事情なども世に知られることになり筆者も知ることになりました。
一方で、M&A業界における極端な成果主義というのは筆者が依然から問題視していた部分なので、その点は特段驚きはしなかったです。
極端な成果主義の雰囲気は正直M&A業界全体にあるのは事実ですし、今回のみならず過去にもこういうM&A業界の風土が問題を起こしたこともありましたから(上場仲介会社の不正会計問題など)。
要は、成果への圧力があるなかどこまで会社と個人が倫理観を保てるかに委ねられている部分もあり、行き過ぎてしまうと社会問題化しているなという印象です。
M&A仲介会社については、異常に稼げたり、営業が過剰だったりということなどから全部ヤバいと思われがちなところもあります。この辺について詳しく説明した記事も参考までに載せておきます。
問題のある他の業者へもイエローカード
今回発表された内容では、実名公表されているM&A DXの他に、「不適切な譲受側とのM&Aを支援したM&A支援機関6社に注意を発出した」とあります。
これらの先に対しては、適切な対策が図られなければ登録継続が認められず、対策を図るまでの間「事業承継・引継ぎ支援センター」との連携の停止との処置ですが、実名までは公表されていません。
筆者は某事業承継・引継ぎ支援センターの集まりに参加したりもしますが、事情により参加していない仲介会社が出たという話も直接聞いているのでどこの仲介会社かも察していたりはしますが、人当たりのよいコンサルがいる会社でしたので意外だなと思った記憶があります。
また、中小企業庁は過去には不適切な譲受側とのM&Aを支援した15社のM&A支援機関に対して注意したということもありました。
しかし実名で公表されるまでは至っておらず、何が是正されたのかは筆者もよくわかりません。
どういう会社が関係していたが独自に取材している以下のようなメディアもありましたが、筆者は真偽のほどはわかりません。
いずれにしても、不適切な譲受側とのM&Aが実現すると売手が被害者になるので、仲介会社に対して社名を公表するなどもう少し厳しくてもいいんじゃないかなと筆者は思います。
売主からしたらどんな基準でどんな買手を紹介されるかも分からないことも多い中、不適切な買手を紹介した事実があったなら売主も知る方が有益と考えるからです。
なぜ国の登録機関なのに問題を起こしたの?
なぜ国が認めた機関なのにこうした問題が起きてしまったのかをシンプルにいうと、
どんな会社でも簡単に登録できる制度だから
だと筆者は思います。
筆者の会社でもM&A支援機関の登録はしましたが、ガイドラインを遵守する誓約書を書くくらいの話で、何か審査を行った感じはしませんし、周りの同業者も最初の登録時点で落とされたなんて話を聞いたことがありません。
実際に登録された業者は数千社(者)にも上ることから、厳正なふるいをかけて登録機関を決めているわけではないと予想できます。
そもそもきちんとしたM&Aを提供しているかというのは非常に抽象的で個別事情によるところも大なので、この仲介会社はOK、この仲介会社はダメとは言いにくい部分もあります。
なので、どちらかというと広く登録させて、問題を起こしたら罰則、という運用になっているのかもしれません。
ということは
今登録されているM&A支援機関は、国が認めた機関だから安心とまでは言えないと思ったほうがよい、ということです。
過去M&Aいろは塾にご相談に来られた方でも、M&A支援機関に登録しており、M&Aに関する書籍も出しており、SNSなどでも情報発信しているようなM&A仲介会社の代表に、M&Aが成約していないのにも関わらず成功報酬を請求してこられた、という方もいらっしゃいましたが、そんなこともからも「M&A支援機関だから安心」とは言えないな、と感じます。
結局仲介会社に依頼するのは危険?
じゃあ、M&A仲介会社に依頼すること自体にリスクがあるのでは?と思う方もいるでしょう。
これについて筆者の考えは、「M&A仲介会社はリスクを抑えることも高めることもある」という考えです。
M&A仲介会社であれば「いえいえ、M&A仲介会社を使わないともっと危険ですよ」とポジショントークする場面なのかもしれませんが、筆者は正直にいいます。
M&A仲介会社がM&Aのリスクを抑えるケース
仲介会社を使うと相談相手ができることなるので、買手の異常な言動について相談することができます。
担当コンサルの経験値が浅い場合を除き、通常コンサルは色々な案件を経験しており、色々な買手と接しているので、買手側の異変に気付きやすい面もあります。
実際、筆者も怪しいなと思う買手とやり取りしたことは何度かありますが、「なんでそんな質問してくるんだろう」と思うことも幾度とありました。
そんなとき、M&A業界で起きている買手による詐欺事件のスキームが頭に入っていると、質問の意図やM&Aの狙いについて推測することができます。
そしてそこが先読みできるとどういう回答をするとこの狙いを正確に捉えることができるな、などの推測もできたりするわけです。
しかし、仲介会社を使わないとこういうアラームは立ちません。全て自分で解決する必要が出てくるわけです。
これは難しいと思います。
よほどM&Aに慣れている売手でなければ、「M&Aではこれが普通ですよ」と買手に言われて正論で言い返せる売手はそれほど多くないからです。
最近ではAIにM&A相談をするという人も増えていますが、この第六感的なセンサーはなかなか真似できないと思います。
M&A仲介会社がM&Aのリスクを高めるケース
一方で、仲介会社がM&Aのリスクを上げるケースもあります。
それは問題のある買手と見抜けず逆に売主に勧めてしまったり、買手の異変に感づいていたのに成約を優先して売主に勧めてしまうといったケースです。
売主としては仲介会社の後押しがあると「〇〇さんも言っていることだし」と納得しやすくなる傾向があるので、誤った方向が更にひどくなるという可能性もあります。
大げさに聞こえるかもしれませんが、過去M&A業界で起こる倫理観の欠如などといった問題は、コンサル個人や会社が成約を優先したために起こった事例も実際多いです。
成約させなければいけない、手数料を稼がないといけない、というプレッシャーと常に戦っている人々なので、成約を阻害するようなことに直面すると急に見る目が曇ることがあるわけです。
ましてや、確証が持てないくらいの疑惑のために、ディールを中断したり壊すというのは彼らにとって非常に勇気のいることなのです。
なので、仲介会社がガイドラインを遵守するといっても、M&A仲介協会なる団体を作ったとしても、資格制度で資格を創設したとしても、負わされてる数字のプレッシャーがなくならない限りこうした問題が仲介から無くなることはないのではと筆者は思っています。
仲介会社というのは良くも悪くも売主の背中を押す存在でもあるので、場合によってリスクが増えるということは覚えておきましょう。
最後までお読みいただきありがとうございました。
方法論としてM&Aの詐欺師を見抜く方法はないか、という点についてはこちらの記事もご参考ください。
なお、本記事は中小企業庁の公表資料および各種報道を基に執筆しています。個別の事実認定については各社の正式発表や報道内容をご確認ください。
このブログでは、忖度なく、M&Aでおかしいことにはおかしいと問題提起している内容になっているので、実際M&Aでは何が問題なんだろう、という疑問への答えになるかもしれません。疑問に思っていることの答えが無い場合やご質問などあれば下のお問い合わせフォームよりお問合せ下さい。


